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Baa,Baa,Baa. | Jun 26, 2026
【Today’s Pick】EverlaneとQuince:明暗を分けたD2Cの行方
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。
The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。

🐏 Baa,Baa,Baa. | Jun 26, 2026
Today’s Headlines
EverlaneとQuince:明暗を分けたD2Cの行方
PradaがKatz’s Deliで仕掛けた夜
ドットケーキは新たなドバイチョコレートだ
日本で広がる「Zine」ブーム
Beyond Meatがプロテインドリンク市場に参入
Olive Youngの米国1号店に長蛇の列
0ドルで作品を届けるアートフェア
国民的通過儀礼としての「哲学試験」
📢 Next Sheepcore | Coming Jun 29
#092_Sheep スーパーファン・エコノミー
Taylor Swiftのライブを追いかけて世界を飛び回る人々。推しのために何十枚ものアルバムを買い込むK-popファン。そして、そうした熱量に乗ろうとするファッションブランドたち。「スーパーファン」現象は今や、エンターテインメントの一側面、あるいは単なるマーケティング手法を超えて一つの経済圏を形成しつつあるが、その本質はビジネス現象として片付けられるものではない。孤独と断片化が進む時代に、スタジアムに集い、仲間と言語や儀式を共有するスーパーファンたちの姿は、人が古来、共同体に求めてきたものと静かに重なって見える。熱狂の構造と影、そしてスーパーファン経済の向こう側に透けて見える、現代の「意味と帰属」の行方を掘り下げる。
🐏🐕
1. EverlaneとQuince:明暗を分けたD2Cの行方
「透明性」やサステナビリティを掲げたD2CブランドであるEverlaneのSheinへの売却は、価値提案の陳腐化と拙速な拡大志向が招いた転落を象徴する出来事となった。同じく価格の透明性と高級ブランド風の商品提案を武器としてきたQuinceが、年商10億ドル超、企業価値100億ドル規模へと成長を遂げているのとは対照的だ。Quinceは、カシミヤセーターから寝具、サプリメント、ダイヤモンドまで幅広い商品を展開し、「高品質を低価格で」という価値提案を一貫して守ってきた。Everlaneが高級路線や「Quiet Luxury」への転換を図る中で顧客ニーズとのずれが生じ、結果的に規模拡大にも失敗した一方、Quinceは実利重視の姿勢を貫き差別化に成功した。商品が模倣であるとの批判や知的財産をめぐる訴訟にさらされながらも成長は加速し、2026年第1四半期の米国売上は前年同期比で倍増。近年はA$AP Rockyとのコラボや著名スタイリストの起用などブランド価値の向上にも取り組むが、根強い支持の源泉は、SNS上の「手頃な価格でラグジュアリー感が得られる」という口コミからも明らかだ。消費者の関心は独自のデザイン性よりもコストパフォーマンスにあり、物価高や景気不安で中間層の購買力が圧迫され中価格帯ブランドの多くが苦境に立つなか、「価格は適正、品質も十分」というシンプルな訴求が幅広い支持を集める。勢いを失ったEverlaneとは対象的なQuinceの躍進の裏には、現代消費者の優先順位への徹底的なフォーカスがある。
2. PradaがKatz’s Deliで仕掛けた夜
Pradaが主催する巡回型文化プロジェクト「Prada Mode」の第14弾が、ニューヨークで開催された。初日の夜、老舗デリ「Katz's Delicatessen」で開かれたオープニングイベントには著名人やインフルエンサーが集結し、パストラミサンドやデリ料理を楽しみながら交流した。当日はニューヨーク・ニックスのNBAファイナルとも重なり、スコアを気にしながら会場を後にするゲストもいるなど、独特の熱気に包まれた夜となった。今回の目玉は、ホテル・チェルシーで行われる、ゲームクリエイターの小島秀夫と映画『ドライブ』のデンマーク人監督ニコラス・ウィンディング・レフンによる共同展示だ。母国語を異にする二人が映像と音楽を通じて築いてきた友情をたどる内容で、オープニングイベント翌日には詩人でPradaアンバサダーのアマンダ・ゴーマンを交えて「癒やしとしての退廃」というテーマのトークセッションも開催された。グランドマスター・フラッシュがDJを務めるアフターパーティーも深夜まで盛り上がり、文化・アート・ファッション・エンターテインメントを横断する夜となったが、このイベントの華やかさの裏側にあるのは、ラグジュアリーブランドをめぐる環境変化だ。現代の消費者が文化的な探求を通じてセンスやステータスを示すようになるなか、ブランド側も映画制作支援や文学サロン、アート展示といった活動を通じて新たな顧客層との接点を広げ、存在感を維持しようとしている。PradaやMiu Miuはその動きを牽引するブランドとして知られており、そうした戦略の重要な一環として開催されたのが今回のPrada Modeなのだ。
3. ドットケーキは新たなドバイチョコレートだ
近年、SNS発のフードトレンドとして全米で注目が急上昇している「ドットケーキ」。バタークリームのフロスティングに細かなスプリンクル(ノンパレル)で覆ったシンプルなケーキで、VogueやFood & Wineなどの大手メディアが「ドットケーキの夏」と特集を組むほどの社会現象となった。ロングアイランド発祥の「The Dotcakes」はマンハッタンで1個11ドルで販売され、開店前から行列ができるほどの人気ぶりだ。PubilxやCrumblといった大手ブランドも便乗商品を展開し、全米各都市で模倣品が続出しているが、実態はまったく新しいものではない。ドットケーキは以前から2ドル程度でパナデリア(メキシコ系ベーカリー)で販売されてきたメキシコの伝統菓子「コルタディージョ(別名:メキシカン・ピンクケーキ)に酷似しており、多くのメキシコ系アメリカ人がこのブームを嘲笑するのも、無理のない話だ。クロナッツやドバイチョコレートと同様、ドットケーキもSNSとメディアが既存の食文化を「新発見」として再消費させるバイラルトレンドの最新版に過ぎない。
4. 日本で広がる「Zine」ブーム
紙の出版市場が縮小し、AIやSNSの普及によって従来の出版業界への逆風が強まるなか、日本では自主制作雑誌「Zine(ジン)」や自費出版への関心が高まっている。日本の書籍・雑誌販売額は1996年のピーク時からわずか4割の水準まで落ち込み、新聞発行部数も半数以下にまで減少した。一方で自費出版市場は拡大を続け、2025年度の市場規模は4年間でほぼ倍増となる約1,500億円と推計される。既存企業も市場にあわせて変化しており、京都では新聞社が購読者減少で余剰となった印刷設備をクリエイター向けに開放し、若手から高齢者まで幅広い世代の表現活動を支えている。東京で開かれたZineの即売会には多くの来場者が集まり、写真やイラスト、個人的なエッセーなど多様な作品が並んだ。アルゴリズムによって好みに最適化されたSNSとは異なり、Zineは多様な価値観や世界観と出会える場として支持されており、東京・神保町の老舗書店が個性的なテーマを求める読者層を意識してZineの取り扱いを拡大するなど、商業的な広がりも見せている。写真家や作家からは、紙媒体には手触りや質感を通じて創作者の情熱を直接伝えられる魅力があり、人と共有しやすい開かれたメディアである──そしてそれはAIには決して再現できない──という声も聞かれる。デジタル全盛の時代だからこそ、「紙にしかない温かさ」を求める人々の存在がアナログ文化の再評価を静かに後押ししているのだ。
5. Beyond Meatがプロテインドリンク市場に参入
かつて植物性代替肉のパイオニアとして「食の未来」ともてはやされた「Beyond Meat」は、社名を「Beyond」へ改め、プロテイン配合の炭酸フルーツ飲料「Beyond Immerse」を今夏に投入する。上場した2019年には235ドルまで上昇した株価は現在1ドルを割り込み、同社は経営危機に直面している。失速の根本にあるのは、代替肉が「文化戦争」の標的となったことだ。筋力志向のインフルエンサー文化の台頭や、RFKジュニア率いる「MAHA(Make America Healthy Again)」運動が赤身肉を礼賛する風潮を広げた。植物性食品は政治的に不利な立場に追い込まれ、加工食品全般への不信感が党派を超えて広まるなか、かつては先進性の象徴だった「食品科学的」なイメージも今や裏目に出ている。今回の動きは、伝統的な食肉業界によるネガティブキャンペーンや価格・味における本物の肉への劣勢も重なりるという逆境を受け、政治的な論争を呼びやすい「食卓の主役」ではなく、全米でブームが続くプロテイン飲料市場へと活路を求めるものだ。クリーンな原材料と優れた栄養比率を武器に再起を図る戦略だが、新カテゴリーへの参入が、安価で美味しい本物の肉に対する代替肉の本質的な競争力不足を補い、本業の復活につながるかについては、専門家の間でも懐疑的な見方が根強い。
6. Olive Youngの米国1号店に長蛇の列
韓国最大手ビューティーリテイラー「Olive Young」が、カリフォルニア州パサデナにアメリカ初の実店舗を開業し、大きな話題を集めた。開店前日の午後3時から行列ができ始め、夜通し待ち続ける客が続出。開店時には約400メートルにわたる長蛇の列となり、3日間で約6,000人が来店した。店内には約400ブランド・5,000点以上の商品が並び、スキンケアを中心にメイク、ヘアケア、サプリメント、韓国食品まで幅広く取り扱う。商品テスターや無料の肌分析サービスを設置するなど、「発見」と「体験」を重視した売場づくりも大きな特徴だ。来店者の多くは韓国旅行でOlive Youngを知り、これまで現地でしか手に入らなかった商品を求めて足を運んだという。開店初日の売上の60%以上をスキンケア・日焼け止め・シートマスク・クレンザーが占めるなど、K-beautyへの旺盛な需要が早くも示された。一部の日焼け止め製品は米国の規制に対応するためローカライズされているものの、その他の商品は韓国国内販売品とほぼ同じ商品が並ぶ。韓国国内で1,380店舗以上を展開し、2025年に約42億ドルを売り上げた同社は、今回の出店を米国展開の足がかりと位置づけており、近くロサンゼルスのウェストフィールド・センチュリーシティに2号店を開く予定のほか、2027年前半までにカリフォルニア州内で少なくとも5店舗を追加出店する計画だ。
7. 0ドルで作品を届けるアートフェア
アート市場では、美術系の学位を持つ作家によって日々大量の作品が生み出されているが、実際に売買されるのはごく一部にすぎず、多くの作品がスタジオに留め置かれ、保管の負担がアーティストにのしかかっている。一方で、高品質なアートと暮らしたいと望む人は多いものの、価格の高さが障壁となり、需要と供給はうまく噛み合わない。加えて、すでに作品を購入してきたコレクターは多くの作品を抱えており、新たに買った作品が倉庫に眠ることも珍しくない。こうした課題への挑戦として2024年に誕生したのが「Zero Art Fair(ZAF)」だ。ZAFの仕組みでは、表面上の販売価格を0ドルとしながら、受け取った人が保管・管理費と運搬費を負担し、5年以内に作品が売れなければ所有権が移転する「store-to-own」契約が交わされる。5年経過後に作品が転売された場合は収益の一部がアーティストに還元されるスキームだ。ZAFの初開催はニューヨーク州北部の納屋。翌年にはマンハッタンのアート施設でも開かれ、これまでに約175人のアーティストの作品に新たな居場所を与えてきた。91の出展枠に対しアーティストからの応募は400件を超え、無料であっても作品を託せる場としてアーティスト側からの支持は特に厚い。来場予定のコレクターの約半数が当日現れないケースもあったというが、それでも、この仕組みは単なる無償配布ではなく、保管やケアを通じてアーティスト・コレクター・作品の間に新たな関係を築く取り組みとなっている。長く売れなかった作品が誰かの生活空間に迎え入れられる機会をアーティストに与え、これまでアート購入が難しかった学生や若年層にはオリジナル作品を所有する道を開く。収益面の課題は残るものの、「作品を人々の暮らしに届ける」という本来の役割を見つめ直させる試みだといえる。
8. 国民的通過儀礼としての「哲学試験」
フランスでは高校卒業試験(バカロレア)の一環として哲学試験が行われ、毎年50万人以上の17〜18歳が、同じ日時に4時間かけて筆記試験に臨む。「他人が幸せでないとき、自分は幸せでいられるのか」「私たちは自分の言葉をコントロールできているのか」といった問いや哲学文献の読解が課されるこの試験は、毎年メディアでも大きく取り上げられ、哲学者がラジオやテレビで解説を行うほどの国民的関心を集める。ナポレオンが1809年に高校に導入した哲学の授業は、1880年代には、共和制の再建と政教分離の推進を背景に啓蒙主義の精神を体現する科目として定着した。現在は職業訓練課程を除く全高校生の必修であり、自由・正義・労働・幸福など17の概念を軸に、教師が独自の方法で授業を展開する。目的は哲学史の知識を暗記することではなく、異なる立場を理解し、自ら考える力を養うことにある。全科目の中で最も平均点が低い難関でもあるが、人生の根源的な問いに向き合うこの体験はフランスにおける一種の通過儀礼であり、教育大臣から一般市民まで誰もが自分の点数を記憶しているという。哲学教育は、市民として社会に参加するために必要な「集団的省察の場」としてフランス人のアイデンティティに深く根ざしているのだ。
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