#022_Sheep Quinceと「Dupeカルチャー」の台頭(前編)

2019年のサービスローンチ以降、驚異的な成長を遂げているオンラインリテーラー「Quince」。高級ブランドにそっくりな高品質アイテムを、驚くほど手頃な価格で提供することでミレニアル世代やZ世代の心をつかんだこのブランドと、その背後にある新たな消費の価値観「Dupeカルチャー」の台頭を探る。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

Quinceと「Dupeカルチャー」の台頭(前編)

©️The Rest Is Sheep

はい、みなさんこんにちは。いやあ、突然やってきた春の陽気、昔から春眠なんとかって言いますからね、いま猛烈に眠いです(笑)。あとは何といってもこの花粉、辛いっすねえ。毎年この時期は当社比3割減って感じですが(笑)、言い訳はさておき時間になりましたので今日の講義、始めましょう。

今日の話は「QuinceとDupeカルチャー」ってことで、前にやった、Sad Beigeと著作権の話、ええと、覚えてますか(笑)?と関係するテーマでもあります。

まずは「Quince」っていうサービス、あ、これオンラインサービスなんですけど、知ってる人いますか?あら、ほとんどいない(笑)。じゃあ「Dupeカルチャー」って言葉をどっかで聞いたことある人は?あ、こっちはちょっといる感じですかね。

ぜひ今日はこの2つを覚えて帰ってもらって、今晩の飲み会から使っていいですからね(笑)、どんな飲み会だって感じですが(笑)。

Quince

さて、Quinceは2018年設立、サービスのローンチ自体は2019年ですが、これまでにベンチャーキャピタルから2億ドルを超える資金を集めていて、いま米国で最も成長してるオンラインリテーラーのひとつと言われてます。

何を売っているかというと、例えばカシミアのセーター、リネンのカーテン、レザーバッグ、ジュエリー、キッチン用品、そしてなんとキャビアまで。まあなんでも売っていて、それだけ聞くと「えっ、それってAmazonじゃん」って感じですよね。

『Quince』のオフィシャルウェブサイト:TOPページ

ただ、Quinceには特徴があって、高級ブランドの商品によく似た製品を、驚くほど安い価格で販売していること。例えば、450ドル以上するようなFalconeriのカシミア・フーディとそっくりの商品がQuinceなら100ドルしないで買えたりするんですが、ただ安いだけじゃないっていうのが大事なところで、彼らは「高品質だけど手頃な価格」ってのを売りにしています。

見た目だけ寄せてるけどまったく素材が違うとか、パッと見おんなじだけど触れてみたら驚くほどちゃっちいとかじゃなくて、高級ブランドのロゴがついてないだけで、まったく同じか、あるいは似たような素材を使用してる——扱ってるのはそんな商品です。

Amazonにはびこる、ずさんな激安商品販売業者や、ファストファッションの衝動買いで何度も痛い目に遭っているミレニアル世代やZ世代がQuinceの主要なターゲット。安いのは大事だけど、ちゃんと良いものほしいよね、と。

無印良品みたいな「シンプルで品質の良さそうなもの」を求める感じに近いとも言えるんだけど、「もう少しリッチな雰囲気」の商品を少しでもお得に手に入れたいって人向けのプロダクトを作って売っていて、2023年の売上は前年の3倍、2024年には2倍以上。年間売上は10億ドル近くに達していると言われています。設立5年で10億ドル近く、なかなかです。

皆さんどう思います?もし、有名ブランドの服とそっくりだけど5分の1くらいの価格の服があったら、どっちを買いますか?やっぱ偽物を買うのとかって抵抗ありますか?——あ、偽物はなあ、って感じの反応の人も結構いますね。

Dupeカルチャーの台頭

いま、インフレで物価が上がって、特に高級ブランドの商品価格がとんでもなく高くなっているなかで、むしろ「高級ブランドの商品を高い値段払って買うのは馬鹿らしい」っていう考えを持つ層が増えています。

そしておもしろいことに、かつては「高級ブランドの模倣品を買う」ことは恥ずかしいことだと考える人が多かったし、さっきみんなに聞いてみても少なからずそういう人はいるわけですが、逆に「高級品の模倣品を安く手に入れたり、それを身につけて楽しむ」文化、Dupeカルチャー」が盛り上がってるんです。

ちなみにDupeってのは「Duplicate(複製)」の略なんですけど、調査会社のMorning Consultによると、アメリカの成人の約3分の1Dupe品を意図的に購入していて、この数字はZ世代だとほぼ半数、ミレニアル世代では44%になるんだそうです。DupeカルチャーはQuince に限らず広がっていて、例えば2024年の年末には80ドルの「ウォルマート版バーキン」、通称 “Wirkin” がTikTokでバズりました。 

@battny

I LOVEEEE it!!!!!! #walmartbirkin #birkin #bougieonabudget #walmartbirkinbag #birkinbag #walmart #designerbags #designerhandbags #afforabl... See more

先ほどお話しした通り「偽物を買うなんて恥ずかしい」じゃなくて「安くていいもの見つけた!」って感じで賢い消費として受け入れられるのもDupeカルチャーの特徴なんですが、気になるのは「Dupeとオリジナルの関係」ですよね。これって問題ないんでしたっけ?

『Quince』のオフィシャルウェブサイト:BAGS & LEATHER GOODS

これはQuinceのBAGS & LEATHER GOODSっていうセクションですけど、もう元ネタ、って言って良いんでしょうか(笑)、むき出し感がすごい(笑)。実際、YetiやUGGといったブランドはQuinceを著作権侵害で訴えていますが、結論から言うとアメリカの法律では、衣服の「形状」や「機能的なデザイン」は、ロゴとかとは違って著作権保護の対象外となるケースがほとんどです。

国際空港とかで「偽ブランド品持ち込まないで」って感じで没収された偽ブランド品が展示されてたりするのを見たことある人もいると思いますが、これはブランドのロゴや商標、例えばルイ・ヴィトンのモノグラムやシャネルのダブルCを無許可で使用して、オリジナルと誤認させる意図を持った商品です。これは思いっきり商標権侵害にあたります。

一方で、Dupe品はロゴや商標を直接コピーせず、形状やデザインの「雰囲気」や素材なんかを模倣した商品です。例えば、高級ブランドのバッグのシルエットやカラーパレットを参考にしつつ、ブランド名や特徴的なロゴは使用しない。オリジナルの商品との誤認を狙って買わせるんじゃなくて、みんなDupe品だとわかって購入し、使用してる。

そもそも、リテーラーたちは何十年もの間、トレンドに追随するために、市場を調査し、競合他社の商品のデザインや形状からインスピレーションを得ながら商品開発をしてきました。最近ではZARAやH&Mなどのファストファッションがまあまあ露骨にデザイナーブランドの形状をトレースしながら商品開発をしていて、それが当たり前になったことで、模倣自体への抵抗感が薄れてきたっていう背景があります。

とはいえ、Quinceほど容赦なく、また堂々とこの手法を取り入れている企業はほとんどありません

(後編に続く)

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. CostcoのDupeシリーズが人気

Costcoが手頃な価格で提供する「Dupe(模倣品)」のアスレジャーウェアが話題を集めている。特に、Lululemonの人気商品「Scuba」に酷似したDanskinブランドのハーフジップバージョンは、定価118ドル超の本家に対し、わずか17.99ドルで販売されている。TikTokで紹介されると瞬く間に拡散し、消費者が殺到した。Costcoの「Dupeカルチャー」傾倒は年々強まり、VuoriやAritziaといった高級ブランドのジョガーパンツやフリースも、ほぼ同じデザイン・素材感で販売している。著作権法の抜け穴もこの現象を後押しし、Dupeは「恥ずかしいコピー商品」から「賢い買い物」へと認識が変わりつつある。

2. Hermèsが「ウォルマート版バーキン」に反応

HermèsのCEO、Axel Dumasは、近年オンライン上で広がるDupeカルチャーに対し、「知的財産や創造性の盗用は許しがたい」と強い姿勢を示した。特にウォルマートが約80ドルで販売したバーキン風のバッグに言及し、「コピーは盗用に等しい」と批判。しかし同時に、模倣品の存在には「グレーゾーン」があり、消費者も本物との品質差を理解しているため、「ある意味では賞賛とも捉えられる」と述べた。

3. 高級品の価格高騰が生んだDupeカルチャーの拡大

ラグジュアリーブランド市場の減速に伴い、消費者は価格の高騰に対する品質の相対的な低下を懸念し、より慎重にブランドの価値を見極めるようになっている。過去3年間でラグジュアリー商品の平均価格は15%上昇したが、価格高騰に品質が見合っているかどうかという不信感が「Dupeカルチャー」の台頭を招いている。見た目や機能が類似した高品質なDupe品は、特にZ世代やミレニアル世代で人気が拡大している。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

スコットランドの寓話からインスパイアされたウィスキー・ボトラー『FABLE』のシリーズ2。4月から日本で発売🥃

まず、「ボトラー」って言葉を聞いたことありますか?これは「インディペンデント・ボトラーズ(独立瓶詰業者)」のことで、蒸留所やウイスキーブローカーから原酒を買い取って、自分たちの感性で瓶詰めする会社のことで、今回注目したいのは、そんなボトラーの中でもユニークな取り組みをしている『FABLE』というブランド。

『FABLE』はその名の通り「寓話」がテーマで、スコットランドに伝わる伝説や物語をモチーフに、ウイスキーとアートとストーリーテリングを組み合わせています。普通のウイスキーとはちょっと違って、物語をアニメーションで表現したり、ボトルのアートデザインにストーリーを込めたり...香りや味わいだけではない価値を提供しているんです。

最初のシリーズ1では「ゴースト・パイパー」という幽霊バグパイパーの伝説をテーマにして、再構築されたアニメーションに登場する11のキャラクターを11種類のウイスキーで表現したそう。面白いですよね。

そして今年4月に日本でも発売されるシリーズ2は、1972年にアイリーンモア島で実際に起きた「灯台守3人の謎の失踪事件」がテーマです。準備された食事、同じ時刻で止まった時計、内側から閉じられた扉...不可解な点が多くミステリアスな事件としてスコットランドでも受け継がれており、小説(「光を灯す男たち」)や映画(「The Vanishing」)にもなった有名な出来事なんです。(クリエイティブチームが再構築したアニメーションムービーは下記のリンクより)

このシリーズ2では、8つの異なる蒸留所から厳選された原酒を使って、物語の世界を表現。全部ノンチルフィルター、ナチュラルカラー、カスクストレングスという本格派の製法で作られていて、数量限定だそう。各ボトルには特別にデザインされたラベルやカスクナンバー、リリース本数も記載されていて、コレクション性も高そう。

日本では4月24日発売で、お値段は16,000円。少々高めな印象もありつつ、ウイスキーとアートとストーリーが一体になった特別な一本。すでに海外ではコレクターアイテムとして注目されているみたいです。お酒を楽しむだけでなく、スコットランドの不思議な物語を味わってみたい方、ユニークなボトルを手に入れたい方、チェックしてみる価値はあるかもしれません。

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

この記事が気に入ったら、大切な誰かにシェアしていただけると嬉しいです。

このニュースレターは友人からのご紹介でしょうか?是非、ご登録お願いします。

↓定期購読はコチラから↓