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Baa,Baa,Baa. | Week of Mar 2, 2026
【Weekly Picks】意図を持って生きる
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。
The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。
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🐏 Baa,Baa,Baa.
Weekly Headlines
意図を持って生きる
「家のような店」は新しいサードプレイスか
レギュラー・マキシング
ウォルマートのテック企業化
サイドディッシュに20ドル払う時代
英国料理の復権
「ウベ」人気が生んだ供給危機
代替肉産業の苦境
Momofukuは「父親期」へと移行した
「混沌」がもたらす都市の活力と豊かさ
1. 意図を持って生きる
「意図的であること(Intentionality)」は、近年ウェルネスやマーケティングの文脈で、曖昧なバズワードとして消費されがちだ。しかし本来の意図性とは、自己啓発的な理想論ではなく、「安易さや流行に流されず、思慮深く選ぶ」という静かな規律を指す。それは完璧主義とは決定的に異なる姿勢だ。完璧主義が管理や恐れに縛られ、無傷であることを求めるのに対し、意図性は明晰さに基づき、不完全さを許容しながら一貫性を選び取る姿勢である。さらに、物を減らすこと自体を目的化するミニマリズムとも一線を画す。重要なのは「少なさ」ではなく、自らの意志で選び抜いた「良質さ」だ。その姿勢は、長く着ると決めた服や、毎日使う道具、きちんと読むと決めた本といった日常の細部に表れる。そして意図性は、不快な問いを投げかける。本当に好きなのか、それとも好きでいたいだけなのか、それは自分の人生に属しているのか。ワンクリック購入や無限スクロールに象徴される摩擦のない社会では、立ち止まること自体が希少になった。だからこそ、意識的に選び続けることが、人生を「ただ起きた出来事」ではなく、自ら組み立てたものへと変えていくのだ。
2. 「家のような店」は新しいサードプレイスか
近年、アメリカの主要都市で、邸宅に招かれたかのような「ホームライク」なレストランやバーが増えている。白壁のミニマリズムに代わり、1920年代のパリのアパルトマンや70年代の掘り込み式のリビングを思わせる、親密で温度のある空間が支持を集める。背景には、パンデミックを経て人々がコミュニティと快適さを再評価したことがある。客が求めているのは、単なる外食ではなく、家でも職場でもないサードプレイスだ。ニューヨークのTusk Bar、ロサンゼルスのKissaten Corazonに象徴されるように、ヴィンテージのソファや柔らかな照明は、来店者を、ひとつの物語の内部へと引き込む。2026年、この没入感への欲求はさらに強まり、飲食店は「出かける場所」でありながら「帰る場所」でもあるという、新しい外食のかたちを提示している。
3. レギュラー・マキシング
ニューヨーク、クイーンズに住む28歳のClara Greensteinは、週に数日、地元のバーでビリヤード・トーナメントを運営しながら、「1995年のようにバーに通う」生活を楽しんでいる。こうした姿は、いまアメリカの若者の間で広がりつつある新潮流を象徴している。SNSで話題の予約困難店や流行グルメを追いかけることに疲れたZ世代を中心に、地元の行きつけを持ち、常連になることを目指す「レギュラー・マキシング(regularmaxxing)」が台頭しているのだ。同じ店に通い詰め、気前よくチップを弾み、店員に顔と名前を売る──そんな泥臭くも地道な振る舞いを介して、かつてのシットコム『フレンズ』や『チアーズ』のような、アナログなサードプレイスが改めて切望されている。この動きに呼応するように、飲食業界もロイヤルティ戦略を強化している。空席リスクや新店ブームの激しい競争環境のなかで、「一見客」ではなく「常連」をいかに育てるかが重要になっているからだ。スターバックスなど大手チェーンがアプリでポイント制度を拡充してきた流れを受け、近年はBlackbirdやBiltのように、個人店も巻き込みながら常連化を支援するテック企業が相次いで参入。予約や決済データを活用し、客と店の関係を可視化し、仕組みとして定着させようとしている。だが、本当に求められているのはアプリ上の特典ではない。パンデミック期の内向き志向を経て、若者たちは派手な体験よりも、同じ場所に繰り返し足を運ぶという静かな反復のなかに価値を見いだし始めている。日常の延長線上で生まれる人間味あるつながり──それこそが、デジタル時代における新しい贅沢として再評価されているのである。
4. ウォルマートのテック企業化
ウォルマートは2024年末に時価総額1兆ドルを突破。市場では従来の「小売企業」という評価を超え、テクノロジー主導の企業像が広く認識されつつある。直近四半期ではグローバルEコマースが前年比27%増、広告事業「Walmart Connect」も33%増と高成長を遂げ、収益構造の変化は鮮明だ。ニューヨーク証券取引所からナスダック市場への移行もまた、成長ストーリーを「テック主導」として投資家に示す意思表示といえる。戦略面では、OpenAIのChatGPTやGoogle Geminiとの連携により対話型AI内での商品購入を可能にするなど、AI・自動化・ECへの投資を加速させている。リテールメディアや「Scintilla」データインサイトプラットフォームを通じてブランド企業の広告効果測定や商品開発を支援する仕組みも整い、コカ・コーラをはじめとする大手ブランドの広告・販促予算を引き寄せている。売上規模ではAmazonとほぼ拮抗する中、ウォルマートは単なる小売業を超え、技術で流通と顧客体験を再設計するプラットフォーム企業へと変貌を遂げつつある。
5. サイドディッシュに20ドル払う時代
ニューヨークの高級レストランで、サイドディッシュの価格が20ドルという「心理的な境界線」を超える現象が広がっている。2013年には10ドル台前半だった付け合わせが、いまや20ドル超えも珍しくない。しかもその上昇幅は、単なるインフレを大きく上回るペースだ。背景には、食材費や人件費、物流費などあらゆるコストの高騰がある。ブロッコリーの仕入れ値が一夜で倍になることもあり、価格転嫁は避けられない。さらにキノコ類のように、加熱で重量が大きく減る食材は歩留まりが悪く、高価格設定を余儀なくされるため、メニューから外す店も出てきている。一方で、これは単なる値上げではない。黒トリュフや熟成牛を追加するアップグレード課金が一般化し、サイドは客単価を押し上げる装置へと進化している。さらに、野菜料理を「独立した一皿」として再設計する店も増えた。贅沢を求める顧客層がそれを受け入れるなか、サイドディッシュはもはや脇役ではない。高級レストランにおける料理のヒエラルキーそのものが、静かに書き換えられている。
6. 英国料理の復権
先日取り上げた「アイリッシュ・パブ・ルネサンス」とも関連するが、かつて「どろどろで、ベージュ色で、茶色く、味気ない」と揶揄された英国料理が、いま米国で静かな復権を遂げている。シアトルのシェフ、ケビン・スミスによる「Little Beast」はその象徴的存在だ。ギネス・グレービーで煮込んだ牛すね肉の自立型パイなど、伝統的なパブ料理を本格的に再現し、2025年には『Eater Seattle』の年間最優秀レストランに選ばれた。こうした英国スタイルの店は、ロサンゼルスやニューヨークをはじめ全米に広がっている。背景にあるのは、若い英国人シェフたちによる自国料理の再評価だ。ミートパイやフィッシュ&チップス、スティッキー・トフィー・プディングといった定番を洗練された形で提示し、SNSを通じてその魅力を発信する。若い英国人シェフたちは、まず自国の人々に向けて英国料理の魅力を再提示していた。だがその発信はSNSを通じて国外にも広がり、結果として海外の消費者の英国料理観まで塗り替えつつある。さらに、ロンドン発の「Dishoom」や「Gymkhana」の進出が示すように、英国料理はパブ文化にとどまらない。インド料理を取り込んだハイブリッドな食文化も、現代英国の重要な顔だ。フレンチビストロ一辺倒だった米国外食シーンにとって、親しみやすく、それでいて適度に異国的な英国料理は、新たな選択肢として確かな存在感を放ち始めている。
7. 「ウベ」人気が生んだ供給危機
フィリピン原産の紫芋「ウベ」が、その鮮やかな色味とやさしい風味を武器に、アメリカを中心に世界的ブームとなっている。米国のレストランメニューへの掲載数は2021年比で3倍に増え、トレーダージョーズやスターバックス、キングズ・ハワイアンなど大手チェーンも相次いで商品化。需要の急拡大を背景に、フィリピンのヤム輸出量は前年同期比43%増を記録した。だが、輸出が伸びる一方で、生産体制の脆弱さが浮き彫りになっている。主要産地の中部ビサヤ地方は台風被害を受けやすく、ウベは大規模プランテーションではなく家庭菜園規模で育てられる作物。増産は容易ではない。その結果、価格は2019年比で2倍以上に上昇し、米国内でも仕入れ難に直面する業者が出ている。さらにトランプ政権下の貿易政策が流通を不安定化させ、一部の業者は対米輸出を停止した。フィリピン政府は苗の配布拡充や加工品の高付加価値化を進めるが、需要を吸収しきれなければ生産が他国へ移る可能性もある。世界的な人気はウベを広く知らしめた一方で、その供給基盤と文化的ルーツをいかに守るのかという問いを突きつけている(まるで抹茶のようだ)。
8. 代替肉産業の苦境
かつて投資家の熱狂を一身に集めた植物性代替肉産業が、いま大きな停滞局面に立たされている。業界の旗振り役であるBeyond Meatの時価総額は、2019年の上場時から約9割も減り、4億ドルを割り込んだ。2025年に入っても売上の減少に歯止めがかからない一方で、皮肉にも従来の食肉販売は堅調に推移している。定期的に代替肉を口にする米国成人の割合は依然として一桁台に留まっており、普及の壁は厚い。この不振の背景は複合的だ。まず、補助金に支えられた従来の食肉に比して価格が高く、味に対する消費者の不満も根強い。さらに、ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が「本物の肉を」と訴えるなど、政治・文化的な逆風も強まっている。また、複雑な原材料リストが災いして「超加工食品」とのレッテルを貼られ、本来ターゲットであるはずの健康志向層から敬遠されるという皮肉な事態も起きている。苦境に立つ各社は、高タンパク・高食物繊維の強調や、本物の肉を混ぜたハイブリッド商品の開発で巻き返しを図る。投資家の関心も次世代の「培養肉」へと移りつつあるが、コストという高い壁を崩すまでには至っていない。
9. Momofukuは「父親期」へと移行した
David Chang率いる飲食グループ「Momofuku」の最新店「Super Peach」が昨年10月、ロサンゼルスのWestfield Century Cityにオープンした。200席を擁するモダン・コリアンレストランで、ピーチオレンジとグリーンを基調にした明るく開放的な空間が広がる。かつて客の意見を意に介さない反抗的な姿勢で名を馳せたMomofukuだが、現在LA在住のChangは日常運営から距離を置く。その変化は、ブランドが穏やかな「Dad Era(父親期)」へと移行したことを象徴している。シェフにはKatoやMajordomo出身のNick Picciottoを起用。軽やかなキンパ、テーブルサイドで仕上げるジャージャー麺、ショートリブのトック・カルビを中心にしたサム・セットなど、韓国料理を軸にしながらLA的感覚を融合させる。殻を外したダンジネスクラブのヌードルや、完成度を高めたカレーパンも印象的だ。当初はやや無難にまとまりすぎた印象もあったが、数週間の間に料理は研ぎ澄まされ、店は自らの色をはっきりと打ち出し始めた。Momofukuが広めたアジア的フレーバーがすでに米国の主流文化に定着した今、Super Peachはその先を探る試みといえる。
10. 「混沌」がもたらす都市の活力と豊かさ
トロントを拠点とする編集者らによる『Messy Cities』は、都市計画による過度な秩序化が、都市本来の活力や文化、多様性を削いでしまう危険を指摘し、「雑多さ(Messy)」の価値を再評価する試みである。ただし、ここでいう「無秩序」とは混乱の礼賛ではない。制度の枠外で、住民が自らのアイデンティティや文化を空間に刻み込む主体的な実践を指す。イーストロサンゼルスの路上屋台、ムンバイの廃墟を転用したスポーツ施設、コロナ禍のトロントで住民が廃校跡地に生み出した「Bloordale Beach」などの事例は、計画外の行為が都市に創造性と活力をもたらすことを示している。移民の「到着都市」であるトロントでは、ケンジントン・マーケットのような地区に文化の層が重なり合い、公式と非公式が交差する空間が形成されてきた。さらに、東京は建築形態を厳格に規制しつつも土地利用の混在を許容することで、秩序と雑多さを両立させている。孤独が深まる現代において、こうした日常的な交渉や共有の機会はコミュニティを再生する契機ともなる。都市の未来は、統制の強化にではなく、人々が自ら余白を生み出す力にこそ宿るのだ。
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