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#009_Sheep 「ハギス・イン・ワンダーランド」――東京で酔いしれる、大人のバーンズナイト
東京の古びた雑居ビルに潜む知られざる秘密の宴。スコットランドの魂「ハギス」とウイスキーが演出する、大人のためのバーンズナイト。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
🔍 Sheepcore
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
「ハギス・イン・ワンダーランド」――東京で酔いしれる、大人のバーンズナイト

©️The Rest Is Sheep
真冬の夜風が頬を撫でる。二人の歩幅は自然と寄り添っていた。目指すのは都心の一角、古びた雑居ビルの中に隠れるように佇む一軒だ。年季の入ったエレベータを降り、重厚な扉を押し開け一歩足を踏み入れると、そこにはスコットランドの街角を思わせる喧騒が広がっていた。
「バーンズナイト(Burns Night)」―― 1月25日は『蛍の光』の原曲 “Auld Lang Syne” の作詞家として知られるスコットランドの詩人ロバート・バーンズの誕生日だ。彼の詩やスコットランド文化を愛する人々が集い、年に一度の祭典を楽しむ夜。知る人ぞ知る、大人たちの秘められた愉しみがここにある――。
雑居ビルの最上階、窓越しには東京の街の明るいネオンの光が広がる。その光景とは不釣り合いなほど濃密な空気が漂う店内で二人のグラスに注がれたのは、ピートの香り高い「タリスカー」。その琥珀色のスモーキーな液体は、まるで都会の喧騒を忘れさせる魔法の薬のようだ。
詩と音楽が織りなす、官能の宴
喧騒をかき分けバグパイプの音色が響きわたると、続けてロバート・バーンズの詩『ハギスに捧げる詩』が朗々と詠み上げられる。英語とスコットランド語が絡み合い、異国の香りが店内を満たす。
「すごいね、何かの宗教の儀式みたい」
彼女の囁きに、彼はグラスを傾けながら微笑む。そして、詩の朗読が佳境に差し掛かったその瞬間――。店の中央に鎮座する料理にナイフが突き刺さる。歓声と拍手が沸き起こる中、二人の視線は交錯する。
「スランジバー!ゴーブラ!」
周囲に倣って声を上げる彼女。その瞳には特別な夜への陶酔が宿っていた。
禁断の美食、ハギスとの出会い
「ねえ、あれ、何かわかる?」
目の前に運ばれてきたのは、先ほどナイフが入れられた料理。そう、スコットランドの魂とも呼ばれる「ハギス」だ。彼女の目が好奇心で輝く。羊の内臓をオートミールやスパイスとともに調理した、一見すると素朴な料理。見た目は決して上品とはいえないが、その香りは挑発的で、深い旨みが隠されている。
「タリスカーをかけて食べるんだ」
彼のリードに身を任せ、おそるおそる一口。その瞬間、濃厚な味わいとウイスキーの香りが舌を満たす。
「少しクセがあるけど……美味しい。こんなの初めて」
彼女が驚きに瞳を輝かせる。その横顔を見つめる彼の胸に、いつもとは違う感情が静かに芽生えていた。
エピローグ:記憶に刻まれる夜
「また、来たいね」
帰り際、彼女が耳元でそっとつぶやく。都会の片隅で見つけた、小さなスコットランド。いつかきっと、本場で。そんな想いは、1月の夜の冷たい空気とともに二人の胸に静かに刻まれた。
バーンズナイト。それは、洗練された感性と冒険心を持つ大人だけが味わえる特別な夜。その記憶は、異国の風景を呼び起こしながら、二人の心をそっと結びつけた。
東京近郊でバーンズナイトを楽しむ
毎年恒例のスコットランドのパーティーは、1月の憂鬱を吹き飛ばす格好の口実だ。東京近郊でバーンズナイトやハギスを楽しめる店を紹介しよう。
① Helmsdale(渋谷・東京)
Helmsdale(ヘルムズデール)は、渋谷にあるホテル、sequence MIYASHITA PARKの5階にあるスコティッシュパブで、スコットランドの伝統と文化を東京で体験できる特別な場所だ。名物のハギスはもちろん、店主の村澤政樹さんが店頭に立つ日にはハギスを使ったパスタ(通称「ハギスパ」)を食べることができる。こちらのパブのシグネチャードリンク、TSP(Talisker Soda Pint)とともに楽しんでほしい。
② WAY by DEENEY’S(表参道・東京)
ロンドン発のスコティッシュサンドイッチ専門店として、東京の外苑前に日本初の路面店をオープンしたDEENEY’S TOKYOが表参道駅近くのコミュニティ型商業空間、B-Flat COMMUNEに移転しWAY by DEENEY’Sとして再オープン。一番人気は「マクベス(Macbeth)」と名付けられた、ハギスを使用した独創的なトースティ(ホットサンド)。サクサクのパン、ジューシーなハギス、そしてスパイシーな風味が絶妙に調和し、ロンドンでも「ベストサンドウィッチ」の一つに選ばれるほどの人気の味を東京でも味わうことができる。
③ ザロイヤルスコッツマン(飯田橋・東京)
神楽坂の小路に佇むThe Royal Scotsman(ザ・ロイヤルスコッツマン)は、スコットランドの雰囲気を存分に味わえる魅力的なスコティッシュパブ。店内では、クラフトビールとオーナーである小貫友寛さんによる手の込んだ料理を楽しむことができ、なかでもハギスには定評がある。本格的なスコットランド料理とドリンクを通じて、神楽坂にいながらにして英国の雰囲気を存分に味わえる、特別な空間を提供している。
④ワイバーン(桜木町・神奈川)
関内、桜木町からほど近い横浜吉田町にたたずむWyvern(ワイバーン)は、本場スコットランドの味わいを楽しめる隠れ家的なパブだ。店に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、スコットランドの風景を思わせる温かみのある内装。Wyvernの料理は、どれも心のこもった手作り感にあふれているが、特に看板メニューのハギスやフィッシュ&チップス評判は高い。夜遅くまで営業しているので、仕事帰りにふらりと立ち寄って、異国の味わいに舌鼓を打つのもいいだろう。
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. スコットランドがハギスを愛する理由
ハギスはスコットランドの伝統料理で、羊の内臓をオートミールや香辛料と混ぜて羊の胃袋に詰め、煮込んで作られる。その起源は保存食としての実用性にあり、旅や労働者の栄養源だった。詩人ロバート・バーンズの詩「ハギスに捧げる詩」によってその地位が確立され、現在はバーンズの生誕を祝う、年に一度のバーンズナイトの象徴的な料理として供される。この祝宴では、バグパイプの演奏、詩の朗読、ハギスの切り分けといった儀式が行われ、伝統的な料理やウイスキーも振る舞われる。ハギスはバーンズの詩とともにスコットランドの歴史、文化、そして精神を象徴する存在として愛されている。
2. スコットランドの皆さん、申し訳ないが、ハギスは実はイングランドのものだ
ハギスはスコットランドの伝統料理とされるが、実はその起源は13世紀のイングランドに遡る。16~17世紀にはイングランドで上流階級の食卓を彩ったが、18世紀にスコットランドで庶民の料理として定着。反スコットランド感情の中、詩人ロバート・バーンズはハギスをスコットランドの「謙虚でたくましい国民性」の象徴として讃え、ナショナルアイデンティティの構築に貢献した。今日では多様な形で楽しまれ、輸出も増加。バーンズ・ナイトを通じ、スコットランド文化の誇りを象徴する存在となっている。
3. スコットランド最大のハギスメーカー、米国の規制をクリアするための新レシピを開発
スコットランド最大のハギスメーカー、Macsweenは、1971年に米国で施行された食品規制により伝統的ハギスの輸入が禁止されて以来、規制を満たす新レシピの開発に取り組んでいる。従来のレシピでは約15%の羊の肺が使用されているが、米国では羊の肺が食品として認可されていないため、羊の肺を羊の心臓に置き換えることで「米国対応版」のハギスを実現する計画。この製品は2026年1月の発売を目指しており、これにより年間約200万ポンドの潜在的な売上増加が期待されている。Macsweenはすでにカナダ市場向けに規制対応版を開発し成功を収めている。同社は伝統の味と食感を維持しながら、新たな市場開拓を目指している。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
老舗スコティッシュパブが贈る伝統の祝宴『BURNS NIGHT(バーンズナイト)@HELMSDALE MIYASHITA PARK』が、1月24日(金)に開催。
「HELMSDALE」は1996年の南青山での開店以来、本場さながらのスコットランド文化を届けてきた名店。2020年に南青山店を閉店後、軽井沢での営業を経て、2022年にsequence MIYASHITA PARKの5階でひっそりと再始動。現在は軽井沢を拠点に、MIYASHITA PARKでは店主・村澤政樹さんが水・木・金曜の週3日限定で店頭に立つ。知る人ぞ知る特別な空間として親しまれている。
バーンズナイトでは、MR Bob.stockwell氏によるバーンズ詩集「ハギスに捧げる詩(Address to a Haggis)」の朗読『POETRY LIVE』や、同店厳選の『HAGGIS MENU』が展開される予定。
我々もこっそりと参戦予定🍸ご興味のある方は是非!!
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