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#063_Sheep マクドナルド化するファインダイニング
NobuやZumaなど、一人数百ドルするファインダイニングが、カジュアルチェーンのように世界中で増殖している。パンデミック後の「モノから体験へ」のシフト、不動産デベロッパーとの共生関係、そして富裕層の価値観がグローバルに均質化した結果だ。「どこでも同じ高級感」が求められる一方、Nomaのように実店舗を閉じる動きや「ハイパーローカル」への揺り戻しも始まっている。グローバルとローカル、再現性と希少性——両者が共存する時代に、私たちは何を選び、何を体験するのか。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
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カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
マクドナルド化するファインダイニング

©️The Rest Is Sheep
🐕「お疲れさまですー。わざわざ来てもらっちゃってすみません」
🐏「お疲れさまです。神谷町、珍しくないですか?」
🐕「このあと会食がNobuなんですよ、一周まわって(笑)」
🐏「海外のお客さんですか?」
🐕「はい、Nobuが良いって(笑)」
🐏「南青山時代は何度か行ったことありましたけど、結局こっちにオープンしてから来てないですね、、、」
🐕「お、Soho's時代ですね、懐かしい(笑)」
増殖するファインダイニング
🐏「南青山にあったのってもう20年近く前でしたっけ? Nobuっていまもう全世界56店舗とかあるんですもんね」
🐕「はい。いま、Nobuに限らず、食事とお酒飲んだら一人数百ドルするようなファインダイニングが、まるでカジュアルチェーンみたいに世界中で増殖してるんですよね」
🐏「飲食店のグローバル展開って聞くと、真っ先にマクドナルドとかスタバみたいなカジュアルチェーンを思い浮かべますよね。早い、安い、どこでも同じ。あの均質性と再現性がグローバル展開の肝だと思ってました」

Nobu
🐕「ですよね。でも、Nobuと同じくラグジュアリーなコテンポラリージャパニーズレストランのZumaが25店、高級イタリアンのCiprianiは約20店、フレンチ・地中海レストランLPMは13店、ロンドン発のモダン広東料理Hakkasanは12店。もはや「世界のどこに旅しても同じ高級店がある」状態になってる」
🐏「高級店って、本来は「その街に一つしかない特別な場所」っていう前提だったはずなのに。チェーン化すると価値が薄れそうなのに、逆に増えてる」
🐕「コロナの後、リアル店舗の価値が全面的に見直されたことも理由の一つなんですよね。ショッピングがオンラインに流れたじゃないですか。ラグジュアリーブランドも例外じゃなかった」
🐏「店舗の床面積がどんどん縮小して、空き区画が生まれた」
🐕「特に「一階問題」が深刻で。商業施設の一階部分って、オフィスにも住宅にもホテルにも転用しにくいから、空くと困る。そこでデベロッパーたちは考えたんです。「高級レストランを入れれば、ビル全体の品質保証バッジになる」んじゃないかって」
🐏「なるほど。「このビルのグラウンドフロアにNobuが入っている」っていうだけで、上の階のオフィスやレジデンスの価値が底上げされるってわけですね」
🐕「建物ごと「ブランド化」できるんですよね。しかもレストラン体験ってAmazonじゃ買えない。モノはオンラインで買えるし、料理もデリバリーできるけど、その場のバイブスや体験まではデジタル化できない」
🐏「まさに「所有」から「体験」への流れですね。ショッピングがデジタルに移行した分、リアル空間に求められるのは「唯一無二の体験」になった」
🐕「その「特別な体験」の最前線がファインダイニングだ、ってことですよね。高級ホテルのロビーみたいに、「ここに来れば外れない」っていう安心と、SNS映えする演出が全部セットになってる」
🐏「デベロッパーにとっては、空いた一等地や新規開発の「顔」として最高のコンテンツになる」
🐕「ですね。Cushman & Wakefield Coreのリサーチ&コンサルティング責任者、Prathyusha Gurrapuも言ってます。「最高のオフィススペースにはより多くのF&B(飲食)とホテルが組み込まれている」と。デベロッパー側は、これらのブランドを誘致するために「ほぼパートナー扱い」の優遇賃貸条件を提示してるみたいです」
🐏「レストランにしてみれば、賃貸リスクを抑えつつブランドの国際展開が進められる。まさにウィンウィンですね」
🐕「昔は、新しいショッピングモールに「有名デパート」を入れて客を呼んでいた。あのロジックが、今は「ミシュランクラスのレストラン」に置き換わったわけです」
Nobuから始まった「グローバル高級店」モデル
🐏「やっぱりNobuが「グローバルに展開するファインダイニング」っていう流れを作った元祖なんですか?」
🐕「ですね。1994年にニューヨークに1号店ができて、1997年にロンドンに2号店。当時、日本料理にペルー料理のニュアンスを重ねるなんて誰もやっていなかったから、一気に話題になった」
🐏「「誰もやってないこと」がブランドになったわけですね」
🐕「そう。で、そのロンドン店があまりにも人気すぎて予約が取れないことに腹を立てた実業家がいて(笑)」
🐏「えっ(笑)」
🐕「「予約取れないなら、自分で似たような店を作ればいい」って、日本で修行したドイツ人シェフを引っ張ってきてオープンさせたのが2002年のZuma。結果的に大成功して、今や世界に25店舗です」
🐏「すごい動機(笑)。でも分かりやすい。「需要の過剰」が新しいブランドを生んだわけですね」

Zuma
🐕「しかもNobuもZumaも、「日本料理の本格さ」より「国際的な舌にフィットする味」を優先した。Zumaに至ってはシェフも外国人なわけだけど、日本の人気料理を大胆な味付けでアレンジして、これが世界中で受けたわけです」
🐏「NobuにしてもZumaにしても、「日本料理」と呼びつつ、実態は「グローバル仕様に再編集された日本料理」。言ってしまえば「脱地域化された料理」ですよね」
🐕「それこそが成功の鍵ですよね。「どこでも同じ味」を再現できるから、ブランドとしてスケールする。地域性を引き算することで、逆に世界で通用するフォーマットになった」
🐏「「地域の文化を輸出する」んじゃなくて、「地域性を中立化したフォーマットを輸出する」。NobuとZumaはその原型をつくったんですね」
体験のグローバル化とその肝
🐕「でもおもしろいのが、こういうレストランって「ユニークな一夜を約束します」って宣伝するじゃないですか」
🐏「しますね。「ここでしか味わえない体験」とか」
🐕「でも実際は、どこに行っても似たようなメニューなわけですよね。ツナタルタル、和牛、キングクラブ、キャビア。素材も調理法もほぼテンプレ化してるし、Nobuの料理は「Nobuの味」を超えて「世界の高級店の標準語」になった。メニュー構成も盛り付けも、誰が見ても「ああ、あのタイプの料理ね」ってわかる」
🐏「つまり、「ユニークさ」を謳いながら、実際には「馴染み感」で選ばれてるってことですよね」
🐕「そう。特別でありながら、安心できる。未知すぎず、既知すぎない。そのバランスが絶妙なんでしょうね」
🐏「ミシュランの星付きレストランみたいに「挑戦的」すぎる必要はなくて、「洗練されていて、でも裏切らない」、そういう安定感が求められてる」
🐕「日本でも、ロンドンでも、ドバイでも、パリでも、全く同じ味と、全く同じ洗練されたミニマルな空間で提供される」
🐏「たしかに、料理以外の要素もそうですよね。どの店舗も有名なデザイナーが空間デザインして、BGMや照明、スタッフの振る舞いまでが「ブランド様式」として設計されてる」
🐏「つまり、旅先で「異文化」を求めるんじゃなくて、「いつもの高級感」を求めてるわけですね」
🐕「彼らが提供してるのは、その土地の文化でも食材の物語でもなく、「安心できる非日常の体験」。「ラグジュアリーのグローバルチェーン化」とでも言うべき現象ですよね」
🐏「まさにマクドナルドの「どこでも同じ」を、ファインダイニングの領域でやってる感じですね」
🐕「「どこでも同じように良い」という安心感こそが、こうしたお店が提供してる価値なんでしょうね」
「再現性のある贅沢」
🐏「この現象って、「体験」に対する富裕層の価値観が、国境を超えて均質化した結果とも言えるのかもしれないですね」
🐕「はい、NobuやZumaがグローバル展開できたのは、彼らが「料理」だけじゃなく「グローバルに認証された高級な夜」を売ったからです。バッグを買うように、世界のどこに行っても同じ品質の体験が手に入る」
🐏「GucciやLouis Vuittonを選ぶ感覚で、レストランを選んでるわけか」
🐕「「このブランドなら間違いない」っていう安心感こそが、いまの富裕層にとっての価値。つまり「再現性のある贅沢」ですね」
🐏「なるほどーって感じの表現ですね」
🐕「このラグジュアリー分野のシフトを象徴する動きが、LVMHグループで起きていて」
🐏「LVMHで?」
🐕「はい、LVMH傘下のL Cattertonが最近、イギリスで絶大な人気を誇るモダンインド料理レストラン「Dishoom」に出資しました。Dishoomはカジュアル性が高いレストランですが、熱狂的なファンを持つブランド力があり、国際展開を加速させる予定とのこと」
🐏「LVMHがインド料理ですか」
🐕「ファッションや美容といった「モノ」を中心としたラグジュアリーに投資してきたLVMHにとって、この投資は、ラグジュアリーの定義がライフスタイルやF&Bを含むホスピタリティ分野へと戦略的に拡大している、明確なサインです」
🐏「ラグジュアリーの対象が「モノ」から「体験のチェーン化」へと広がってる」
🐕「そう。提供しているのは料理ではなく「グローバルなライフスタイル」そのもの。だからこそ、どの都市へ行っても「いつもの私」でいられる環境が整っていくわけです」

Dishoom
グローバル化の飽和
🐏「でも、この流れってずっと続くんですかね?」
🐕「ある程度は続くんじゃないですかね。Dishoomを挙げるまでもなく、NobuやZumaのフォロワーはまだまだ出てくるでしょうし」
🐏「需要は伸び続ける、と」
🐕「でも、これは飽和する可能性も孕んでると思うんですよね」
🐏「というと?」
🐕「だって、「どこでも同じ」が増えすぎたら、希少性が失われるじゃないですか。ラグジュアリーの本質って、希少性にあるはずなのに」
🐏「あちこちにNobuができて、多くの人がNobuに行けるようになったら、Nobuに行くことがステータスじゃなくなる」
🐕「そう。しかも、店舗の数を追求するだけでは実現できない価値もあるはずで」
🐏「たとえば?」
🐕「たとえば、世界最高峰のレストランの一つと言われてたNomaが2024年に実店舗を閉じたじゃないですか」
🐏「あー、驚きました」
🐕「シェフのRené Redzepiは「レストランというフォーマット自体が限界に来てる」って言ってて。毎晩同じ場所で同じようなサービスを提供し続けることに疲弊したらしいんです」
🐏「グローバル展開どころか、一店舗すら維持しなかった」
🐕「でも彼らは消えたわけじゃなくて、ポップアップや実験的なプロジェクト、研究活動にシフトしてる。つまり、「常設店舗」というモデルそのものを問い直してるんですよね」
🐏「希少性を極限まで高めることで、逆に価値を生み出す」
🐕「そう。これって、NobuやZumaとは真逆のアプローチじゃないですか。「どこにでもある」じゃなくて、「今しかない、ここにしかない」を追求してる」
🐏「おもしろいですね。二つの方向性が同時に進行してる」
🐕「もう一つの流れとして、「ハイパーローカル」への揺り戻しも起きると思うんです」
🐏「ハイパーローカル?」
🐕「はい。世界のどこに行っても高いクオリティを約束する安定したグローバルチェーンに対するカウンターカルチャーとして、「ここでしか食べられない」を徹底的に追求するレストランが改めて注目されるだろう、と」
🐏「地元の食材、地元の調理法、地元の文化……」
🐕「そう。しかも、ただの「地方料理」じゃなくて、最高レベルの技術と美学で、その土地ならではの物語を語るレストラン」
🐏「たとえば?」
🐕「たとえばペルーの「Central」。標高ごとに異なるペルーの生態系を料理で表現してて、食材はすべて現地調達。東京にも彼らが手掛けるレストラン「MAZ」があるけれど、本物の「Central」での体験はペルーでしかできない」
🐏「グローバル展開できない」
🐕「できないし、する必要もない。「ここにしかない」こと自体が、最大の価値ですよね」
🐏「なるほど……。つまり、どちらも体験を売ってるけど、グローバルチェーンは「どこでも同じ体験」を売ってて、ハイパーローカルは「ここだけの体験」を売ってるってことですね」
🐕「まさにそうですね」
🐏「ラグジュアリーの定義が「所有」から「体験」にシフトしたのは共通してるけど、その「体験」の提供の仕方が「グローバルな安定」と「ローカルな希少性」二極化してる」
🐕「そう。そして、どちらも成立するし、どちらも必要とされてる」

Central
🐏「そういえば時間大丈夫ですか?」
🐕「あ、やば(笑)。せっかく神谷町にしてもらったのに、もう出ないと遅刻です(笑)」
🐏「Nobu Tokyo、ぜひ良い体験を(笑)」
🐕「はい、再現性のある贅沢、堪能してきます(笑)」
🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. グローバル展開を加速するNobu
松久信幸がロバート・デ・ニーロらと共同創業したNobu Hospitalityは、世界5大陸に60店舗近いレストランと18のホテルを展開する約9億ドル規模のラグジュアリー・ホスピタリティ企業だ。コロナ禍からの回復途上で多くの競合が慎重姿勢を取る中、同社はアブダビ、モンテネグロ、ナッシュビルなど2026年までに十数件の新規プロジェクトを計画し、積極的な拡大戦略を進めている。背景には、松久信幸が掲げる「心を込めてつくる(cook with heart)」という哲学があり、料理・デザイン・セレブリティ性を融合した独自体験が世界中で支持されている。ローマの新ホテルをはじめ、レストランからホテル、レジデンス、ウェルネスへと領域を広げつつ、松久は各拠点を巡り一貫した品質を維持している。この姿勢こそが、グローバルに広がるNobuブランドの中核となっている。
2. LVMH系ファンドがインド料理「Dishoom」へ出資
LVMH傘下のプライベートエクイティ企業L Cattertonは、イギリスで人気のインド料理レストランDishoomの少数株を取得。この投資により、Dishoomは推定3億ポンドと評価されている。これは、高級ブランドの投資が、伝統的なファッションや宝飾品から、ライフスタイルや体験、ホスピタリティ分野へと拡大していることを示している。Dishoomは、ムンバイのイラニカフェを想起させるノスタルジックな食体験と、クオリティの高い「ブラック・ダル」や「ベーコンナンロール」といったメニューで知られ、ロンドンやエディンバラで人気を集めている。今回のL Cattertonからの資金注入は、Dishoomのグローバル展開を加速させ、2025年の米国進出を皮切りに、国際市場での成長を目指す。この提携は、ラグジュアリーとライフスタイルの境界が曖昧になる中で、食事が文化的な高級体験として位置づけられつつある潮流を象徴するとともに、インド料理に対する世界的な需要の高まりを反映している。
3. 最近、高級レストランはなぜこんなに味気ないのか?
近年、ZumaやNobuなど世界中に展開する高級レストランチェーンが増え、どこへ行っても同じ内装・同じ体験が繰り返される「高級店の凡庸化」が進んでいる。背景には投資主導のフランチャイズ志向があり、Jeremy Kingが指摘するように「成功の公式」を乱発する映画業界のような予測可能性が客の飽きを招いている。一方で、かつてのLe BilboquetやRiver Caféのように、オーナーが毎日立ち会い、空間と客に魂を吹き込む「ホスト力」は希少化。若手ではMaison FrançoisやThe Maineなど情熱を持った個人主導の成功例もあるが全体としては少数派だ。とはいえ、Kingの新店舗計画など、再び個性と人間味を重視する店への回帰の兆しも見えている。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
今週もお休みです 🐏
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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