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#010_Sheep 小咄「あなたの知らない日本食の世界」

世界のセレブに愛される和食の革新者、Nobu。伝統を守りながらペルー料理の技法を取り入れた独創的な日本料理は、世界の高級日本食シーンを変え、グローバルな新しい和食の形を確立。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

小咄「あなたの知らない日本食の世界」

©️The Rest Is Sheep

どうもどうも、お集まりいただきまして、有難く御礼申し上げます。いやぁ、こんなに寒い中、お越しいただけるなんて、嬉しい限りでございますねえ。この季節、ちょっと外歩くだけで身体冷えちゃうんでね、ぜひ気をつけていただいて。こんな調子でございますんで、話の方もぬる燗程度に聞いていただければ幸いでございます(笑)。

さて、最近は日本にも外国人観光客が増えてきまして、街を歩いてると英語や中国語、韓国語なんてのが飛び交ってまして。昔は、観光客っていうとちょっと珍しい存在でしたけど、今じゃもう、浅草なんか行ったらほとんど外国の方じゃないですか?

それでね、話はここからなんですが、外国の人が日本で好きな食べ物って、昔は決まってましてね。「スシ!」「テンプーラ!」って、なんとかの一つ覚えみたいに大きな声で叫んでたもんですよ。

ところが最近はどうです?外国人が「ギュウドン、ツユダクデ」「ラーメン、バリカタ」「ニホンシュ、ヒヤデ、オネガイシマス〜」なんて、妙に詳しいことを言うようになりましてね(笑)。「日本食もここまで広まったか」なんて感慨もひとしおで。

でも、感心してばかりもいられません。私この間、アメリカに行きましてね、何日か滞在してたらちょっと日本食が恋しくなって、現地に住んでる連れにお願いして、和食屋さんに連れてってもらってね。「まあ寿司でも味噌汁でも食べれりゃいいや」なんて思ってたんですが、メニューを開けてビックリ。寿司や味噌汁なんてとんでもない、見たこともない料理がズラーッと並んでるんです。

例えば、「イエローテイル・ハラペーニョ」なんて料理があって、「こりゃあ何だ?」と聞いたら「ああ、定番ですね。ポン酢味のカンパチのカルパッチョで、アクセントにハラペーニョが添えられてるんです」なんて言いやがる。いやいやなんだか気取った料理だなあなんて思いながら、でもまぁ、せっかくだからと食べてみたらこれが美味い!

で、ニヤニヤしながら「ほかにも定番いってみましょうか」なんて言うもんだから、「おう、この際なんでもかかってきやがれぃ」って気持ちでお願いしたら、ネギトロの握りみたいなものを出してくれたんですけどね、食べてみたらトロの部分はスパイシーだわシャリは炙られてカリッとしてるわで、これまた美味しいのなんのって。

「日本食って、こんなもんだったか?」と目が点になってね、「この店の料理、ユニークだけどなかなかいけるじゃないの」って声かけたら、「いやいや、こっちの日本料理屋さん行ったらだいたいどこでも出してるメニューですよ」なんて言われちゃって。なんだか困ったねえ。私、日本料理屋さんの定番を何一つ知らないっていうね(笑)。

そんで、あとから聞いたところによると、どうやら、私が食べた料理の元祖はNobuさんっつう人だって話で……

若旦那:
師匠!最近、町の旦那衆が「Nobu、Nobu」ってやたら騒いでるんですけど、あれ何です?新しい芝居でも始まったんですか?それとも力士かなんかですか?

師匠:
いやいや、芝居でも相撲でもないよ、料理だよ。Nobuっていうのはノブ・マツヒサさんが作ったレストランのことだ。この人が、日本食を世界のセレブ御用達のレベルに押し上げたんだよ。

若旦那:
はぁ〜、セレブ……ですか。なんだか敷居の高そうな響きですねぇ。やっぱり、寿司だの天ぷらだのが出るんでぇ?

師匠:
いやいや、そんなもんじゃない。Nobuさんはな、東京で修行したあとペルーって国で新しい技を学んでそれを日本料理に取り入れたりして、アメリカで有名になったんだ。例えばセビーチェやティラディートを参考にして、カンパチの刺身にアレンジを加えたりしてね。

若旦那:
はぇ~、面白いことしやすねぇ。でも、そんなことしたら「そんなもんは日本食じゃない!」なんて怒られやしませんか?

師匠:
まあ確かにそういう見方をする人たちもいるだろうな。ただね、Nobuさんの料理はただ単に奇抜なことやってやろうってんじゃなくて、ベースにはちゃんとした日本食の伝統へのリスペクトがあるんだ。そのうえで、「新しい食材や調理法にチャレンジするのは、料理人として自然な追求だ」とな。それに、これまで日本食や生の魚を食べたことがない人にも日本食を楽しんでもらって、最終的にはお刺身を気に入ってもらいたいっていう思いで工夫したんだ。

若旦那:
ふむふむ……でも、師匠、日本食ってもっと厳格なもんだと思ってましたよ。だって昔っから、伝統は大事にしろって言いますし。

師匠:
それがさ、お前さん。日本食ってのは昔から変わり続けてきたんだよ。ラーメンもカレーも、元々は日本のものじゃないけど、日本風にアレンジされて、今や日本の定番だろう?それに天ぷらだってポルトガルから来たもんだしな。

若旦那:
そりゃ確かに、言われえみりゃそうでございますねぇ。

師匠:
そうさ。日本の食ってのは、外の文化を柔軟に取り入れて進化する力があるんだよ。だからNobuさんがやったことも、実は日本の伝統を継いでるってことなのかも知れないよ。

若旦那:
なるほど、壊すんじゃなくて、広げるってわけですか。

師匠:
そう、そのうえで、日本食を食べたことのない人にも、食べてもらいたいっていう思いを常に持ってる。Nobuさんは、刺身を食べたことのないお客様が初めて平らげてくれたときが一番嬉しいんだってさ。

若旦那:
たくさんの人に日本食を知ってもらいたい、っつう思いが根底にあるんですね。

師匠:
そう、それに、Nobuさん一人でやってるわけじゃない。あのハリウッドの大スター、ロバート・デ・ニーロと一緒に店を広げていったんだ。

若旦那:
ロバート・デ・ニーロ?映画の人じゃないですか!何で飲食店なんかやってるんです?

師匠:
それだけNobuさんの料理に惚れ込んだってことさ。「こんな美味しい料理を、もっと多くの人に食べさせたい」って思ったんだろうね。それで二人でタッグを組んで、世界中にレストランを展開してるんだよ。

若旦那:
でも、そんなに広まったら他の店に真似されて困りゃしませんかねえ。

師匠:
実際ね、Nobuさんの料理は多くのシェフに影響を与えて、他のお店にも広がっていって、世界の高級日本料理店になくてはならないメニューになっちゃった。でも、彼はこう言ってるんだ。「実際のところ、海外のレストランで、おそらく元ネタは僕のものであろう料理に出会うことがあり、すごく嬉しく、幸せな気持ちになる。僕が生み出したものが沢山の人に支持され、広がっていった証ですから」って。

若旦那:
いやぁ、Nobuさんって立派な人ですね。でも、高級料理なんて私には縁がなさそうです。

師匠:
縁がないなんて言うな。お前さんも食べてみたら何かを学べるさ。

若旦那:
じゃあ、今度Nobuさんの店に行ってみます!……で、そのカンパチの刺身って、いくらくらいするんです?

師匠:
そうだなぁ、お前さんが食べてるその牛丼、10人前分より高いくらいだな。

若旦那:
じゅ、10人前!?……じゃあ、近所の魚屋でカンパチの刺身買って、ポン酢と唐辛子かけて食べますわぁ。

海外の高級日本料理店を象徴する4つの料理

Nobuが普及に貢献した料理は数十種類にのぼるが、その中で、特に高級日本料理店と切っても切り離せない関係となった4つの料理を紹介しよう。Nobuの影響は世界中に広がっている。

Yellowtail jalapeño(カンパチのハラペーニョ添え)

新鮮なカンパチの刺身にハラペーニョとポン酢ベースのソースをかけた料理で、魚の旨味とピリッとした辛さが絶妙なバランスを生み出している。チャリティーイベントの後、軽食としてティラディートを作ろうと思ったが、その際に唐辛子ペーストを切らしていたため、Nobuは魚の切り身に生のハラペーニョをスライスしたものをトッピングしたのが起源。添えられたコリアンダーの葉によるハーブの風味がアクセントになっている。

Rock shrimp tempura(小海の天ぷら)

軽くていつまでも食べられるロック・シュリンプの天ぷらもNobuが発祥の料理だ。980年代にケイジャン料理のシェフ、Paul Prudhommがポップコーンシュリンプを広めたが、1990年代にNobuがエビの天ぷらにスパイシーマヨソースをかけるようになってから世界的なヒットとなった。

Miso black cod(ブラックコッドの味噌焼き)

ベースは伝統的な日本料理だが、ご飯のおともではなく、コース料理の一品やフィンガーフードとして提供される、高級日本料理店の代名詞的存在のメニューとなった。西洋文化で育った人びとが自然に受け入れられるよう、白磁の皿に盛り付け、ピンク色のはじかみと琥珀色の味噌のドットを添えたシンプルなプレゼンテーションが、Nobuスタイルの料理の基礎となった。ロバート・デ・ニーロお気に入りの一皿(彼は日本酒と合わせるのを好む)。

Spicy tuna crispy rice(スパイシーツナ・クリスピーライス)

Nobuのスタイルは、より幅広い客層に受け入れられるよう料理を少しずつ変えていくというもので、同業者たちの間の創造性を刺激することとなった。1997年にオープンしたStudio Cityのレストラン、Katsu-Yaで、シェフの上地勝也氏は、生の魚以外の料理を求める客がいたことから、寿司から離れたメニューの開発を始めた。そこで彼は、酢飯を平たく押し固め、油とバターで揚げ、通常はロール寿司に使用されるスパイシーツナをクリスピーライスの上にこんもりと盛り付け、瞬く間にアイコンとなる料理が誕生した。

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. あなたの知らないNobu

Nobu Matsuhisaの名声は、キャリア初期の苦闘と回復力によって築かれた。ペルー、アルゼンチン、アラスカでのパートナーシップの失敗の後、1977年にレストランが火災に遭い、自殺寸前まで追い込まれたが、娘たちの愛が彼の決意を再び燃え上がらせ、人生とキャリアの再出発につながった。最終的に、Robert De Niroの説得により、過去の裏切りに対する消極的な気持ちを乗り越え、ニューヨークにNobuをオープンした。彼らの信頼とパートナーシップは深まり、世界中にNobuレストランと高級ホテルの帝国を築き上げた。現在75歳の松久氏は、謙虚な姿勢を保ちながら、師匠の存在やこれまでの人生での経験が自身の成功を持続させていると感謝し、若いシェフたちにインスピレーションを与え続けている。

2. Nobuはなぜ世界で受け入れられるのか

2013年10月の『Harvard Business Review』誌より、アントレプレナーシップについての記事。Nobu Matsuhisaの成功の源は、異文化を受け入れ学ぶ姿勢と、品質維持と創造性を両立させる仕組みにある。ペルーやアルゼンチンでの経験は、多様な文化との調和を生む基盤となった。また、スタッフとの密なコミュニケーションや、情熱を共有できる人材を重視するリーダーシップが、各店舗の高い水準を支えている。さらに、顧客の声に耳を傾け、地域に合った独自の料理を提供する柔軟性も成功要因となっている。情熱、忍耐力、多文化的な視野の広さがグローバル展開を支えている。

3. ピンクの砂浜とヤシの木:Robert De Niroが次に目指す場所。

Nobu Matsuhisa、そして映画プロデューサーのMeir Teperとともに第二のキャリアを築いてきたRobert De Niro。Nobu Hospitalityは42のホテル(開発中のものも含む)、12の住宅開発、56のレストランからなるポートフォリオを持ち、その最新のプロジェクトはカリブ海のバーブーダ島だ。同リゾートは1泊2,500ドル以上のバンガローを備え、プライバシーを重視した設計で、訪問客に自宅のような居心地を提供することを目指している。地元住民の反対やハリケーン「イルマ」の被害を乗り越えながら計画を継続。環境保護に配慮した設計を採用し、ラグジュアリーでありながらアットホームな空間を創出するという。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

「NOBU」オーナーシェフの松久信幸は、昨年でレストラン事業30周年を迎えた。世界のセレブに愛され、ゴールデングローブ賞の公式ケータリングを2年連続で手がける国際的な日本食の第一人者。今や華やかな成功を築く彼だが、その背後には想像もつかない激動の人生が隠されている。建築家の家庭に生まれ、どのような道のりを経て世界的シェフへと至ったのか。CBS NEWSが独占インタビューでその軌跡に迫る。

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