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#050_Sheep トラベリング・サードプレイス

人々の孤独を解消する鍵として改めて注目される「サードプレイス」。しかし、公園やカフェといった物理的な場所を増やすだけでは、本質的なつながりは生まれないという現実がある。従来のサードプレイス論が場所ありきであったのに対し、近年台頭しているのが「トラベリング・サードスペース」——特定の物理的な拠点を設けず、価値観や興味を共有する人々が都市の様々な場所を移動しながら集うコミュニティだ。特定の空間ではなく「どういう人たちと、どういう距離感でいられるか」というサードプレイスの本質に迫る。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

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🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

トラベリング・サードプレイス

©️The Rest Is Sheep

🐕「お疲れさまですー」

🐏「お疲れさまです。突然ですけど、最近バーとかで知らない人と偶然会話して盛り上がったりとか、セレンディピティ的な人との良い繋がりがあったとか、そんなことってあったりします?」

🐕「ほんと突然(笑)。知らない人って、ナンパみたいなことですか(笑)?」

🐏「はは、すみません(笑)。最近またサードプレイス界隈のニュースよく目にするんで、あらためてサードプレイスって何なんだろうって考えてて」

🐕「ああ、さすがサードプレイス研究家(笑)」

🐏「勝手なイメージですけど、サードプレイスって、一緒に来たわけじゃない、偶然出会った人と気軽な会話を交わしたりする、みたいなイメージあるじゃないですか。そんなことほんとにあるんですかね(笑)」

🐕「確かに「理想のサードプレイス」ってそういう側面あるイメージですよね。でもそんなこと実際にはなかなかないですよね(笑)」

スターバックスの「サードプレイス回帰」

🐏「サードプレイスといえばやっぱりスタバですけど(笑)、スタバで横に座ってる知らないお客さんと喋ることなんてまずないですもんね(笑)」

🐕「ないない(笑)。一年前にBrian NiccolがCEOに就任してからあらためて「サードプレイス」への回帰を進めようとしてますけど——」

🐏「はい。パンデミック中に廃止したコンディメントバーを再導入したり、バリスタがカップに手書きのメッセージを書くのを復活させたり、モバイルオーダーのみの持ち帰り専門店の廃止を発表したり」

🐕お客さんとのつながりを再び深めようってことですよね」

Business Insider

🐏「でも、こないだも話しましたけどスタバって現実的には、みんなヘッドフォンしてパソコンで作業してる空間になっちゃってて「バリスタとお客さん、あるいはお客さん同士の温かいつながり」どころじゃないですもんね(笑)」

🐕「韓国のスタバが、店内で何時間も仕事や勉強をする「カゴン(카공)」って呼ばれる人たちがデスクトップパソコン、プリンター、仕切り、マルチタップを使うのを禁止するってニュースになってました(笑)」

🐏「ぜんぜんサードプレイスじゃないですね(笑)」

サードプレイスを問い直す

🐏「そもそもサードプレイスって何なんでしょう。以前話したBook Barのように、スタバが失った「サードプレイス感」をニッチに取り戻そうっていう動きがある一方で、今やどんな空間でもサードプレイスになり得るとも言えますよね」

🐕「はい。サードプレイスは特定の業態で定義できるものじゃなくて、個々人の心地よさで決まる。「どう使うか」が重要だという話でしたね」

🐏「ある人にとってはバーやレストランがサードプレイスだけど、別の人にとっては公園や無料で交流できる場所だし、さらに別の人にとってはショッピングモールがサードプレイスになる」

🐕「もともとの提唱者のレイ・オルデンバーグも「自由な交流が生まれ、偶然の出会いと予期せぬ繋がりが生まれる場所」として、喫茶店、ジム、書店、バー、教会、美容院など多岐にわたる例を挙げていました」

🐏「サードプレイスが帰属意識を育み孤独を解消するパンデミック後の分断された世界でコミュニティを再生する、といった主張は今でも溢れてます。でも「これ作ったらサードプレイスになります」っていう明確な「何か」があるわけじゃない

🐕「ですね。なので「真のサードプレイスなんて存在しない(There is no true third place)」なんて言われたりもするんですよね」

🐏「街にスタバを作れば解決するわけでもない」

🐕「それ、誰でも入れるオープンなWeWorkが一つ増えるだけです(笑)」

「場所」があっても「つながり」は生まれない

🐏「公園みたいな公共スペースもそうですよね。東京や大阪、福岡は世界的にも緑豊かなオープンスペースに恵まれた都市だと言われてますけど、日本の社会分断が解消されているわけではない。国民の4割近くが孤独を感じてるっていう調査結果もあります」

🐕「「カフェがあります、公園があります、バーがあります。はい、これでサードプレイス完備!コミュニティ形成!」って言われても、現実はそう簡単じゃない」

🐏「バーに行けば人との新しいつながりができて、コミュニティが得られるなんて言う人いますけど、どんな人でもそうかっていうとそういうことじゃないですよね」

Japan Travel

「どこにいるか」より「どういるか」

🐏「結局、「場所がある」ことと「居心地良いつながりを感じられる」ことは別物ってことですよね。公共空間がいくらあっても、そこで人がどう行動するか、どう過ごすかが重要なんだと」

🐕Project for Public Spacesのディレクター、Kelly Verelさんも、サードプレイスの働きを評価する基準として「人々が知らない人同士で偶発的な会話をしているか」っていうのを挙げてます」

🐏 「偶然の会話…そんなのなかなかないですよね」

🐕「コロナの影響もあるんでしょうけど、バーやカフェで一人になったときとかも、みんなスマホに逃げがちですよね」

🐏「あー分わかります。バーとかで友達待ってる間とか、やっぱスマホ見ちゃいますもんね」

🐕「だから、サードプレイスを語る上で、場所の再定義だけじゃなくて、我々自身がそこでどう振る舞うかを再学習するってことも必要なのかもしれないですね」

 

 

移動するサードプレイス:新しいコミュニティのかたち

🐕「そういえば最近おもしろい動きがあって、香港に「Tova」っていうメンバーズクラブがあるんですけど、従来のSoho HouseとかCasa Ciprianiみたいな会員制クラブと違って物理的な拠点を持たないんです」

🐏「物理的なクラブハウスを持たないメンバーズクラブですか」

🐕「街のあちこちのカフェ、レストラン、バーとと提携して、毎回違う場所でイベントやってて。メンバーになると、今日はあそこのレストラン、今度はあそこのルーフトップ・バーで集まろう、っていう具合に」

🐏「物理的な場所に限定、制約されないっていうのはおもしろいコンセプトですね」

🐕「参加者が自然な形で出会い、会話する環境を提供しようとしてるんです」

🐏「まさにサードプレイス的な役割を果たそうとしてるってことですね」

🐕「Tovaは最近シンガポールにも進出しました。他にもロンドンの「One House Social Club」が「ロンドンのベストスポット」で開催されるイベントに人を集めて新しい友人と出会える空間が提供したり、ニューヨークにはその名も「3rd Space」っていう名前のトラベリング・ディナーシリーズがあって、クリエイターや起業家を街中のいろんな場所に集めています」

🐏「世界各地で同じような動きがあるんですね」

🐕「香港在住のライター、Patrick Khoはこういった移動型の会員制コミュニティを「トラベリング・サードプレイス(Traveling Third Space)」って呼んでます」

🐏「場所ありきじゃなくて人ありき。移動するサードプレイスってことですか」

🐕「Tovaの創設者のAthena Auさんは「Soho Houseのような従来のメンバーズクラブは「行く」場所だけど、Tovaは「所属する」場所だ」って言ってて、これってまさに、場所からコミュニティへの価値観のシフトを象徴してますよね」

🐏「場所が提供するのはあくまで背景で、そこで生まれるコミュニティこそが本質、っていうことですね」

🐕「スポーツや音楽みたいなフィジカルで文化的なイベントが実は「移動可能なカルチャーパッケージ」であって、場所に固定されるものではない、っていう話や、カフェ、植物店、美容室など日常の空間で日中や早朝に音楽やダンスを楽しむ「ソフト・クラビング」の話ともシンクロしますね」

The Week

サードプレイスの本質とは

🐏「こうしてみると、サードプレイスの本質って「特定の空間」じゃなく、「どういう人たちと、どういう距離感でいられるか」ってことですよね」

🐕「そうそう。その意味では、一人になりたいなってときもあれば、誰かと話したいなって気分の時もある。もっと言うと「一人でいたいけど、他人と同じ空間にいたい」なんてときだってある。もし本当に孤独でよければ、ずっと家に引きこもってれば済むわけですし、わざわざカフェで仕事する必要なんてないですよね」

🐏「「つながる」ことと「放っておかれる」こと、その両方を同時に求めてるって感じでしょうか。自分のコンディション次第で、求めるものって変わってきますよね」

🐕「そうそう。食事やバーに行くたびに新しいつながりを作る必要なんてないし、いつも誰かと深く関わる必要もない。公の場で本を読みながら「今日は一人でいたい」って明確に示すのも全然ありだと思います」

🐏「でも、隣の人が頼んだビールが美味しそうだったら、スマホで検索する代わりにバーテンダーに声かけて「それ、おすすめですか?」って声をかけてみる。そんなちょっとした選択もできますよね」

🐕「そういうちょっとした声かけを許容する環境が、サードプレイス的な瞬間を生むんでしょうね。一晩で親友になる必要はない。「あの店でよく会う人」くらいの緩いつながりでも十分なんです」

🐏「結局、サードプレイスって「スペースありき」じゃなくて「人ありき」。そして「どう居るか」の選択によって、どんな場所でもサードプレイスに変わる可能性があるっていうことですよね」

🐕「あ!そういえば、ありました!」

🐏「え、何がですか(笑)?」

🐕「さっきの、知らない人と偶然会話したみたいな話(笑)。カウンター8席くらいの小料理屋さんでお客さんと二人で食事してたときなんですけど、隣に女性のお客さんが座ってて」

🐏「おお(笑)」

🐕「その店で何度か見かけたことあったんですけどもちろん会話なんてしたことなくて、でも常連っぽくカウンターの中の大将に「焼きそば作ってくださいよー」って頼んでて」

🐏「小料理屋さんで焼きそば、良いですね(笑)」

🐕「メニューには焼きそばなんて載ってないんですよ。でも「いいよ、麺あるから作るよ」みたいなやり取りが聞こえてきて」

🐏「へえーいい雰囲気ですね(笑)」

🐕「そうなんです。横で聞きながら、こっちも焼きそば頼みたいなーなんて気分になってたところに大将が「焼きそばにシャウエッセンいれます?」なんてそのお客さんに聞いたんです」

🐏「飲んだあとのシャウエッセン焼きそば、最高じゃないですか(笑)」

🐕「ですよね(笑)。そしたらその女性のお客さんが「え、私焼きそばにシャウエッセン入れたことないです」って答えたんです(笑)。で、カウンターに座ってた客が全員が「ええっ!」ってその女性に突っ込むっていう(笑)」

🐏「それは突っ込まざるを得ない(笑)」

🐕「はい、結局そのあと「豚肉の代わりにいれることあるでしょ!」みたいな会話をみんなでしながら、カウンターに座ってた全員シャウエッセン焼きそば作ってもらって、結局そのあとその女性もいれて別の店で二次会(笑)」

🐏「シャウエッセンきっかけのナンパですね(笑)」

🐕「いやいや、シャウエッセンが生み出したサードプレイス的な瞬間です(笑)」

🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. 真のサードプレイスは存在しない

サードプレイスとは本来、家や職場以外で人が気軽に集まり交流できる場所を指すが、今ではその定義が曖昧になっている。カフェやバー、公園などが候補に挙がる一方で、物価の高さや営業時間の制限、さらには人と関わることへの不安が妨げとなり、理想的な空間はなかなか機能していない。大切なのは偶然の出会いや安心して過ごせる雰囲気だが、現代の私たちは安全で管理された関係を好み、社交を避けがちだ。その結果「真のサードプレイス」は存在せず、むしろ私たち自身がその場をどう利用し、どう振る舞うかが問われている。

2. サードプレイスは失われ続けている

物価高騰やソーシャルメディアの普及、パンデミックによる社会的距離の影響で、カフェや図書館、公園などのサードプレイスが減少しつつある。特に若者の間で孤独感が増しており、2014年から2019年にかけて友人との交流時間は37%減少した。都市の構造変化や郊外化、車中心の社会もサードプレイスの減少に拍車をかける。カフェなどの場所は高額化し、くつろぐことが難しくなっている。デジタルでのつながりが増えた一方で、対面での感情的な交流の重要性は変わらず、「孤独の蔓延(Loneliness epidemic)」が広がっている。

3. スターバックスは「サードプレイス」となるべく米国内の1,000店舗以上を改装

スターバックスは2026年までに全米で1,000店以上を改装し、顧客にとって再び「サードプレイス」となる空間づくりを目指す。各店舗は一律のデザインではなく、地域や歴史を反映し、木材の質感や柔らかな照明を取り入れた居心地のよい場に刷新される。改装費は1店舗あたり約15万ドル。6四半期連続で売上が減少するなか、顧客回帰を狙い、手書きの名前や無料リフィル、セルフサービスの砂糖・ミルク台も復活させている。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

新プロジェクト『Baa,Baa,Baa.』のお知らせ 🐏

いつもThe Rest Is Sheepをお読みいただき、ありがとうございます。

毎週ニュースレターを制作していると、面白い記事にたくさん出会うのですが、テーマを絞り込む関係で取り上げられないお蔵入りのネタが数多くあります。そうした記事をそのまま埋もれさせてしまうのはもったいない、、、(涙)

そこで、これらのネタを皆さんにお裾分けする新プロジェクト『Baa,Baa,Baa.』を始めることにしました。羊が世界中で「バー、バー、バー」と鳴いてるように、世界中のあちらこちらで面白いことが起きてるよね、という意味を込めてラベリングしました。

カルチャーからテクノロジー、ビジネスまで、私たちが今週気になった記事を5〜10本ピックアップして、簡単な要約と共にお届けします。高カロリーないつもの深掘り記事とは異なり、肩の力を抜いて気軽に読んでいただけるヘルシーな内容を目指しています。

初回配信は今週9/11 (金)を予定しています。乞うご期待🐏

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

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