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#041_Sheep カルチャー・ポータビリティ
ラスベガスで熱狂を生んだイングランドのラグビーリーグ、テイラー・スウィフトのツアーに合わせて急増する国際フライト。スポーツや音楽はもはや一都市に留まるものではなく「移動可能なカルチャーパッケージ」として都市間を移動し、ファンを呼び込み、経済効果を生み出す装置となった。観光資源は地元にある観光資源を磨くだけではなく、外からも調達する時代へ──文化が移動し、人もまた旅をする時代の可能性とリスクをひも解く。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
🔍 Sheepcore
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
カルチャー・ポータビリティ

©️The Rest Is Sheep
福岡の長い夜
🐕「おつかれさまです。大阪出張のホテル見てたんですけど、なんかまた値段上がってる感じしますね」
🐏「ですよね、こないだ福岡行ったときも高かったです」
🐕「あれ、福岡行かれたんでしたっけ?出張?」
🐏「いや、サザンのライブで(笑)」
🐕「え(笑)。サザンのファンでしたっけ(笑)?」
🐏「いや、一生に一度は見ておこうかなーくらいの気持ちで応募したら、運よく当たっちゃって(笑)」
🐕「すごい強運っすね(笑)。泊まりですよね?」
🐏「はい、ライブ前後でラーメンも食べましたし、地元の居酒屋で飲んだり、普通にちょっと観光もしました」
🐕「コンサートとかスポーツみたいなライブイベントは旅行のきっかけになるってことですよね。」
🐏「はい、ライブがなかったら福岡行ってませんでしたし(笑)」
🐕「スポーツや音楽って、いま完全に「人を動かす装置」になってますよね」
🐏「はい、旅行のついでにスポーツ、じゃなくてスポーツのついでに旅行(笑)」
旅するスポーツ・イベント
🐕「今年の3月1日に、ラスベガスでやってたスーパーリーグ(ラグビーリーグ)の試合も話題になってましたもんね。ウィガン・ウォリアーズとウォリントン・ウルブズ」
🐏「アメリカでラグビーリーグの試合ってちょっと意外でした。そもそも両方ともイングランドのチームですよね?」
🐕「はい、10マイルちょっと、車で30分程度しか離れてないイングランド北部の町のチーム同士が、わざわざ大西洋渡ってラスベガスで試合(笑)」
🐏「ホームでもアウェイでもない(笑)」
🐕「その後にオーストラリアのナショナルラグビーリーグの試合もあったり、合計9時間くらいの大型イベントだったらしいです。DJやライトショーなんかもあって、会場は大盛り上がり。結果、観客は45,000人以上」

Allegiant Stadium
🐏「アメリカってぜんぜんラグビーのイメージないですけど、お客さん入るもんなんですね(笑)」
🐕「実際、スタンドの大半はイングランド北西部やオーストラリア南東部のラグビーリーグの聖地から飛行機で駆けつけた熱狂的なファンたちみたいで。でも今回のイベントをきっかけに現地のアメリカ人でラグビーリーグに興味を持った人も増えたみたいです」
スポーツが旅に出る理由
🐏「確かに、ラグビーリーグ側からしたら、新規市場の開拓とか、ファン層の拡大っていうメリットはありますよね」
🐕「はい。もちろん、これまでも「地元じゃないけどファンが多い地域」で試合を開くとか、グローバルなアーティストが海外ツアーするとかはあって——」
🐏「日本人選手がいるMLBチームが日本で開幕戦やる、みたいなやつですよね」

大谷翔平
🐕「そうそう。でも最近の動きはもう一歩踏み込んでて、例えば今回のラグビーリーグみたいに「まだファンが少ない場所」にあえて乗り込んで、現地の観客に「生の熱狂」を届けようとしてる」
🐏「なるほど。ヨーロッパメインだったF1がアメリカで人気を広げたり、ラグビーリーグがラスベガスに進出したり。あえて異なる文化圏や未開の地で勝負することで、新しいファン層を惹きつけようとしてるんですね」
🐕「ですね。しかもいま、スポンサーや放映権、グッズ販売、ライセンスとか、スポーツの収益源がどんどん多様化してるじゃないですか。そういう意味でも「新しい市場を開拓する」重要性は増してる気がします」
🐏「たしかに。新しいエリアの企業とパートナーシップを組んだり、現地スポンサーがついたりすれば、これまでにターゲットにしてなかった市場で収益源を確保できる」
🐕「世界各地で試合を開催することで、グローバルブランドとしての存在感も高められる」
🐏「お金だけじゃなくてイメージ戦略としても効くわけですね」
🐕「そうそう、それと、異国の光景の中で観戦するって、ファンからしたらそれ自体が特別な体験じゃないですか」
🐏「あー、確かに地元のスタジアムでビール片手に観るのとはちょっと違いますよね(笑)」
🐕「スポーツが異なる都市や文化と交わることで、新鮮な物語や体験価値が生まれる」
🐏「実際に行って観戦したファンも「俺たちは歴史の目撃者だ」みたいな気分になれますね(笑)」
🐕「はい、「ドーハの悲劇」とか「ブライトンの奇跡」とか、場所と結びついた物語がどんどん増えていくのもおもしろいですよね」
都市がスポーツを欲しがる理由
🐏「でも、これって都市側にもかなりメリットありますよね」
🐕「実際、2023年11月に初開催されたF1ラスベガス・グランプリは15億ドルの経済効果があったみたいです」

F1ラスベガスグランプリ
🐏「すごいですね…。さっきのラグビーリーグの話でいうと、イングランドやオーストラリアから来たファンたちも、試合だけ観てすぐ自分の国に帰るわけじゃないですもんね。ショーを見たり、カジノ行ったり、食事したり、試合前後で何泊かはする」
🐕「そうなんです。プライオリティ・パスを運営してるCollinson Internationalの調査によると、旅行者の77%は試合やコンサートの1~2日前に到着して、80%は終了後さらに1~3日間滞在するんだそうです」
🐏「イベントを中心に街全体にお金がまわる」
🐕「しかも、イベント後も効果が続くんですよ」
🐏「どういうことですか?」
🐕「例えばカタールでは2022年のサッカーワールドカップ開催の翌年、観光客数が前年比で58%増えたみたいで」
🐏「ワールドカップが終わった後も、観光の勢いが続いたってことですね」
🐕「はい。スポーツイベントをきっかけに都市の名前や魅力が世界中に広がる。都市の広告塔として、スポーツってものすごく強力なんです」
🐏「そう考えると、都市がスポーツイベントを誘致したがる理由がよく分かります」
🐕「スポーツ側にもメリットがあるし、うまく組めばスポーツと都市はWin-Winの関係を築けるってことですね」
ライブツーリズム市場
🐏「ちなみにコーチェラみたいな音楽フェスとか、テイラー・スウィフトのコンサート・ツアーも、さっきのスポーツと同じ構造ですよね」
🐕「やっぱテイラー・スウィフトですよね(笑)」
🐏「はい(笑)。ミラノやミュンヘンで「Eras Tour」やってたとき、米国発のフライト予約が40~45%も急増したってニュース見ました(笑)」
🐕「すごいインパクトですよね。航空需要を左右する女(笑)。Skiftによると、彼女のコンサート来場者は、チケット代以外に平均1,300ドル使ってるそうです」

Skift Research analysis and estimates
🐏「飛行機で移動して、ホテル泊まって、レストランで食べて、タクシーに乗って、グッズを買って…そりゃ経済効果ありますよね」
🐕「そうなんです。Collinson International EMEAのクリストファー・ロス社長も「スポーツや音楽イベントの体験は、スタジアムに入った瞬間からじゃなく、計画を立てるところから始まる。移動そのものや、その過程で高まるワクワク感まで全部含めて体験なんです」って言ってて、そりゃそうだよなぁと」
🐏「その「体験」が積み重なって、巨大な市場になってるってことですね」
🐕「はい、国連世界観光機関(UN Tourism)の試算によると、スポーツツーリズム市場だけでも全世界で6,000億ドル、世界の観光支出の約10%を占めてるとのことで…」
🐏「なんか最近、旅行の目的って多様化してる印象があるんですけど、その中でスポーツやコンサートみたいな「ライブ体験」系は伸びてるってことなんですね」
🐕「はい。さっきのSkiftも2025年のトレンド予測で、エンターテインメント、スポーツ、自然現象とかのライブイベントにあわせて旅行をする「Live Tourism」の勢いが更に加速する年になるって言ってるんです」
🐏「わかります。F1の時期にシンガポール行きたいとか、そういう人いますもんね」
移動可能なカルチャーパッケージ
🐕「日食みたいな自然現象は別として、スポーツや音楽って実は「ポータブルなカルチャーパッケージ」なんだってことですよね。本来は土地に根ざしたローカルな文化なのに、意外と持ち運び可能なんです」
🐏「それが移動することで都市にファンを呼び込み、お金をもたらし、都市の名前を世界中に拡散する」
🐕「はい。従来、国や都市の観光戦略っていうと「地元にある観光資源を磨き上げる」っていう発想が中心だったじゃないですか」
🐏「ですね。自然、歴史、文化、食…地元のものの魅力を高めたり高付加価値化してアピールする。でも、最近は外からカルチャーを呼び込むことも観光活性化につながってるってことですよね」
🐕「もちろん、手当たり次第に人気があるスポーツやアーティストを呼んでくれば良いってわけじゃないけど、グローバルな文脈のなかで外から「ポータブルなコンテンツ」を調達してくる、っていう視点はおもしろいですよね」
🐏「「外からカルチャーを持ち込む」のと「地元発のカルチャーを育てて外から人を呼び込む」のと、両方ある」
🐕「まさに。@hotelとTripscoutの共同創業者兼CEOのKonrad Waliszewskiさんって人がおもしろいことを言ってて:
2025年、バッド・バニーがプエルトリコで30公演のレジデンシーを発表すると、同島への夏の旅行者数は前年比44%増加した。
2024年、テイラー・スウィフトの「Eras Tour」は、世界のホテル収益に10億ドル以上をもたらした。
2017年には、外国人観光客13人に1人が「BTSがいるから韓国に来た」と答えている。
2015年、ジャスティン・ビーバーのミュージックビデオがきっかけでアイスランドの人里離れた渓谷が「死ぬまでに行きたい場所」となり、わずか1年で訪問者が80%増加した。
毎年、ドリー・パートンが手がける「ドリーウッド」には、テネシー州の田舎に300万人以上を呼び込んでいる。
そして、ビートルズは何十年経った今も、リバプールに数千万人を呼び寄せ続けている。
なので、「観光業は「Billboard(広告)」じゃなく「Beat(音楽)」に投資すべきだ。もしその場所が音楽やストーリー、ファンダムに埋め込まれていなければ、旅行者は耳を傾けないだろう」って」

ジャスティン・ビーバー
スポーツは万能薬か?
🐏「でも、どこの都市でも同じようなスポーツイベントをやるようになったら、都市の個性って薄れちゃいますよね」
🐕「均質化は確かにリスクですよね。どこに行っても同じグローバルアーティスト、同じスポーツ、同じような体験…それじゃあ旅行する意味が薄れる」
🐏「せっかく海外まで行ったのに、地元とあまり変わらない体験だったら拍子抜けしますよね。あまりに地元文化との関わりがないと、なんか「輸入品感」が強くて定着しなさそうですし」
🐕「ただ、おもしろいのは、都市の個性とうまく掛け算ができれば同じイベントでも場所によって全然違う体験になり得るってことなんですよね。たとえば、ラスベガスのF1はネオンの輝く夜のストリップを疾走するし、モナコのF1は狭い市街地コースでセレブの社交場になる」
🐏「確かに「場所の力」みたいなのが残っていて、それが同じスポーツにも独特の色を与えてる」
🐕「スポーツ自体は持ち運べるけど、ローカルの「文脈」は持ち運べない。だから、移動先の文化や環境と混ざってこそ、新しい体験が生まれる」
🐏「「イベントさえ誘致すれば万事OK」ってことにはならないですね」
🐕「「カルチャーの調達」はそれによって都市のアイデンティティを作るプロジェクトでもありますし」
🐏「観光戦略困ったらテイラー・スウィフト、じゃ駄目ですね(笑)」
🐕「これ冗談じゃなくて、世界中の政治家たちがテイラー・スウィフトに「Eras Tour」の自国開催を要請してたという(笑)」
🐏「すごい(笑)。スポーツや音楽には人を動かす力があるけど、ほどほどにですね(笑)」
🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. スポーツと音楽観光、$1.5兆ドル規模に
スポーツ・音楽ツーリズムは急成長し、2032年には経済規模が1.5兆ドルに達する見込みだ。特にスポーツツーリズムは2023年の5,647億ドルから1.33兆ドルへ倍増が予測される。音楽ツーリズムも66億ドルから138億ドルへ成長。調査では83%がスポーツ、71%が音楽イベントへの航空移動経験があると回答。F1人気や「Eras Tour」などが需要を牽引し、旅行・宿泊・空港消費も活発化している。ファン体験が経済全体を押し上げる要因となっている。
2. 2025年はLive Tourismの勢いがさらに加速する年になる
2025年は「Live Tourism」が世界的に加速する年である。人々は観光地を巡るだけでなく、コンサートやスポーツ大会、日食といった一度きりの体験を求めて旅に出る。特にテイラー・スウィフトの「Eras Tour」などが火付け役となり、ファンはイベントに合わせて旅行を計画、経済効果は莫大だ。スポーツツーリズムも拡大し、FIFAやF1、スーパーボウルなどが都市に巨額の利益をもたらす。一方、環境負荷やオーバーツーリズムへの懸念も高まっている。旅行は「場所」から「瞬間」を求めるものへと変わりつつある。
3. スポーツファンを呼び込む4つの国
スポーツファンは熱意と消費力を兼ね備えた旅行者であり、スポーツツーリズムは世界の観光支出の約10%を占め、2030年までに17.5%の成長が見込まれている。米国では2024年に1,140億ドルの経済効果を生み、特にワールドカップやオリンピック開催を控えるロサンゼルスや、急速にスポーツ都市化を進めるラスベガスが大型投資を進めている。スペインはサッカー文化を軸とし、バルセロナやマドリードがスタジアム観光や国際試合を旅行の目玉として活用している。オーストラリアは国の公式カラーにちなんで名付けられた「Decade of Green & Gold」戦略のもとオリンピックやF1を誘致し、メルボルンではNFL初の公式試合も予定される。南アフリカは温暖な気候と豊かなスポーツ文化を背景に、ゴルフやクリケット大会を開催し、社会変革と経済成長の原動力としてスポーツツーリズムを位置づけている。スポーツは今や各国の観光戦略の中心となりつつある。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
SGグループの次なる一手。おまかせカクテルバー「参階」が来月オープン🥃
みんな大好きSGグループが手がける新たなプロジェクト。現「The SG Club」の3階に、おまかせカクテルバー「参階」が8月6日にオープンすることが公式インスタグラムで発表されました。
同店のコンセプトは"テロワール×テロワール"。日本と海外という異なる二つの土地の素材を巧みに組み合わせ、これまでにない味わいを生み出すというアプローチです。日本全国から厳選した國酒、四季の移ろいを感じさせる旬の食材、そして世界各地を巡って仕入れた希少な材料を掛け合わせることで、『究極のカクテル体験』を提供するとのこと。
バーテンダーにすべてを委ねる「おまかせ」スタイルで、訪れる人それぞれに合わせた一杯を提供するという。日本の繊細な味覚と世界の多様性を融合させるSGグループのクリエイティブ力に期待が高まります。
最近の「The SG Club」は、インバウンドのお客が9割ほど(体感的に)で、夕方と深夜以外は混雑している印象。海外で話題になる前に、ぜひ一度体験してみることをお勧めします。楽しみですね!🐏
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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