#044_Sheep ソフト・クラビング

カフェ、植物店、美容室など日常の空間で、日中や早朝に音楽とダンスを楽しむ新たなクラブカルチャー「ソフト・クラビング」。従来の深夜のクラブとは異なり、ノンアルコールで健康的、経済的にも手軽なこの現象は、Z世代や若者のソバーキュリアスな価値観、インフレ下でのコスト意識、パンデミック後のリアルな繋がりへの渇望を反映。音楽を通じた一時的なコミュニティ形成を日常に溶け込ませ、従来のクラブ文化へのアンチテーゼ的な意味合いを持ちつつ、選択肢の一つとして広がっている。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

ソフト・クラビング

©️The Rest Is Sheep

 

🐕「おつかれさまですー。なんか疲れてます?」

🐏「昨日の夜、久々に新宿のクラブ行ってきたんですよね(笑)」

🐕「ああ(笑)」

🐏「付き合いで誘ってもらった周年のイベントだったんですけど、夜中までやっちゃいました(笑)」

🐕「クラブなんて久しく行ってないですね、、、お客さん入ってました?」

🐏「まあそこそこ、ってとこですかね。インビテーションもらって来てるっぽい、「あなた普段クラブとか絶対来ないでしょ(笑)」みたいないかにも関係者風の人とかがたくさんいました(笑)」

🐕「スーツとネクタイで来ちゃだめでしょ、的な(笑)」

🐏「はい(笑)、まあでも、夜中に爆音の中で酒飲みながら踊るってもう身体ついてかないっすね(笑)」

🐕「それで疲れてる、と(笑)」

🐏「もう若い頃みたいなノリは全然無理です(笑)」

🐕「あ、でも、いまの若い人は若い人で、必ずしも我々の若い頃みたいなクラブの楽しみ方してるわけじゃなさそうですもんね」

🐏「あー、いわゆる「クラブ離れ」的なやつですか?」

 

 

カフェがクラブに変わるとき

🐕「はい、大きくはそういう流れもありますし、最近アメリカとかイギリスで、カフェとかがクラブ化してるって話、よく聞きますよね」

🐏「カフェにDJブース入れて音楽かけて、みたいなことですか?」

🐕「はい、カフェみたいな「非クラブ的空間」で開催される新しいタイプのクラブイベントって感じですかね」

🐏「確かにカフェのメイン時間帯とクラブが盛り上がる時間帯ってズレますもんね。「間借り」や「二毛作」的には理にかなってるとも言えそうです」

🐕「いや、既存のベニューを使うっていう意味では「間借り」的ではあるんですけど、夜中とかじゃなくてカフェの通常営業時間帯にやったりしてるんですよね」

🐏「えええー、明るい時間にクラブってことですか?」

🐕「そうそう、たとえばAM.RADIOっていうオーガナイザーが主催してる「Morning Sets」っていうイベントがあるんですけど、いろんな都市のコーヒーショップで DJ 呼んで日中にクラブイベントやってたり」

AM.RADIO MIAMI

 🐏「うわ、すごい人(笑)」

🐕「理髪店やカフェとしても営業するサンフランシスコの植物店、The Mellowが観葉植物に囲まれた空間で数百人が真っ昼間から踊るイベント開催したり、ロンドンのソーシャルウェルネススペース、The Sanctuaryがスパの中に耐熱のサウンドシステム(笑)持ち込んで「サウナ・レイヴ」やったり」

🐏「カフェに限らずあらゆる場所がクラブ化してる(笑)」

🐕「はい、他にも昔映画館だった大型スペースとか、屋外の交流スペースとか、色んなところが「クラブ」になってる」

 

 

早朝のパーティ

🐏「これ、写真とか映像見ると明るい感じしますけど、これほんとに日中やってるんですね(笑)」

🐕「もちろん夜のイベントとかもあって、でも、24時前には終わります!みたいな(笑)」

🐏「いやー、健全(笑)」

🐕「あとは、以前日本にも来てましたけど、DAYBREAKERのスケジュールとか見ると、朝6時開始のイベントとかもあって(笑)」

DAYBREAKER

🐏「ホントだ、そして朝9時には解散(笑)」

🐕「下手したらイベント終わる時間、まだ起きてないんじゃないですか(笑)?」

🐏「いやー、ありえますね(笑)。っていうか、何ならまだ普通のクラブで夜中騒いでた人たちなんて街に放出されて道端で酔っ払ってますよね(笑)」

🐕「ですね(笑)。いわゆる “walk of shame” な時間帯(笑)」

🐏「でもって朝9時には解散(笑)」

🐕「はい(笑)。さっきの二毛作の話でいうと、サンフランシスコにHigh Treasonっていうワインバーがあって、そこ夕方4時くらいから営業してるんですけど、むしろその前のクローズしてる時間帯にコーヒー提供してDJが音楽かけるHigh NRGっていう業態やってたり」

🐏「バーの空き時間の間借りといえばカレーのはずが(笑)」

🐕「「すみません、クラブ営業したいんで空き時間帯貸してもらえますか?あ、午前中なんですけど」みたいな(笑)」

 

 

コーヒー・パーティ

🐏「時間帯もそうですけど、ベニューがカフェだったりするってことは、この手のやつって、やっぱノンアルってことですか?」

🐕「はい、燃料はアルコールじゃなくて、コーヒーとか抹茶ですね(笑)」

🐏「カフェインでテンション上げてくぜってことですか(笑)」

🐕「シカゴで週末の昼間にやってるCafetónっていうレゲトン・パーティがあるんですけど、そこはラテン系オーナーが経営するコーヒーショップを4店舗集めて開催してて、参加者たちは抹茶ラテとかストロベリーラテとか、トレスレチェケーキ片手に踊るみたいです(笑)」

Cafetón

 

 

ソフト・クラビングとその要素

🐏「いずれにしても、ぼくらが昔から知ってるクラブとは違う形の体験が出てきてるってことですね」

🐕「これ、最近Soft Clubbing(ソフト・クラビング)って言われてる現象で、いろんな要素があるんですけど、一番わかりやすいのは場所の変化ですよね」

🐏「ですね。いままでは「クラブ」っていうと、その体験と同時にあの専用の空間、ハコのことを指してたわけですけど、今じゃ、カフェ、植物店、美容室、ベーカリーでDJがターンテーブル回してるってことですもんね」

🐕「クラブ体験のために作られた特別な場所じゃなくて、カフェや美容室みたいな普段の生活の一部にDJセットやライブ音楽を加えて、平凡な場所に特別な「クラブ体験」を持ち込んでる

🐏「クラブっていう「聖域」の中から日常的な場所に音楽とダンスを解放した」

🐕「これって音楽の本質的な力を証明してる気がします。音楽は持ち運び可能で特別な場所じゃなくても、音楽とちゃんとした文脈さえあればそこが音楽体験の場になる

🐏「じゃあこれまでのクラブって何だったわけ?ってことになるわけですけど、これまではクラブっていう場所が持っていた「非日常性」みたいなものが価値だった、ってことですかね」

🐕「はい。暗闇、大音響、ミラーボール——日常から完全に切り離された空間。でも、ソフト・クラビングは真逆で、日常の延長線上に音楽体験を持ってきた

🐏「その意味では、ソフト・クラビングでは暗闇、暗い時間である必要すらなくて、だからこそ早朝とか真っ昼間の明るい時間帯にクラブ体験を作ろうとしてる」

Emerald Lounge

 🐕場所性と並んで大きいのは時間帯の変化これまでのクラブ文化って、深夜っていう時間帯が持つ「解放感」や「非現実感」みたいなものに依存してましたよね。夜だからハメを外していい、夜だから普段とは違う自分になれる、みたいな(笑)。でもそれも開放されて、朝とか昼にクラブが染み出してきた」

🐏「でも、朝昼だと、そういうハメ外す感じにならなさそう(笑)」

🐕「むしろそれが狙いなのかもしれないですね。ハメ外さなきゃいけないわけじゃないよ、と。若い世代の感覚にフィットしそう」

🐏「その意味では、ノンアルっていうのもいかにも今の若い世代のニーズですよね」

🐕「はい、彼らのソバーキュリアス(sober curious)なトレンドを反映してますよね」

🐏「アルコール離れって、健康やウェルネスに対する意識もそうですし、経済的な理由もありますもんね」

🐕「場所、時間、ドリンク。これまでのクラブ体験を構成してた基本的な要素が、ソフト・クラビングでは全部変わっちゃった

🐏「そしてDJと音楽だけが残った(笑)」

🐕「あとお客さん(笑)」

🐏「確かに(笑)。でも、場所も時間も飲み物も従来のクラブとはまったく違うのに、ソフト・クラビングって「クラブ」って言っていいんですかね?ソフト・クラビングの「クラブ的要素」って…」

🐕「DJと音楽とお客さんは変わらずに残った、ってことでいうとキュレーションされた音楽空間をリアルに共有する体験、ってとこですかね」

🐏「キュレーションされた音楽空間の共有、確かに」

🐕「クラブって本来、見知らぬ人たちが同じ音楽を同じ空間と時間の中で体験することで、一時的なコミュニティを形成する場所だったじゃないですか」

🐏音楽を通じて一体感を感じる、ってことですよね」

🐕「ソフト・クラビングは、その「音楽を通じた一時的なコミュニティ形成」っていうクラブの核心的な機能を、より親密で健康的な環境に移植した、っていう感じなのかなあと」

🐏「なるほど。だから「ソフト」なんですね。従来のクラブから過剰な刺激を取り除いたクラブ体験」

🐕「アルコールがなくても、音楽があれば人々はつながれる。真夜中じゃなくても深い体験はできる。大きな空間じゃなくても、コミュニティは形成できる」

 

 

いまなぜソフト・クラビングなのか

🐏「こういう「ソフト」なスタイルが支持されてるのって、やっぱり今の若い世代の感覚によるところが大きいですよね」

🐕「特にZ世代とか若いミレニアル層って、「カオスで朝4時までな夜」とかまったく求めてなさそう。オールで遊んで次の日使い物にならない、みたいなのはオールドスタイルだ、と(笑)」

🐏「耳が痛いです(笑)。あと、経済的な要因も大きそうですよね。カクテル一杯15ドルとか、正直出費としては痛いですし」

🐕「インフレで可処分所得が減ってるって感じてる若者は多いはずですし、そんな状況だと、高いお金払って深夜までお酒飲むより、チルな雰囲気で良い音楽を聴きながら、美味しいコーヒーを飲んでる方が満足度高いなあ、って考えるのは自然なことかもしれないですね」

🐏「ドリンク代も普段飲んでるコーヒー代と変わらない(笑)」

🐕「もっと言うと、従来のナイトライフ産業って、高いカバーチャージ、高いドリンク代、高いUber——とにかくお金を使わせる仕組みだったわけですよね。でも、ソフト・クラビングは「カバーチャージは低額か無料」「手頃な価格のソフトドリンク」「公共交通で帰れる時間に終了」っていうのが基本で」

🐏「確かに、経済的にも「ソフト」ってことですね(笑)」

🐕「はい、なので、コストも含めて良くも悪くも排他性があった従来のクラブカルチャーから距離を置いてることも重要なんだろうなあと。「ドレスコードなし」「入場規制なし」「誰がインで誰がアウトか、みたいな判断なし」みたいな」

🐏従来のクラブカルチャーに対するアンチテーゼ的な側面もあるってことですね」

🐕「見栄のために高いお金払って、写真撮るために行列に並んで——そういうのに疲れた人たちが、純粋に音楽と仲間を楽しみたいと思って参加してる」

🐏「そういった人たちの受け皿になってるのがソフト・クラビング」

🐕「あともう一つ、パンデミックを経て、みんなリアルな場での繋がりを求めるようになったけど、ただ集まるだけじゃなくて、共通の趣味や関心を通じた、より深く、意味のある繋がりが欲しいんですよね」

🐏「ちょっと前からランニングクラブとかブックバーとか、趣味をフックにしたコミュニティが人気集めてるのも、その流れですよね」

🐕「なので、ソフト・クラビングは逃避とか発散のための場所っていうより、むしろ自分自身やコミュニティに同調する(tuning in)ための場になってる気がします」

🐏「確かにこれまでのクラブって社交の場でしたけど、大音量と暗闇とアルコールで、「深い会話」は無理でしたよね(笑)。ソフト・クラビングは、音楽っていう共通体験は残しつつ、より会話しやすい環境を作ってるとも言えますね」

Cafetón

 

 

選択肢としてのソフト・クラビング

🐕「ただ、失われてるものもあると思うんです。夜のクラブが持ってる「ルール破り」的な側面——社会的規範をちょっとはみ出すかもしれないっていうような予感を感じさせるところとか」

🐏「ハメを外す自由、みたいな?」

🐕「そうそう。人間って、ときには非合理的で、ちょっと危うい体験への予感が魅力だったりもしますし、ソフト・クラビングは健全すぎて物足りないって人もいますよね」

🐏「すべてが最適化された体験に逆に物足りなさを感じる人もいるでしょうね」

🐕「あとは、暗くて没入感のある空間でこそ輝くような音楽もありますよね。ロンドンのOrmside、Venue MOT、FOLDみたいなベニューは、そういう音楽のためのコミュニティを守ってる」

🐏「棲み分けってことですよね」

🐕ソフト・クラビングは全部を置き換えるんじゃなくて、選択肢の一つ。ヘルシーで、音楽楽しめて、コーヒー飲んで帰れるなら、これまでのクラブとは違った選択肢として魅力的ですよね」

🐏「確かに。ソフト・クラビング、ちょっと興味出てきたかもです」

🐕「じゃあ、今度朝6時開始のDJイベント行ってみます(笑)?」

🐏「……それ、ぼくらにとって最大の非日常かも(笑)」

🐕「夜通し遊ぶより、早起きの方がハードル高いっていう(笑)」

🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. 新たな遊び方のスタイル「ソフト・クラビング」

ソフト・クラビングは、深夜の騒がしいクラブに代わり、若い世代の間で人気を集める新たなナイトライフの形。カフェや美容室など親密な空間で、DJセットを楽しみながら深夜前に解散するスタイルが特徴。過度な刺激を避け、気軽に社交を楽しむことが目的で、入場料は低め、ドリンクも任意。AM.RADIOやTell Somebodyなどの主催者が牽引し、ロンドンやメルボルンなどでも同様の動きが広がる。新しい価値観に基づく文化的進化と言える。

2. 2025年は「ソフト・クラビング」の年

従来のクラブ文化が衰退する中、音楽体験はリスニングバーや早朝イベント、日常空間でのDJセットなど多様に進化。パン屋やジムを会場にした一夜限りのイベントや、チェスクラブやランニングクラブとの融合も登場。深い交流を求め、飲酒を控える世代にマッチした新たな社交の形として広がっている。アパートの居心地の良い空間で収録されるApertment Lifeやエレベーターのセットから配信するElevator Musicなど録画配信にも親密な空間が好まれ、「音楽のある場」が人々をつなぐ。ロンドンではナイトライフ再生のためのタスクフォースも始動。

3. ロンドンにサウナレイブがやってきた

ロンドンで新感覚の「サウナレイブ」が開催された。会場は円形サウナや冷水プールを備えたウェルネス空間で、アルコールは禁止。代わりにノンアルコールカクテルが提供され、DJや生演奏が行われる中、参加者は水着姿で踊り、熱気と音楽に没入する。主催者は、サウナの円形構造が平等で一体感ある空間を生むと語る。酔わずに高揚感を楽しむこの新しいパーティー文化は、健康志向の新たな夜遊びとして注目されている。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

赤羽の魚屋から見えてきた「ソフト・クラビング」という潮流🎧

先日ご紹介した「Login.jp」——消えゆく街の風景をアーカイブするプロジェクト。実はこの活動、世界的なムーブメントと根っこで繋がっていた。

朝6時開始のクラブイベント、カフェでのレゲトン・パーティ、植物店での数百人ダンス——Sheepcoreで紹介した「ソフト・クラビング」と呼ばれる現象。「Login.jp」とは目的こそ違うが、「音楽を通じた文化活動」という点で共通している。

どちらも、従来のDJイベントという枠を超えて、日常空間に音楽を持ち込む。暗闇も深夜もアルコールも必要ない。必要なのは音楽と人だけ——金さんと溝口さんが「The Shoten」シリーズで見せた光景は、アーカイブという動機から生まれながらも、結果的にソフト・クラビングの形を体現していた。

コロナ禍で中高生だった彼らが従来のクラブの「密」な空気感に違和感を覚え、「音楽を通して人と緩やかにつながれる場所」を模索したのも、世界のZ世代と共通する感覚だ。海外がカフェや植物店を舞台にするなら、日本では商店街の魚屋、純喫茶、駄菓子屋、アンティーク家具店、伝統工芸の工房——身近な日常空間が音楽体験の新たな舞台として機能している。

アーカイブという動機から始まった活動が、結果的に新しい音楽体験の形を見せている。「特別な誰かだけができることじゃない」という彼らの言葉通り、身近な場所から生まれる文化って案外面白いのかも🐏

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

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