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#028_Sheep ベルリンはまだ、貧しくセクシーか

「ベルリンに訪れた「クラブの死(Clubsterben)」——。ベルリンの壁崩壊後、自由と混沌を謳歌したナイトライフの都が、いま静かに転機を迎えている。コロナ禍による観光客の激減、ジェントリフィケーションによる地価高騰、そしてZ世代の価値観の変化。かつて「Poor but Sexy」と称された街は、今なお自由を体現し続けられるのか。WatergateやWilde Renateといった名門クラブ閉鎖の背景をたどりながら、ベルリンの夜の未来を探る。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

ベルリンはまだ、貧しくセクシーか

©️The Rest Is Sheep

はいどうもこんばんは!日曜22時、東京のどこかからお送りしております「The Rest Is Sheep」の時間がやってまいりました。あなたの幸せな週末が終わりを迎えようとしているこの憂鬱な時間帯、いかがお過ごしでしょうか?

ええと私ですね、この間パスポートの更新に行ってきたんですよ。有楽町の交通会館、あの上のレストラン昔はぐるぐる回ってたんですけどいつの間にか止まってました(笑)。ってどうでもいいですね(笑)。

それにしてもパスポートセンターの混み具合っつったら!とにかくすごい数の人のなか、ちょっと待ち時間もあったんで「あー、あのときこんな国行ったなあ」なんて古いパスポートペラペラめくってたら、2020年の初め、コロナでベルリンへの出張キャンセルしたのをふと思い出しまして(笑)。

フライトもホテルも現地でのカンファレンスのチケットも抑えてたし、ついでにサイモン・ラトルのベルリン・フィルも予約してました(笑)。でもまあ何といってもクラブのバウンサー——いわゆるドアマンですね——をパスして中に入れるかどうかっていうのが自分のなかでは裏テーマだったわけですよ(笑)。服どうすっかなあーとかちょっとソワソワしてたんだけど、パンデミックのせいで仕事の予定が見事に中止。全旅程キレイにキャンセルしました(笑)。

そんなわけで、今日はあのとき「行けなかった街」、というか「通過できなかったドア(笑)」、ベルリンのクラブカルチャーとナイトライフについて取り上げます。それでは、今夜もゆるりとお付き合いください。「The Rest is Sheep」スタートです。

♪ 番組ジングル

‘poor but sexy’

パリにファッションがあって、コペンハーゲンにデザインがあるように、ベルリンにはクラブがある——そんなこと言ってたBBCの記事があって、まさにその通り、「ベルリンといえばクラブ」っていうイメージはそれなりに定着してるんじゃないでしょうか。自由奔放でハチャメチャな快楽主義、どこまでも響き続けるテクノ、そして週末ぶっ通しのパーティー。ベルリンはまさにヨーロッパの「Party Capital」として君臨してきたわけです。

でも、どうしてベルリンがそんな「パーティーの聖地」になったんでしょう。そのヒントは、2003年にKlaus Wowereitさんという当時のベルリン市長がふと発して有名になったひと言「arm aber sexy」——英語だと「poor but sexy」、日本語だと「貧しいけどセクシー」にあります。この言葉は見事に当時のベルリンのクラブカルチャーも言い表してるんですよ。

90年代、壁が崩れて統一ドイツになったはいいけど、ベルリンは経済的にはかなりしんどい時期に入ります。とくに旧東ベルリンなんかは、廃墟や空きビルだらけ。でも、そんな「貧しさ」が、逆に「セクシーさ」の源泉となったわけ。

家賃は安いし、使われていない空間はあちこちにある。そんな場所に、世界中の若者たちがどんどん集まってきた。で、そいつらが廃墟にスピーカーを持ち込んで、テクノ鳴らして、朝まで踊るっていうパーティーを始めた。肩書きもルールも関係なし。ただ、音楽と自由、そしてその場の多様性を楽しむだけ。そういう空間が、自然発生的に生まれていったわけです。

このDIY精神が詰まったクラブカルチャーは、やがて音楽の枠を越えて、アートやファッション、ライフスタイルにまで広がっていきます。そして気づけば、ベルリンは「世界のカルチャー都市」として名を上げていくんですね。

Berghain

中でも象徴的なのが、あの「Berghain」。名前を聞いたことがある人も多いんじゃないでしょうか。元は発電所だった巨大な建物で、今でも週末になると何百人もの人が長蛇の列を作ります。ドアポリシーが異常に厳しくて、全身黒コーデでクールにキメて行っても、バウンサーの気分ひとつで「きみは無理」って門前払いされちゃう。みんな「どうすればBerghainに入れるのか」って、まるで都市伝説みたいに語り合ってる(笑)。

ちなみにこの「選別」を象徴する存在として知られているのが、刺青とピアスのチーフバウンサー、Sven Marquardtさん。鋭い眼差しで、人を見てるのか、空気を読んでるのか、気まぐれなのか、とにかく彼の存在がこのクラブの神秘性を高めてるんだけど、こいつをどう通過するかっていうのがね(笑)。ぜひSven Marquardtさんの画像ググって考えてみてください(笑)。

でも、こうしたベルリンのクラブ文化には、単なる夜遊びやハードパーティーとは違う深みがあります。背景には、ベルリンの歴史があって。冷戦時代、東ベルリンの地下壕なんかで、政治的な抑圧から逃れるように違法クラブが開かれて、何日もぶっ通しでレイヴが行われていた。ある意味、クラブって「逃げ場所」でもあったんですよ。その名残は今も息づいていて、今でもBerghainではスマホのカメラにシールを貼って撮影を禁止してて、これは「秘密主義」的に見られることもあるけど、現実から切り離された「特別な空間」を守り続けてるってことでもあるんです。

そして2024年、そんなベルリンのクラブ文化が、ついにユネスコの無形文化遺産に登録されました。つまり、クラブはこの街にとって単なる娯楽じゃなくて、歴史や自由、カウンターカルチャーを体現する「文化」なんです。今もなおこの街は、世界に向けて「パーティーとは何か」「その楽しみ方とは何か」を問い続け、教え続けてるんです。

そんなベルリンのクラブカルチャーに敬意を表して、BerghainのレジデントDJとして君臨するBen Klockの代表曲いっときましょう。

♪ Ben Klock "Subzero"

パーティの終わり

でもね、そんなベルリンのクラブカルチャーの雲行きが最近ちょっと怪しくなってきてるんですよね。

Watergate

あのWatergate、知ってます?2002年にオープンして、シュプレー川沿いの最高なロケーションに、ド迫力のサウンドシステム。世界中のトップDJたちがこぞってプレイしに来て、金曜の夜なんて観光客でパンパン、客の半分以上が海外からっていう、まあクラブ好きには聖地みたいな存在だったんだけど——コロナでガラッと変わっちゃった。観光客がピタッと来なくなって、その上で電気代も人件費も賃料もガンガン上がる。経営的にはもう限界。で、2024年の年明けパーティーを最後に、22年の歴史に幕を下ろすことになりました。

Watergateの経営陣はインスタの公式アカウントに、こんなコメントを残しています。

The days when Berlin was flooded with club-loving visitors are over.
ベルリンにクラブを愛する人びとが殺到した時代は終わった。

……なんか切ないよね。でもWatergateだけじゃないんです。たとえばWilde Renate。ベルリン東側の古いアパートを改装した、複数フロアにまたがった迷路のような構造のクラブ。ここも2025年末でクローズが決定してます。

こうしたクラブの閉店ラッシュは、現地では「Clubsterben」って呼ばれてて、日本語にすると「クラブの死」っていう意味なんだけど、欧米のメディアではすごくセンセーショナルに取り上げられてます。

なんでこんなことになってるかっていうと、大きな理由のひとつがジェントリフィケーション。かつては家賃が安くて、アーティストやクラブが自由に活動できる空き物件がゴロゴロあったベルリンが、今やオシャレなカフェや高級マンションだらけになって、地価も家賃も爆上がり。ついでに電気代、スタッフの給料、DJのギャラまで全部がインフレ状態。クラブがそういうコストに耐えきれず、どんどん街から消えていってる。

Z世代は違った楽しみを求めている

ちなみにさっき、Watergateの経営陣のコメントを引用したけど、同じポストの中で「次のクラブ世代におけるナイトライフの力学の変化と、クラブカルチャー全般の重要性のシフト」も閉店の決断を促す原因の一つだって言ってるんですよね。これめっちゃ重要なんです。少し言い換えると、今の10代後半から20代半ばの若者たち、いわゆるZ世代のクラブ文化に対する見方がガラッと変わってきてるってこと。

Watergate

かつてクラブってどういう場所だったっけ?「大人の遊び場」「ちょっと危険でカッコいい憧れの場所」でしたよね。音楽と自由が渦巻く、誰でも自分を解放できる空間。

でも今の若者たちにとって、それが逆に「ルールだらけの世界」に見えちゃってる。「黒い服を着なきゃいけない」「しゃべりすぎると怒られる」「ドアマンに気に入られないと入れない」…気づけばクラブに行くこと自体が、ある種の「制度」や「儀式」みたいに思えてくる。

彼らは考えるわけです。「なんで楽しむためにこんなに緊張しなきゃいけないの?」「自分らしくいられないなら、クラブの意味ってあるの?」今の若者は以前の世代ほどお酒も飲まないし、何時間も並んで「ドレスコードは大丈夫?」なんて心配するより、もっと気楽に楽しめる場所を求めているんですね。

そして、コロナのロックダウン。約2年半クラブが閉まってた間に、そもそもクラブカルチャーに触れる機会すらなかった若い世代が増えました。彼らがこれまでの「儀式」みたいなクラブカルチャーに価値を感じなくなってるのも自然な流れです。

まとめると、今の若者は「自由で自分らしくいられる場所」を求めていて、昔のクラブの「特別感」や「ルール」にはもうあまり惹かれなくなってきてる。コロナでクラブに触れる機会も減ったし、経済的なハードルも上がった。そんな時代の流れが、クラブカルチャーやナイトライフのあり方を大きく変えている――ベルリンのクラブシーンは単に景気が悪いだけじゃなく、若者の価値観の変化という大きな波に直面してるってことだよね。

クラブの未来

さてさてそろそろ終わりの時間が近づいて来ました。なんとなくここまで、少し暗めの話が続きました。でも、そこはベルリン。ただ「クラブの死」を嘆くだけじゃ終わらない。ベルリンのクラブシーンがどんな未来に向かっているのか、番組の最後に少しだけお話しましょう。

実はベルリンの若い世代の中には、すでに新しいナイトライフのかたちを模索し育ててる人たちがいます。たとえば、アフロビートやアラブのエレクトロ、ブラジル音楽など、テクノだけじゃない、これまでベルリンにはなかった多様なジャンルのパーティーがあちこちで盛んになってきています。「MAAYA」や「ADIRA」といった新しいコレクティブは単なるダンスイベントを超えて、映画の上映やパネルディスカッション、アートの展示なども取り入れた多層的なカルチャー空間を生み出しています。

MAAYA

その背景には、POC(有色人種)、クィア、FLINTA(女性、レズビアン、インターセックス、ノンバイナリー、トランスジェンダー、エイジェンダー)といったコミュニティによる「セーファースペース」をつくる動きがある。つまり、誰もが安心して、自分らしくいられる夜をつくろうという試みです。

クラブは今も昔も、アウトサイダーたちの避難所であり続けています。その根っこには、あの「Poor but sexy」な精神が息づいていて、今の若者たちは、それをより繊細に、批判的にアップデートしているように思います。

アルゴリズムや均質なエンタメ、既存の「クラブカルチャー」に疲れた彼らは、仲間とともに、自分たちのペースで、境界のゆるやかな夜を育てている。文化って、いつだって「辺境」から生まれてくるんですよね。かつて、ベルリンのクラブも壁崩壊後のカウンターカルチャーとして生まれたけど、気づけばすっかり大人たちのメインストリームになった。で、今、そのメインストリームの中から、また新しいカウンターカルチャーが芽生え始めてる、そんな感じです。

さてさて最後にもう一曲。どうしようか悩んだんですが、私が2000年に聴けなかったラトルとベルリン・フィルの演奏で今日の放送終わりたいと思います。散々テクノだのクラブだのって話しておいてクラシックかよって感じですが(笑)、多様性ってことでね、オリヴィエ・メシアンどうでしょう(笑)。

晩年の作品でメシアンの音楽的・宗教的世界観の集大成とも言える管弦楽作品。この「来世への憧憬と啓示の音楽」を聴きながらベルリンのクラブカルチャーの未来に思いを馳せつつ、また来週お耳にかかりましょう。おやすみなさい。

♪ オリヴィエ・メシアン『彼方の閃光 …』より「第10楽章 神の道」(サイモン・ラトル/ベルリン・フィル)

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. ユネスコ無形文化遺産に登録されたベルリンのテクノ・シーン

ベルリンのテクノ文化は、1989年のベルリンの壁崩壊後、自由を求める若者たちが倉庫や空き家で始めたムーブメントから生まれ、都市の再生と多様性の象徴となった。クラブは音楽だけでなくライフスタイルや価値観の拠点ともなり、ベルリンの寛容な都市文化を形成した。この独自の文化が2024年、ユネスコ無形文化遺産に登録され、政府支援や保護の対象に。高騰する家賃やパンデミックの影響を受けたクラブにとって、継続的な存続に向けた追い風となるか。

2. ベルリンのクラブシーンは回復できるのか?

ベルリンのクラブ文化は、1990年代初頭の自由で創造的な精神から始まり、空き倉庫を即興でクラブに変える「楽園」のような時代を経て、現在では商業化と規制強化、家賃高騰、A100高速道路建設計画などの圧力に直面している。名門クラブWatergateやRenateの閉鎖が決まり、多くのクラブが営業難に陥っており、「Clubsterben(クラブの死)」は現実味を帯びている。真の再生には制度的支援と、かつての地下精神の再興が不可欠だ。多様性やコミュニティを育む場としてのクラブの意義を見直す時期に来ている。

3. なぜニューヨークのクラブの閉店が続くのか。

ニューヨークの人気クラブ「Paragon」閉店の背景には、ナイトライフ業界が直面する厳しい現実がある。ウィリアムズバーグやブッシュウィックでは、かつては手頃だった倉庫物件の賃料が数倍に跳ね上がり、クラブの運営に重くのしかかっている。加えて、店内でトラブルが発生した際の訴訟リスクに備える保険料も高騰。若者のアルコール離れによる売上減も追い打ちをかけ、いくら客で賑わっていても経営は苦しい状況だ。老舗クラブでさえ、次々と閉店を余儀なくされている。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

日本初上陸のハワイアンレストラン『Tiki's Tokyo』。2025年4月25日(金)グランドオープン🍩

界隈ネタです。(笑)先週末、4月25日(金)に、噂の商業施設「代々木公園 BE STAGE」にハワイアンレストラン『Tiki's Tokyo』がオープン。約160席の大箱で、ハワイのシグニチャーディッシュを展開し、日本食材を取り入れた料理など、さまざまなメニューを提供予定とのこと。

本事業は、東急不動産、Zero-Ten、EDGEof Creativeの3社で有限責任事業組合を設立し、『Tiki's Tokyo』を軸としたレストラン・物販・イベント等を行うプラットフォームの実現を目指しているそうです。最近こういうの多いですね。テクノかけてほしいな。(笑)とりあえずマラサダを食べに行こう🐏

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

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