#027_Sheep 小咄「抹茶」

茶道の象徴であり、渋みと静けさを味わう大人の飲み物だった抹茶が、いまや海外ではラテとして親しまれ、TikTokでは「#MatchaTok」のハッシュタグとともにバズを巻き起こしている。外国人は熱狂的に日本産の抹茶を求めるが、一方で日本国内では緑茶離れが進むという皮肉な状況も。ハーゲンダッツやスターバックスの先駆的な商品展開、健康志向の高まり、SNSにおける「映え」文化など、複合的な背景をたどりながら、若者世代やインバウンド観光客によって支えられる“Matcha”ブームの実像に迫る。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

小咄「抹茶」

©️The Rest Is Sheep

ええ、本日もたくさんのお運び、ありがとうございます。

いやもう、すっかり春でございますな。つい最近まで凍えるような寒さだったのが、嘘みたいにポカポカ陽気。桜も散って、すっかり春本番でございます。ですけどね、最近の気候ってのはどうもせっかちでございまして、春が来たかと思ったら、すぐ暑くなって、まるで夏が待ちきれねえってな具合ですよ。ついこないだまで暖房ガンガン入れてたのに、翌日にはもう冷房のスイッチ押してるような始末で。

まったく、気温の変わりようったらまるで寄席の出番の入れ替えみたいでございますけど、そんな貴重な春の陽気を無駄にしちゃいけねえってんで、こないだ私も出かけてきまして。代々木公園の近くにね、いい具合のカフェがあるんですよ。あそこでコーヒーとバナナブレッドでも買って、公園でのんびりしようって魂胆です。で、カフェに入って並んでたら、隣にいかにも観光客風の外国の方がいましてね。注文のときに「マッチャ、アリマスカ?」って。いや、びっくりしましたよ。マッチャですよ、マッチャ。

いや、だって、昔の話ですけどね、私が若い頃、海外になんか行ったときにさ、日本食の店に入ったとするじゃないですか。そしたら出てくる飲み物が、なんちゃらジュースとか、妙に甘ったるいもんばっかりで。慣れない味に閉口してね、「グリーンティ、グリーンティ!」って、まるで呪文みたいに頼んでたもんですよ。それが今や、外国の方が日本へ来て「マッチャ」なんて、さらっと言っちゃう時代なんでございますな。いやぁ、驚きましたねぇ。

で、連れにその話をしたら「何ですか、いまさら!もう「スシ」「ラーメン」の時代じゃないんですよ」と言われましてね。しかもですよ、「そもそもグリーンティと抹茶は別物じゃないですか」なんて畳み掛けてくる始末。

いや、私だってそれくらい百も承知でございますよ。けど、外国の方がその違いをちゃんと分かって「マッチャ」って頼んでるなんて思いませんでしたよ。いやはや、時代は変わるもんでございまして……

抹茶ブーム小史

若旦那:
師匠、師匠!いまじゃ抹茶ってぇと「ヘルシー」とか「映え」とかで、えらい人気ですけども、いつの間にそんなブームになったんですかい?

師匠:
あっしらが気づかねぇうちに、ずーっと前から仕込まれてたんだよ。ハーゲンダッツってぇ、ちょいと気取ったアイス屋があんでしょう?あそこがな、日本の宇治から極上の抹茶を仕入れて「どうでぃ、抹茶アイスだよ」って、ドーンと出したのが1996年のことよ。そっからだ、海外のアイス屋も「うちもやってやろうじゃねぇか!」ってんで、次々真似しはじめたのさ。

若旦那:
へぇ~、抹茶アイスってぇと、日本じゃ昔っからおなじみですけども、アメリカの会社が手ぇ出したってのが、大きな節目だったんですなぁ。

師匠:
そんでもって2006年、あのスターバックスってぇコーヒー屋が「抹茶ラテ」ってのをメニューにのっけたんだわ。したらどうだい、あれよあれよっちゅう間に人気がドッカーンと来やがった。

若旦那:
今じゃ、スタバに限らずどこのカフェでも「抹茶ラテあります」ってな感じで、まるで抹茶がすっかり世の中に根づいちまったみてぇですな。

師匠:
あとついでに、ネスレ。あたしゃ昔は「ネッスル」って呼んでた気がするけどな。そのネスレが2004年に日本限定で「抹茶味のキットカット」を売り出したんだよ。そしたらこれが大当たり。アジアだヨーロッパだっつって、あっという間に世界中に広がっちまった。

若旦那:
言われてみりゃ、あっしの身のまわりにも抹茶モンがあふれてますねぇ。コンビニでもスーパーでも、気がつきゃ緑色のパッケージだらけでさ。

師匠:
それと並行してな、2000年代には「スーパーフード」ブームってのが来やがった。アサイーだ、キヌアだ、チアシードだなんてのが持てはやされてな。その流れに乗って、Whole Foodsだの、健康マニアのブロガーだのが「抹茶の抗酸化作用がスゴイ!」なんて言い出してさ。

Erewhon

若旦那:
へぇ~、なるほどなるほど。そのあたりから英語でも “Matcha” ってバンバン使われるようになったんですな。

師匠:
だからよ、最近出てきた流行りもんに見えるけど、実際はず~っと前から、コツコツ仕込まれてきた長丁場のブームってわけさ。

#MatchaTok

若旦那:
なるほど。形を変えながら、じわじわ広がってったってことですな。でも、ここんとこまた一段と盛り上がってる感じがしますよ。

師匠:
いまの流行りはな、「健康志向」と「映え」の融合よ。とくにパンデミックのあと、「コーヒーより抹茶のほうがカフェインが穏やかで集中できる」なんて理由で、若い衆にバカ受けしとる。

若旦那:
そしてTikTokで “#MatchaTok” がバズったってわけですね!

師匠: 
おっ、よく知ってんじゃねぇか。とくに若い娘さん方のあいだでな、抹茶を点てる様子とか、スイーツ食べるところなんぞを、こぞって動画に上げるのが一大ブームになってるんだわ。

若旦那: 
へぇ~、なんだかお茶の世界も様変わりですねぇ。昔は「茶道」っていうと作法が大事だったのに、今じゃSNSが主戦場ですかい。

師匠:
時代ってやつは流れるもんでね、今どきの若い衆にとっちゃ、抹茶は「飲み物」っちゅうよりも、「美意識」なんだとさ。

抹茶が足りない

若旦那:
でも師匠、そんなに人気が出ちまったら、抹茶が足りなくなったりしませんか?

師匠: 
いいとこ気がついたねぇ。実は今、世界中で抹茶の需要がガンガン伸びてて、日本の生産が追いつかなくなってきてんのよ。たとえば、京都の老舗、丸久小山園っつう店があってな。創業300年の歴史がある由緒正しい茶舗なんだけど、それがTikTokでバズりすぎちまって、去年の10月には「買いすぎ注意!」って、購入制限かける羽目になったんだ。

若旦那:
あっしも見ましたよ、一保堂茶舗が一部商品の販売中止にしたってニュース。いやはや、抹茶界もにぎやかになってきましたねぇ。

一保堂茶舗

師匠:
とにかく世界じゃ抹茶がバカ売れでな。2023年で抹茶の市場、28億ドルっつうのに、2028年には47億ドルまで跳ね上がるって話だよ。

若旦那:
へぇ~!そりゃすげぇや!抹茶がそんな儲かるなんて、まるで打ち出の小槌ですな!

師匠:
農林水産省の話じゃ、2024年の緑茶の輸出額、抹茶も含めて364億円に達したってんだ。去年より25%も増えて、過去最高だってさ。インバウンドの外国人さんたちが、円安も手伝ってドカドカ来るからよ、抹茶が飛ぶように売れてるんだ。

若旦那:
おお、納得ですな!去年の外人観光客、3,686万人も来て、コロナ前の2019年より15%以上多いって話ですしねぇ。

師匠:
けどよ、面白い話があってな。日本じゃ緑茶の消費、2003年から2023年の20年間で4割も減っちまってんだ。国内の茶離れが進む一方、海外じゃ抹茶ブームが火ぃ吹いてるって寸法よ。皮肉なもんだろ?

若旦那:
へぇ~、そりゃ妙な話だ。けど師匠、この勢いだと、抹茶もいよいよ品薄になっちまいそうですな!

師匠:
実際、抹茶不足がいつまで続くかは誰もハッキリ言えねぇが、需要はまだまだグングン伸びる勢いだ。政府も黙っちゃいねぇよ。抹茶の原料、てん茶って葉っぱの生産を増やすよう、農家に働きかけるらしいぜ。

若旦那:
ほぉ、国も本気で抹茶ブームに乗っかろうって腹ですな。

師匠:
その通りよ。アメリカじゃ抹茶カフェが雨後の筍のようにできててな。ニューヨークだけで、Cha Cha Matchaが7軒、Matchafulが8軒、Kettlが2軒にSetsugekka。つい先月も12 Matchaって新店ができたって話だ。

12 Matcha

「Matcha」と「Wagyu」

若旦那:
へぇ〜、そりゃすごい。こりゃもう抹茶っつってもただのお茶じゃなくて、なんか別格の存在って気がしてきましたよ。

師匠:
そこよ、肝心なとこは。緑茶と抹茶の関係ってのはな、牛肉と和牛の関係にそっくりなんだよ。

若旦那:
え?和牛?抹茶と牛肉がどう似るってんです?ちょっと待って、頭こんがらがってきちゃいましたよ。

師匠:
ハハ、慌てなさんな。いいか、緑茶ってのは「Green Tea」、広いカテゴリだろ。抹茶もその中の一つっちゃ一つだが、今じゃ「Matcha」ってだけで、特別なブランドになっちまってるんだ。

若旦那:
ふむふむ、なるほど……

師匠:
で、牛肉で言えばだな、「Beef」は牛肉全般、「Japanese Beef」は日本の牛肉だ。だが「Wagyu」って言やぁ、急に高級なイメージがパッと浮かぶだろ?抹茶も同じよ。「Matcha」って言葉は、緑茶の中の一部なのに、まるで別格の存在感持っちまってる。

若旦那:
おお、わかりやした!「Wagyu」って聞くと、ただの牛肉じゃなくて、血統のしっかりした霜降りのリッチな奴って感じですもんね!「Matcha」もそんな風に、なんか高級で特別な雰囲気ってわけだ!

師匠:
まさにその通りよ。「Matcha」っつっただけで、日本の文化や健康志向がぎゅっと詰まった高級品ってイメージになる。だから、普通の「Green Tea Latte」よりも、「Matcha Latte」のほうが、なんかこう、シャレオツに見えるって寸法よ。

若旦那:
たしかに、アメリカじゃ「Wagyu Burger」なんてのも出てきたけど、「Matcha Latte」だって、昔ながらの抹茶の飲み方とはまったく違いますもんねぇ。

師匠:
そうそう、それなんだよ。言葉がひとり歩きしてイメージが先行してるところも、「Wagyu」とそっくりだ。「Matcha」ってのは、もうブランドとしてバッチリ独り立ちしてるわけよ。

若旦那:
やっと合点がいきやした!緑茶は「ジャンル」、抹茶は「ブランド」ってことですね!

師匠:
その通りよ、若旦那。

若旦那:
じゃあ、あっしらもいっちょ、そのプレミアム抹茶カフェってやつに手ぇ出してみますかい!

師匠:
ハハハ、お前さんは気が早いねぇ。だがよ、抹茶カフェなんぞやるにしたって、肝心の抹茶が品薄で手に入らねぇ状況なんだわ。どこもかしこも抹茶争奪戦よ。

若旦那:
あっ、そうでしたそうでした!ならひとまず、あっしらの「来たるべきプレミアム抹茶カフェ」SWAGだけでも、先に世に出しておきやしょうかねぇ。へへっ。

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. 抹茶人気が急上昇、供給不足に

アメリカでの抹茶ブームがTikTokなどのSNSを通じて急速に広がり、日本産の高品質な抹茶が品薄状態になっている。一部の店舗では買い占めを防ぐために購入制限が設けられ、日本の生産者たちも対応に乗り出している。春の新茶シーズンには供給の改善がある程度見込まれているが、トランプ大統領による関税政策が導入されれば、価格の高騰につながる可能性もある。それでも抹茶市場は拡大を続けており、特にアメリカでは今後も高い需要が続くと予想されている。

2. Hot Girlたちはなぜ抹茶に夢中なのか

日本や韓国、インドなどでは昔から台所の食材を日焼けやニキビ跡などの肌悩みに活用してきたが、最近では抹茶が飲用だけでなくスキンケアにも進出し、Kylie JennerやBrad Pitt、Serena Williamsら多くのセレブも愛用。抹茶に含まれるEGCGの抗酸化作用や抗炎症効果、クロロフィルの解毒作用、ビタミンC、ビタミンEによる保湿・コラーゲン生成促進が評価されている。自然志向の高まりの中、抹茶美容は一時的な流行ではなく、今後も定着する可能性がある。

3. 新しい抹茶カフェに皆が熱狂している

堀田勝太郎商店と提携し、同社特別顧問の森田治秀、Nomaのペイストリー責任者Francisco Migoya、AesopやDumboの% Arabicaの店舗デザインで知られるCigüeなどが参画し2025年3月にオープンしたニューヨークの抹茶専門店「12 Matcha」に行列ができている。カフェでは、本格的な抹茶の味と体験を重視し、水や道具にもこだわった演出が特徴。店内では目の前で丁寧に抹茶が点てられ、ライトに照らされた美しい一杯が提供される。抹茶は濃厚で香り高く、チーズケーキも塩味と甘さのバランスが絶妙。待ち時間は長いものの、空間・味ともに満足度の高い店として「完璧」ともいえる店となっている。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

試着したら買わずにはいられない!?米国発のハンズフリーシューズ「Kizik」が日本初のポップアップストアをオープン👟

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今回のポップアップでは、「Monaco」「Paris」「London」など全8モデル46色が揃うほか、日本公式オンラインストアがオープンしてわずか5日で完売したベストセラーモデル「Athens 2(アテネ ツー)」の新色も先行発売される。

米国では店舗で試着した方の約8割の方が購入している程の最高の履き心地らしい。履いてみたい!🐏

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

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