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#040_Sheep 匿名性というラグジュアリー(後編)
「見せない美学」を貫いてきたThe Rowは、ロゴを排し、語らず、ただ上質な素材と緻密な設計に宿る価値を信じ続けてきた。その姿勢は、Quiet Luxuryという新たな価値観の象徴として、現代のファッションシーンで確かな地位を築いた。しかし、Margauxバッグの爆発的ヒットやSNSでの拡散により、「静けさ」にもいまや熱狂が押し寄せている。トレンドの過剰な可視化が始まるなかで、The Rowは新たな岐路に立たされているのだ。だが、それは変質ではなく、深化のチャンスでもある。セレブリティとしての人生を「語らない創作」へと昇華させてきたオルセン姉妹。その軌跡が、静けさの先にある新たなラグジュアリーの可能性を照らし出す——。
#039_Sheep 匿名性というラグジュアリー(前編)
生後9ヶ月で『フルハウス』のミシェル役として全米の注目を浴び、その後もティーンセレブとしてメディアの過剰な視線にさらされ続けたオルセン姉妹。自由と匿名性を渇望した彼女たちが、2006年に静かに立ち上げたのがファッションブランド「The Row」だった。ロンドンの名門Savile Rowへのオマージュを込めたこのブランドは、奇をてらわない緻密な服づくりと控えめな美学で、当初は懐疑の目を浴びる。しかし、装飾やロゴに頼らず、ただ「服そのもの」で語る姿勢は、やがてリーマン・ショック後の価値観の転換と静かに共鳴し始める。Quiet Luxuryという時代の感性が芽吹くなか、その源流に立つThe Rowの誕生と理念をひもとく。
#036_Sheep 現代のメディチたち
ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井画を手がけた背後には教皇という「パトロン」の強い意志があった。芸術家は自由に創作していたのではなく、権力の思想を視覚化する役割を担っていたのである。同様に、ルイ・ヴィトンの美術館、プラダの哲学的展示など、現代のブランドも単なるスポンサーにとどまらず、文化そのものをデザインする主体へと変貌している。経済資本を文化資本へと変換し、新たな美的価値観を提示する彼らの営みは、まさに現代のパトロネージュである。そこには、創造と制約、芸術と権力がせめぎ合う、ルネサンス期にも通じる緊張関係が今なお色濃く息づいている。
#034_Sheep エブリシング・エブリウェア・オール・オン・スクリーン(後編)
スクリーン上に集約された生活空間では、「遊び」と「労働」の境界が曖昧になる。SNSへの投稿や検索といった日常的な行動すら、見えない経済活動として機能してしまうのだ。無意識のうちに「働かされている」私たちの姿を、Amazon検索やInstagram投稿といった具体例をもとに可視化しながら、現代都市がいかにして「仕事」と「遊び」がグラデーションで重なり合う場所へと変貌したかを追う。「Everything Everywhere All on Screen」とは、都市の未来ではなく、すでに始まっている私たちの現在そのものである。
#033_Sheep エブリシング・エブリウェア・オール・オン・スクリーン(前編)
宿泊の枠を超えて日常のあらゆるサービスを取り込もうとするAirbnbの「Everything App」化は、私たちにリアルな体験を約束する一方で、そこにたどり着くまでにはこれまで以上にスクリーンと向き合わなければならないという矛盾を孕む。スクリーンなしでは現実の体験にたどり着くことができないという現実や、ChatGPTによる時間の「効率化」などの事例を手がかりに、スクリーンこそが現代人の生活の舞台であることを描き出す。デジタル体験と現実体験のねじれ、AIやSNSが引き起こすスクリーン依存のパラドックスを通じて、私たちの「いま」を読み解く。