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#038_Sheep 小咄「日本酒」
寿司とともに海を渡った日本酒が、いまアメリカで独自の進化を遂げている。ハラペーニョ入りの変わり種からスマッシュバーガーとのペアリングまで、自由な発想で拡がる "Sake" 文化。アメリカは2022年に日本からの日本酒輸出量世界一の国となる一方、日本国内では需要が激減し、国内向け日本酒製造の新規免許「70年間ゼロ」という規制の壁が立ちはだかる。新たな造り手たちは海外に活路を見出し、ついには米国産日本酒が日本に「逆上陸」する事態まで発生。グローバル市場で拡張する日本酒の現在地と、文化継承のジレンマを見つめる。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
🔍 Sheepcore
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
小咄「日本酒」

©️The Rest Is Sheep
えぇー、お集まりいただきまして有難くお礼申し上げます。
もうすっかり夏の陽気でございますな。ついこないだまで桜が散ったの散らないの言ってたのが嘘みたいに、今じゃもう、ちょっと外出たら汗吹き出すような暑さで。日もだいぶ長くなってまいりまして、こんな気候だと夕方から一杯引っ掛けたくなるってのが人情ってもんですな。皆様お酒はお好きでしょうか?
実は私、この時期になると毎年頭を悩ます問題がございましてね。知り合いに大の日本酒好きがいるんですよ。それも、ただの酒好きじゃございません。やれ「この蔵の杜氏が変わった」だの「今年の山田錦の出来栄え」だのと、もう専門家顔負けの知識でございます。皆さんの周りにもいらっしゃるでしょう?そういう、こだわりの強いお方が。
で、その方の誕生日が毎年この時期でしてね...って、誕生日が毎年同じ時期なのは当たり前でございますな(笑)。まあとにかく、プレゼントに何をあげたらいいものやら。私だって酒は嫌いじゃございませんが、日本酒となるとからっきしでして。
去年はどうしたかと申しますと、あのドンペリから来たね、フランスの方が富山で造ったIWAって日本酒を贈ったんです。これがなかなか変わり種でしてね、ワインづくりの伝統的な技法を取り入れたスパークリング日本酒ってやつで。「お、自分じゃ買わねぇけど(笑)、こういうのは嬉しいな」なんてまあまあ喜んでもらえたんですが、今年はどうしたもんかと。

Iwaの酒蔵
そういう「自分じゃ買わないけど、人様からいただけるんであればまんざらでもねぇ」ってのが、プレゼントにはちょうどいいんでございまして。こだわりのある方ってのは、お気に入りの銘柄はご自分でちゃんと買ってらっしゃるし、下手に有名どころの銘柄を贈ったところでさらっと「ああ、これこないだ飲んだんですよ〜」なんて言われちゃいそうで。
兎にも角にも今年は手持ちのカードがないもんだから、困り果てて友人に相談したら「Brooklyn Kuraなんていいんじゃないですか?」なんて言う。なんでもアメリカで造った日本酒なんだそうで。
「アメリカの日本酒?」って驚いてたら、「知らないんですか?今、アメリカじゃ日本酒ブームで、蔵がバンバンできてるんですよ」だって。
まあ寿司もラーメンも抹茶も海を飛び越えていく時代、日本から酒蔵が飛び出てってもおかしくねえか、なんて思いながら、「誕生日までそんな日がないんだけど注文してから日本に届くまで何日くらいかかるんだい?」って聞いたら、そいつ、ニヤニヤしながら「いやいや、普通に日本の酒屋で売ってますよ(笑)」なんて言われちまう始末で。
なんだなんだ。フランス人が日本で酒造ってるってのにも大概驚いたけど、今度はアメリカで日本酒ができたと思ったら日本に輸出までしてやがる。いやはや、日本酒の世界、知らねぇうちにずいぶん広がっちまったもんで……
米国のSAKEブーム
若旦那:
師匠、師匠!最近アメリカじゃ日本酒が大人気で、飛ぶように売れてるってぇ噂ですが、本当で?
師匠:
おう、若旦那、よく知ってやがるな。さすが若ぇ衆は鼻が利く。いや、ホントの話よ。アメリカじゃ1980年代から寿司屋が急に増え始めてな、そっから日本酒も一緒に広まったんだ。
若旦那:
ほほう、寿司屋が増えりゃ、そりゃ日本酒も飲みたいって流れになりますわな!「寿司にゃ日本酒」ってのがお約束でさぁ。
師匠:
その通りよ。「寿司といやぁ日本酒」ってことで、“Sake” つう言葉も広がってったわけだが、ここ最近のブームはハンパじゃねぇ。2022年にゃアメリカが中国を超えて日本酒の輸出先として世界一になっちまったってんだから大したもんよ。でな、2023年から2024年にかけて、輸出量がドカンと23%も跳ね上がったってんだから、驚くじゃねぇか。
若旦那:
はあーそんなに輸出が増えちゃあ、こりゃ酒蔵も笑いが止まらねぇってとこでしょうな。
低迷する日本酒の国内消費
師匠:
ハハ、ところがどっこい、そう甘くはねぇんだよ。確かに海外への輸出はウナギ登りだが、国内じゃ日本酒の需要はガタ落ちなんだよ。2023年度の日本酒販売量は1975年度の4分の1以下、約39万キロリットルにまで減っちまってる。酒蔵の数もピーク時から6割減、今じゃ1,500軒ほどしか残っちゃいねぇ。

The Japan Times
若旦那:
こりゃまた景気の良い話と悪い話が、熱燗と冷や酒みてぇに並んでやがるってわけですな。
師匠:
誰がうまいこと言えっつったよ(笑)。とにかく、若いモンが日本酒を飲まなくなっちまって、人口も減る一方。飲む奴がいなきゃ、売れるもんも売れねぇ。
若旦那:
あっしの周りの若い衆たちもビールだワインだハイボールだってんで、日本酒なんざ見向きもしやせん。
師匠:
だからこそ、海外への売り込みや、これまで日本酒に縁のなかった連中にどうやって日本酒を飲ませるかが肝になるってわけよ。ベンチャー企業にとっちゃ、まさに千載一遇のチャンスかもしれねぇな。
若旦那:
じゃ、あっしらも一丁、新しい酒蔵でも始めてみますかねぇ?
師匠:
お、やる気だねぇ?だがな、若旦那、ここで大きな問題が一つあるんだよ。
若旦那:
なんです?どんな問題なんで?
新規免許「70年ゼロ」
師匠:
実はな、日本じゃ70年ものあいだ、新しく日本酒を造る免許ってのが出てねぇんだよ。
若旦那:
ええっ、70年も?どうしてまた?
師匠:
酒税法ってのがあってな。「需給の均衡を維持する必要がある」ってんで、国内需要が減ってる以上、新規の免許は原則出さねぇって話よ。需要が減ってる中で、新しい酒蔵が増えちまったら、今ある酒蔵が潰れちまうかもしれねぇってな理屈だ。
若旦那:
せっかくやる気のある若い衆がいたって、門前払いってわけですか?
師匠:
だからよ、WAKAZEなんてベンチャー企業は、国内で新規免許が取れねぇもんだから、直接フランスやアメリカで酒造りを始めちまう。
若旦那:
うーん、なんか本末転倒な気がしますけどねぇ。日本の酒造りの技術を、海外でしか活かせないなんて。
師匠:
秋田の男鹿で日本酒を造ろうとしてる、稲とアガベなんてのもな、新規免許の出やすい「その他の醸造酒免許」ってのを使って、日本酒の技術を活かしたどぶろくやクラフト酒を造ってる。それから2020年度の法改正でやっと交付が認められた「輸出用清酒製造免許」ってぇ免許を取得してなんとかやりくりしてるってぇ有様だ。

稲とアガベ(Discover Japan)
若旦那:
「輸出用」ってことは、造った酒は日本じゃ売れねぇってことですかい?
師匠:
そういうこった。だから、国内でブランド力を育てにくいし、販路拡大にも限界が出てくる。歯がゆい話よ。
若旦那:
なんとももどかしい話ですなぁ。
師匠:
でもな、政府も2025年になって、日本酒の製造免許の新規発行に関する規制を緩和する検討に入ったって話だ。
若旦那:
ようやく、重い腰を上げたってことですかい。
師匠:
2024年12月に日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されたってのも、政府の背中を押してるんじゃねぇかな。世界が日本酒の価値を認めたってのに、肝心の日本で新しい造り手が育たねぇんじゃ、看板に偽りありってもんだろ?
若旦那:
なるほど、世界のお墨付きをもらったってことですな。それで慌てて規制緩和に動き出したってわけですかい。
米国で増え続けるSAKE醸造所
師匠:
まあそんな国内の状況を尻目に、お前さんが話してたアメリカじゃ日本酒の輸入だけじゃなくて製造も盛り上がってるの、知ってるかい?
若旦那:
さっきWAKAZEっつうベンチャーがアメリカで酒造り始めたっておっしゃってやしたね。
師匠:
WAKAZEは資本提携した宝ホールディングスとの協業で、米国のTakara Sake USA Inc.で「SummerFall」っつうスパークリングSAKEを造ってるんだけど、それだけじゃねえんだ。あの「獺祭」を製造する旭酒造が、ニューヨーク州ハイドパークに「DASSAI BLUE Sake Brewery」ってぇデカい醸造所を建てたり、あとはブルックリンのブッシュウィックにあるKato Sake Worksなんてのも、2000年にワンルームくらいのスペースで酒造りを始めたのが、規模を拡張して、今や巨大なタンクが五つも並び、生産量は6倍って話だ。

DASSAI BLUE Sake Brewery
若旦那:
はぁ〜景気の良い話ですな。ところで師匠、アメリカにも原料となる酒米があるってことですかい?
師匠:
あるんだよ。アメリカで米の40%を生産するアーカンソー州に、Isbell Farmsっつう稲作農家がいてな、そこが山田錦や雄町といった酒米を生産して、さらに注文に応じて精米までしてるってんだ。
若旦那:
へぇ、あっしはアーカンソーなんて、どこにあるのか見当もつきやせんが、そんなところが酒米の産地ですかい!
師匠:
ちなみに2022年、同じアーカンソー州のホットスプリングスって場所に岩手の南部美人で修行したベン・ベルさんが設立したOrigami Sakeっつう酒蔵があるんだが、Isbell Farmsへのアクセスの良さと、水質が良いってんでそこに決めたんだと。
若旦那:
アメリカで日本酒の米も、水も、造り手も揃っちまうとは、恐れ入りやした。
SAKE文化の広がり
師匠:
まだまだあってな。“Kanpai Y’all!” なんつう小洒落たタグラインのTexas Sakeにオーク樽で寝かせた日本酒があるかと思えば、Arizona Sakeにゃウチワサボテンやナバホの茶葉入り。サンフランシスコのSequoia Sakeてぇ蔵じゃ、わさびだの、ハラペーニョだの、ハバネロだの入れた酒を売ってるんだそうだ。

Sequoia Sake
若旦那:
えらく自由でございますなぁ!
師匠:
それにな、アメリカじゃ日本酒の飲み方も変わってきてる。昔は「寿司と日本酒」が定番だったって話をしただろ?でもいまじゃ日本酒は想像以上に多用途な飲み物だってことにみんな気づき始めて、寿司以外の料理と合わせるようになってるってぇ話だ。
若旦那:
寿司以外の料理と日本酒ってぇと、、、?
師匠:
ステーキやチーズ、それからマサチューセッツ州メドフィールドのFarthest Star Sakeが製造するClass Mってぇ缶入りの酒は「スマッシュバーガーやスパイシー・ポテトチップスと相性抜群」だとよ。
若旦那:
はぁ〜そりゃあまた、大胆な飲み方ですなあ。
師匠:
売り場でも「大吟醸ひとつ」なんて無難な注文じゃなくて、「生酒くれ!」とか「濁り酒で!」なんて、ツウな注文が増えてるんだと。
若旦那:
いやぁ〜アメリカじゃあたしゃらが想像もできないようなことが起きてるってことですなぁ。
師匠:
そうよ。伝統をリスペクトしつつ、地元の風土を取り入れて自由にやってる。おもしれぇ時代になってきたもんだ。
若旦那:
「こんなの日本酒じゃねぇ!」なんて野暮なこと言っちゃいけませんな。
師匠:
その通り。ロールスシだって、最初は邪道と言われたが、今や世界中に広がっただろ?文化ってのは、伝統と、そっからの逸脱の間で育っていくもんさ。
若旦那:
日本じゃ日本酒が売れねぇってのに、海外でこんな盛り上がってるなんて、まるで抹茶みてぇな話ですな。
師匠:
お、なかなか鋭いじゃねえの。日本国内じゃ緑茶離れが進んでるのに、海外じゃ抹茶ブーム。日本酒も同じよ。
日本酒「逆輸入」
若旦那:
でも師匠、この調子だとそのうちアメリカ製の日本酒が、本家の日本に逆上陸してくるなんてこともありそうですな。
師匠:
それがもうしてるのさ!ニューヨークのブルックリンにあるBrooklyn Kuraってのがあってな、アメリカの蔵元で初めて日本酒を日本へ輸出したわけよ。東京の百貨店や高級レストランでOccidentalって銘柄を売ってやがる。

Brooklyn Kura
若旦那:
えっ?アメリカで造った日本酒を、日本で売ってるんですかい?
師匠:
そうよ。しかもな、これは期間限定とかじゃねぇんだ。「世界最大の日本酒市場である日本を狙ってる」ってんだから、なんとも本格的な話だよ。
SAKEの未来
若旦那:
いやぁ師匠、時代ってのは変わるもんですなぁ。そう遠くないうちにアメリカの旦那方から日本酒作りを習うなんて日が来るかもしれませんぜ。
師匠:
そりゃおめぇ、日本じゃ70年も新しい酒蔵の免許が出てねぇってのに、海の向こうじゃどんどん蔵ができて、いろんな工夫しながらぶっ飛んだ酒なんぞ造ってやがる。
若旦那:
こっちは規制でがんじがらめ、向こうはやりたい放題。気がつきゃ、本家が元祖に追い抜かれちまいますぜ。
師匠:
だからってんで全部自由にしろとは言わねぇがよ、新しい風も少しは入れてやらねぇと、業界ってやつぁカビが生えちまう。出入りを許してやることで、かえって暖簾が守られるってもんさ。
若旦那:
にしても、日本で酒こしらえようっつう若い衆へのアドバイスが「ステップ1:アメリカで酒蔵を作る、ステップ2:アメリカで酒を造る、ステップ3:それを日本に輸出する」だなんて、酒のツマミにもなりゃしませんもんねえ(涙)。
🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. アメリカの日本酒ブーム
アメリカで日本酒の人気が急上昇しており、輸入量は10年間で2倍以上に増加。パンデミック以降、小売市場が拡大し、地元酒蔵の創業も相次いでいる。Kato Sake WorksやOrigami Sakeなど、米国内生産も活発化し、日本酒は寿司以外の料理とも楽しむ酒として認知され始めている。観光やナチュラルワイン人気の影響もあり、消費者の知識や関心も向上。一方、日本国内では高齢化や若者の酒離れで消費減が続く中、プレミアム酒は安定。文化の接点を通じて、アメリカ市場で日本酒が主流化する兆しが強まっている。
2. 日本の「神からの贈り物」伝統酒がユネスコ無形文化遺産に
ユネスコは、日本の「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録した。清酒(日本酒)は8世紀頃から飲まれ、神事や婚礼などに欠かせない存在であり、日本文化の象徴でもある。登録は製造技術だけでなく、『源氏物語』にも登場する千年超の歴史や文化的意義も評価したもの。現在、日本国内では若者の嗜好が変化しているが、海外では日本食ブームとともに人気が拡大し、輸出額は年間約2億6500万ドルに達する。関係者は今回の登録を機に国内外での関心再興を期待している。
3. 日本政府、海外での人気高まりを背景に日本酒製造免許の新規発行規制緩和を検討
政府は、原則禁止されている日本国内での清酒製造免許の新規発行を緩和する検討を開始した。背景には、海外での日本酒人気の高まりと、国内での販売量・酒蔵数の減少がある。国家戦略特区を活用し、地方創生と伝統文化の継承を図る狙い。2020年には輸出専用の免許が認められ、2023年には酒造り技術がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、業界への追い風もある。一方で、既存酒蔵の反発や需給バランスの懸念も残る。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
bw caveの人気企画【あのシェフの町中華】と日本屈指の羊のスペシャリスト集団「 ラムバサダー」がコラボ!🐑
bw caveが展開する「あのシェフの町中華」は、究極の町中華体験を提供する大人気シリーズとして毎回話題を呼んでいる。
めちゃくちゃ気になります!ということで我々も早速予約しました🐏
(ご興味あられる方はお急ぎを!)
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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