#042_Sheep ビューティ・バーンアウト

美容は本来、自分を輝かせ気分を高める楽しい営みだった。しかし今、SNSや社会が作り出す過度に高い美の基準が「やらなければならない義務」となり、多くの人を追い詰めている。美容情報の洪水に疲れ、無理をして高額なケアを続ける人々を疲弊させるこの現象は「ビューティ・バーンアウト(美容の燃え尽き症候群)」と呼ばれる。大切なのは、他者の目線から距離を置き、「美容は誰のためのものか」を問い直すこと。完璧を目指すのではなく、美容の主導権を自分の手に取り戻す視点が求められている。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

ビューティ・バーンアウト

©️The Rest Is Sheep

🐏「おつかれさまです。いやあ暑いっすね。溶けそうです」

🐕「暑いっすねー、顔とか腕とか焦げますよこれ(笑)」

🐏「いや、ほんとに。そういえば突然ですけど、なんか美容ケアってしてます?」

🐕「ほんとに突然(笑)。肌とかってことですか?えっとね…」

🐏「顔とかもです」

🐕「ほぼ何にもやってないです(笑)」

🐏「やってないんかい(笑)。ってぼくもなんにもやってないんですけど、昨日飲んでたら「男性もやったほうがいいですよ。っていうか今の20代男子なんてみんなやってますよ」って言われて(笑)」

🐕「あー、オトコの美容問題(笑)」

🐏「そういうのには屈しないタイプなんですけど(笑)、ちょっと気になって」

🐕「屈しない、って(笑)」

🐏「インスタとかTikTokで男性用のスキンケアの動画をチラ見したらなんかすごい世界で(笑)。クレンジングオイル、ブースター、美容液、ホホバオイル、パック、出るわ出るわで(笑)」

🐕それ、まだ序の口ですよ(笑)」

🐏「ですよね。ちょっと前に流行った韓国式10ステップスキンケアとか、女性向けなんてもっとずっとカオスですよね(笑)」

 

美容への燃え尽き

🐕「実際、最近「ビューティ・バーンアウト(Beauty Burnout)」って言葉、ちらほら聞きますもんね」

🐏美容疲れ、美容への燃え尽き症候群、ってやつですよね」

🐕「美容って本来は「キレイになって気分上がる!」みたいな楽しいものだったはずなのに、いつの間にか「やらなきゃいけない義務」になって、ストレス源になっちゃってる」

🐏「美容の追求に疲れ果てる…なんだか切ないですね」

🐕「燃え尽きの症状にもいろいろあって、美容情報にさらされすぎて「もう見たくない」ってなる人とか、新しいトレンドが出るたびに「またこれか…」って疲弊する人とか」

🐏「それでも無理して高いコスメや施術にお金を使っちゃうんですよね」

🐕やめたいのにやめられない。「ハムスター・ホイールみたいだった」って表現する人もいて

🐏「そりゃ疲弊もしますね」

🐕「メイクやヘアセットが面倒で友達同士の集まりを断っちゃったり、完璧な見た目じゃないと仕事に行けない気がしたり、場合によってはパニックになったり」

🐏「いやぁー深刻ですね」

🐕「延々続くメンテナンス、経済的負担、「こうじゃなきゃ」っていうプレッシャーで、心も身体もすり減る」

The New York Times

 

社会化する美容

🐏このプレッシャーって、個人としてのものっていうよりは、周りからどう見られるか、みたいな社会的な側面も大きそうですよね」

🐕「ですね。特に働く女性にとって、外見の「きちんとしている感」が能力や信頼性と結びつけて見られる傾向って根強いですもんね」

🐏「気が抜けない…」

🐕自己表現のはずだった美容がいつのまにか「自己管理」の指標になって、自己投資との無限ループに」

🐏「気持ちが追いつかない日もあるし、財布も追いつかない(笑)」

🐕「Beauty Tax」って言葉があるんですけど、これは女性が社会で活躍するために美容にかけなければいけない追加コストのことで」

🐏「男性と女性で、同じ職場で働くのに必要な「準備コスト」が違うってことですね」

 

 

統制の所在(Locus of control)

🐕「ちなみに心理学的にいうと、「外的統制(external locus of control)」感がバーンアウトとか心の不調の大きな要因のひとつだと」

🐏「外的統制感って?」

🐕「自分の人生に起きていることやその結果が「自分の努力や選択じゃなくて、他人とか環境とか運とか外部の要因によって決まっちゃってる」って感じること。つまり、自分の人生、自分の状況を自分自身でコントロールできていないって感じること」

🐏「美容でいうと、自分が本当にやりたいからスキンケアやメイクに時間かけてるんじゃなくて、周りがやってるからとか、「こうあるべき」って目に見えない圧力に追われて「やらされてる」みたいな感覚になっちゃうってことですよね」

🐕「コロナのロックダウンが各地で始まって数ヶ月後の2020年7月に、ルンバみたいに自宅での生活を充実させるための家電が売れてるってニュースがあって、そこでKantarのVPのDave Marcotteさんって人が「家をもっときれいにするためにルンバを買ったり、最新のiPhoneに買い替えたりするのは、人々が自分の生活の中で少しでもコントロール感を取り戻す手段としてやっているんです」って言ってたんです。それもこの「統制の所在」の話ですよね」

🐏自分の責任じゃないのに突然家に閉じ込められることになって、大学に行ったり、友だちと遊んだり、旅行にもいけなかった。自分の人生なのに自分でコントロールできてないって感覚、わかります

🐕「神経科学者のAnne-Sophie Fluriさんは「美容のルーティンが純粋な楽しみではなく、習慣や社会的条件付けによって動かされているときには、脳の報酬系、つまり楽しいって感じる回路ではなく、ストレス経路が作動してしまう」って言ってます」

🐏「…結局、自分の意思じゃなくて外からの期待や流行に振り回されてると、どんどん無力感が強くなっちゃうんですね」 

The New York Times

 

「インフレする美」

🐕「しかも、その「外からの期待」って、年々ハードルが上がってる気がしません?」

🐏「確かに。昔より「こうじゃなきゃ」っていう美の基準がどんどん高くなってる気がします」

🐕「ですよね(笑)。「Aesthetic Inflation(美のインフレ)」って言葉もあるくらい美容の基準がどんどんエスカレートして、時間もお金もめっちゃかかるようになってる。」

🐏「昔はシンプルなケアで十分だったのに、今はもう追いつけないくらいの美容法が当たり前みたいになってますもんね」

🐕「はい。たとえばここ最近、極端なスキンケアルーティンはもちろん、ボトックスやヒアルロン酸、糸リフト、脂肪吸引みたいな施術も一気に浸透しましたよね

🐏「あー、以前だったら「特別なこと」だった処置が、いまや「基本的な身だしなみ」くらい当たり前のものになってる」

🐕「整形に対する世間の見る目もだいぶ変わった気がしますよね」

🐏今の若い子たちって、整形のこととか本当にオープンに話しますよね。昔だったら整形したことってちょっと隠しておきたいって感じだったのに

🐕「美容業界の記者でニュースレター「Face Value」を発行する著者Zeynab Mohamedさんが「この10年で、美容って日常の中で一番時間かけるものになってて、みんな前よりずっと夢中になってます」って言ってて」

🐏「SNSが拍車をかけてるんでしょうね。インフルエンサーや有名人はもちろん、リアルな友人たちもストイックなビューティ・ルーティンについてポストしてたり、嫌でも目に入りますもんね」

🐕「自分と比べちゃいますよね(笑)」

🐏「みんなフィルター通した「観てほしい自分」しか載せてないのに、それが「普通」みたいに錯覚しちゃう」

🐕「他人の目線を気にしすぎて、自分の「好き」とか「心地よさ」がどんどん遠ざかっていく感じ、ありますよね」

🐏「SNSって、便利だけど「比較疲れ」の発生装置みたいな面もありますよね」

The New York Times

 

大疲弊の時代

🐕「はい。しかも、このビューティー・バーンアウトって、実はもっと大きな社会潮流ともシンクロしてるんですよね」

🐏「大きな社会潮流?」

🐕「イギリスのトレンド予測&データ分析会社、WGSNが、我々は「Great Exhaustion(大疲弊)」の時代に突入している、っていうレポートを出してて」

🐏「美容に限らず疲弊してるってことですか(涙)」

🐕Z世代や若いミレニアル世代、特に女性たちは、生活費の高騰や経済の不安定さ、国際情勢の緊張、気候変動への不安などが重なって、私生活でも仕事でもますます厳しい要求にさらされてる。その結果、多くが心身ともに疲れ果て、燃え尽き症候群に陥っている、と

🐕「コントロールできない世界に対して、せめて自分の見た目だけでもコントロールしようとする。でも、それすらも自分がやりたくてやってることじゃなくて、まわりに「やらされてる」感覚になっちゃうと、結局疲れの原因になっちゃう」

🐏「悪循環ですね。疲れから逃れるための美容が、さらなる疲れを生んでる」

🐕「ビューティ・バーンアウトも、この巨大な疲労感の氷山の一角とも言えますよね」

🐏Lululemonが毎年発表してる「Global Wellbeing Report」の最新版(2024年)のキーメッセージも「ウェルビーイング・バーンアウト(Wellbeing Burnout)」でしたもんね」

Lululemon 2024 Global Wellbeing Report

 

 

🐏「全く同じ構造ですね。本来は自分の身体や心の健康のためのものだったはずの取り組みが、むしろ心理的な負担になってる

🐕「健康や美しさが、本来の目的を失ってプレッシャーになる。これ、どっかで断ち切りたいですよね」

 

美容を自分に取り戻す

🐏「どうしたらこのループ抜け出せるんでしょうね」

🐕「まあ、「何のために」やってるかを改めて考え直すってことなんじゃないですかね。SNSの「いいね」のため?会社の同僚に認められるため?それとも自分が楽しいから?」

🐏「他人に不快感を与えない最低限の清潔感はいるとしても、そこから先は自分が好きなようにやればいいし、やらなくてもいい(笑)」

🐕「そう。「完璧じゃなくても死なない」ってことです(笑)」

🐏「むしろ完璧にならなきゃっていうストレスの方がトータルで美容に悪そう(笑)」

🐕「あと、美容の情報をシャットアウトする「デトックス」的な日を作るのも効果的らしいですよ。美容系のSNSを見ない日とか」

🐏「お、デジタル・デトックス的な(笑)。確かに、情報から離れると「自分にとって何が本当に大切で、どんな美容が自分を幸せにするか」って見えてくるかもですね」

🐕「そうそう。そして何より、美容を「義務」から「選択」に変えること。今日は口紅を塗りたい気分だから塗る。疲れてるからスキンケアは最低限にして早く寝る。全部自分で決める」

🐏「つまり主導権を自分に取り戻す、と」

🐕「まさに。外的統制から内的統制へのシフト。自分の人生、自分の美容は自分で決める」

🐏「ですね…実は昨日インスタ見て、今日いくつかスキンケア商品買っちゃったんですよね」

🐕「屈しない男どこ行った(笑)」

🐏でもやっぱり、ちょっと飲み会で言われたくらいで流されるのは良くないですね。やめときましょうか(笑)」

🐕「お、早速バーンアウト(笑)」

🐏ちがいます!まだ始めてすらないんで(笑)」

🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. ビューティ・バーンアウトを超えて

現代社会では、女性にとって美は義務や通貨のように扱われがちで、「ビューティーバーンアウト」と呼ばれる疲弊感が広がっている。終わりなき美容習慣や経済的負担、進化し続ける美の基準により、多くの人が消耗している。その解決策として、①美容習慣を義務ではなく自発的なケアと捉えるマインドフルネス、②完璧を目指すのではなく遊び心を持った表現としての美容、③仲間と楽しむ共同体的な体験、④SNSなどのデジタル環境の見直し、⑤持続可能で無理のない美容へのシフトが提案されている。美容との関係を見直し、文化的プレッシャーに飲み込まれず、喜びや自己表現として再構築することが鍵となる。

2. 多くの人びとが「ウェルビーイング・バーンアウト」を経験

Lululemonによる2024年「Global Wellbeing Report」によると、世界中で89%の人がウェルビーイング向上に取り組む一方、そのプレッシャーが逆に「ウェルビーイング・バーンアウト」を招いている。特に、「ウェルビーイングであること」に対する社会的なプレッシャーやウェルビーイングについての情報の氾濫が負担となり、約半数が疲弊を感じているという。報告書は「ノイズを断ち切る」「自分のペースを大切に」「他者とつながる」という3つの戦略を提案。コミュニティと身体活動が心身の回復に寄与するとして、同社は国際的なメンタルヘルス支援団体と連携し、運動を通じた健康促進を進めている。

3. 消費者は「疲弊」している

WGSNの「Future Consumer 2026」レポートによると、消費者は「Great Exhaustion(大疲弊)」の時代に突入している。物価高や経済不安、地政学リスク、環境問題などの「ポリクライシス」により、65%が燃え尽き症候群を訴え、特にZ世代や若いミレニアル世代の48%が職場で疲弊を感じているという。これにより、人々はシンプルな暮らしや日常の小さな幸せを求める傾向が強まっている。今後2年間の消費者像や意識変化に小売業界は注視が必要だ。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

未来を身につける時代到来。Even G1スマートグラスが日常を変える👓

個人的に今年欲しいものリスト最上位候補🐏 

Even Realitiesの新作スマートグラス「Even G1」が話題沸騰中です。これまでスマートグラスといえば「Ray-Ban Meta」、Boseのサングラス型スピーカー、TCLの「RayNeo」などが脳裏に浮かびますが、Even Realities社の『Even G1』は一味違うとの噂。
もちろんChatGPTやPerplexityなどの生成AI機能付き。バリエーションがあって意匠性も非常に良い◎ドラゴンボールのスカウター世代としては心が躍りますw

同製品のコンセプトは"見えない×見える"。高精細な緑色ディスプレイ、13言語対応の翻訳機能、直感的なジェスチャー操作を巧みに組み合わせ、これまでにない装着感を実現するというアプローチ。

プレゼン時のテレプロンプター、サイクリング中のナビ、海外旅行の翻訳まで、日常使いに特化した「おまかせ」スタイル。私が最近スマートグラスを追っているせいか、最近SNSの広告やレビューにもちょくちょく上がってきますw 欲しい!

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

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