Baa,Baa,Baa. | Week of May 11, 2026

【Weekly Picks】安野モヨコ原作ミュージカル、オフ・ブロードウェイへ

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。

The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。

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Weekly Headlines

  1. 安野モヨコ原作ミュージカル、オフ・ブロードウェイへ

  2. A24は映画を「ブランド」へ変えた

  3. テックVCがスポーツ球団に投資する理由

  4. ホテルはなぜ「会員制クラブ化」するのか

  5. 高級レストランは「複製」できるのか

  6. ティーンを熱狂させるカラードリンク

  7. 350年続く「自然酒」の蔵

  8. 長寿時代のリカバリーテック

  9. 魂を失った「コーチェラ美学」

  10. 「スイス製」はどこまでスイス製なのか

1.  安野モヨコ原作ミュージカル、オフ・ブロードウェイへ

ダンカン・シークが作詞・作曲を手掛ける新作ミュージカル『鼻下長紳士回顧録(Memoirs of Amorous Gentlemen)』が、今秋ニューヨークのオフ・ブロードウェイで開幕する。本作は安野モヨコの同名漫画を原作としており、日本マンガを原作とした英語圏の米国ミュージカルとしては初の試みとみられている。上演会場は、かつて14年間にわたりイマーシブ演劇『Sleep No More』の拠点だったチェルシー・クラブ内に新設される「The Night Egg」。作品に登場するフランスの売春宿にちなんだ名で、観客が場内を自由に移動しながら体験できる、イマーシブ形式に適した空間が選ばれた。演出・振付はトニー賞受賞者のロブ・アシュフォード、脚本は劇作家リア・ナナコ・ウィンクラーが担当。シークは当初、マンガ原作の音楽化に戸惑いを感じていたものの、脚本家との共同作業を通じて作品世界に強く惹き込まれたという。舞台は20世紀初頭のパリ。売春宿で働くコレットは、客たちの奇妙な幻想や哀しみを書き留めるなかで、自らの主体性を獲得していく。しかし一方で、レオンへの破滅的な執着から逃れられず、愛と自己破壊の曖昧な境界が描かれる。2020年に文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したこの作品が、日本マンガとニューヨーク演劇、そしてイマーシブ表現をどのように結びつけるのか注目される。

2. A24は映画を「ブランド」へ変えた

A24は近年、単なる映画制作会社ではなく、映画を軸にファッションやライフスタイルまで含めた「ブランド」として独自の地位を築いている。最新作『The Drama』では、ニューヨークのインディーブランドEmily Dawn Longによる一点物のヴィンテージTシャツが即完売を記録し、Prayingのフーディーも話題を呼んだ。さらに『Marty Supreme』では、ティモシー・シャラメとストリートブランドNahmiasが手掛けた限定ウィンドブレーカーを求めて世界各地に長蛇の列が生まれ、映画グッズの販売そのものがカルチャーイベント化した。A24はこれまでも、Boot Boyz BizやJ Hannah、Online Ceramicsなど、カルチャー感度の高い新鋭ブランドと協業し、単なるロゴ入り商品ではなく、映画の世界観を拡張するアイテムを生み出してきた。こうした商品は映画の「おまけ」ではなく、作品の美学やコミュニティへ参加する入口として機能している。「感度の高い人だけが共有できる」限定性やインディー感、ストリート性を巧みに演出することで、「A24らしさ」そのものが一種の文化資本になっているのである。さらに「Barbenheimer」以降、映画業界全体でも、作品公開をファッションやコラボ商品を含めた総合的なカルチャー体験として展開する流れが加速している。アルゴリズムによって趣味や個性が均質化される時代において、A24は映画を「センス」や「感性」を共有・消費する場へ変換し、新しい映画ブランドの形を定着させつつある。

3. テックVCがスポーツ球団に投資する理由

ハイテク分野への投資で知られるThrive Capitalが、MLBのサンフランシスコ・ジャイアンツへの出資を発表した。これは同社の新戦略「Thrive Eternal」による第1号案件であり、AI時代における「代替不可能な文化資産」への投資として注目を集めている。出資は少数株式で、MLBの承認を経て成立する見込みだ。Thrive Eternalは、従来のVCのように数年で売却益を狙うのではなく、スポーツチームや映画スタジオ、文化ブランドといった「長期的な共同体価値」を持つ対象を保有し続けることを目的とした恒久資本ファンド(PCV: Permanent Capital Vehicle)である。創業者ジョシュア・クシュナー氏は、AIによって知能や創作が大量化する時代だからこそ、歴史や熱狂を蓄積した文化機関の価値はむしろ高まると強調している。この取り組みには、Thriveにアドバイザーとして復帰したウォルト・ディズニーの前CEO、ボブ・アイガー氏も関与する。ThriveはこれまでInstagramやOpenAIなど、最先端テック企業への投資で知られてきたが、近年は映画スタジオ「A24」への出資など、文化・エンタメ領域にも積極的に進出している。これは、AI時代において「人々が帰属し、熱狂する共同体」そのものへ資本が向かい始めていることを示す動きでもある。

4. ホテルはなぜ「会員制クラブ化」するのか

アメリカのホテル業界では近年、「宿泊施設」と「会員制ソーシャルクラブ」を融合させた新たな業態が広がっている。背景には、宴会場や会議室といった低稼働空間を収益化したいホテル側の狙いがあり、コロナ後に高まったリアルな交流への欲求も、この流れを後押ししている。ホテル各社は、館内を会員専用ラウンジやコワーキングスペースなどへ転換し、旅行者ではなく地元の若者やクリエイティブ層を取り込もうとしている。会員には限定イベントやウェルネス施設の利用、レストラン優先予約などの特典が提供され、ホテルは地域の「社交拠点」として機能し始めている。この流れを主導しているのは中価格帯ホテルで、会費収入が安定した収益源になるだけでなく、コンドミニアム販売に代わる開発資金の調達手段としても注目されている。こうした動きはニューヨークやロサンゼルスだけでなく、地方都市にも広がりつつある。宿泊客が地元住民と交流できる点も魅力の一つだが、会費は年間数千ドル規模に及ぶ場合も多く、「選ばれたコミュニティ」への参加権としての性格も強く、また、会員増加による混雑や一般客の疎外感、市場の飽和、出張客と若い会員層との文化的摩擦などを懸念する声もある。しかしそれでもこの現象は、現代において「どこに泊まるか」以上に、「どこに所属し、誰と繋がるか」が価値になっていることを象徴している。

5. 高級レストランは「複製」できるのか

かつて高級レストランや会員制クラブの価値は、「そこにしかない空気」にあった。辺鄙な場所まで足を運ばなければ得られない希少性や、限られた人々だけが共有する閉鎖的な社交空間そのものが魅力だったのである。しかし近年は、その空気感をブランド化し、世界各地へ展開するビジネスモデルが成功を収めている。ロンドンの実業家リチャード・カーリングは、「The Ivy」や「Annabel’s」など歴史ある高級店を買収し、多店舗展開によって巨大な収益を生み出した。さらに最近、彼は保有企業の過半数株式をアブダビの投資主体に約14億ポンドで売却。今後も会長として陣頭指揮を執り、10億ポンド規模の追加資金をテコに世界展開を加速させる方針だ。実際、The Ivyは英国各地に40店舗以上を展開し、高級感やセレブリティ文化を「再現可能な体験」として提供している。しかし、その拡大と引き換えに、かつて店が持っていた親密さや偶然性、限られた人々だけが集う独特の緊張感は薄れ、空間はより派手で演出過剰なものへ変わりつつある。1980年代のThe IvyやLe Capriceには、ダイアナ妃をはじめとする著名人が自然に集い、その人間関係や噂話までもが店の魅力の一部となっていた。Annabel’sもまた、英国上流階級の閉鎖的な社交文化やスキャンダラスな背景込みで特別なオーラを放っていた。しかし、それらは内装やサービスだけでは再現できない。歴史や人間関係、偶然性によって形成された「本物の空気」は、チェーン展開によって容易に複製できるものではないからである。その一方で、ジェレミー・キングのように、歴史的空間を修復し、「その場所にしかない体験」を守ろうとする動きも存在する。そこでは最先端の料理以上に、空間の記憶や雰囲気そのものが価値となっている。希少で唯一無二だったラグジュアリーは、いまや拡張可能で再現可能なブランドへと変わりつつある。カーリングとキングという対照的な二人の歩みは、商業的成功と文化的価値の間で揺れる、現代ラグジュアリー文化のジレンマを鮮明に映し出している。

6. ティーンを熱狂させるカラードリンク

ニューヨークのティーンの間で、スターバックスの「ストロベリー・アサイー・リフレッシャー」などの甘くカラフルな飲料が、単なる飲み物を超えた「ステータスシンボル」になっている。放課後のスターバックスは高校生たちで埋め尽くされ、店内はもはや飲食店というより、友人と集まり、TikTokを眺めながら過ごす「居場所」と化している。こうした冷たく甘いカスタマイズ飲料は、ボバティーや抹茶ラテ、ダーティーソーダとともに、Stanleyボトルや韓国コスメと並ぶZ世代文化の一部となった。1杯7〜10ドルという価格帯にもかかわらず、スターバックスのカップを持つこと自体が、所属感や自己演出の記号になっている。実際、Z世代の若者の半数が「好きな飲み物は自分の個性の一部」と答える調査結果もある。この熱狂を後押ししているのがTikTokをはじめとするSNSだ。鮮やかなピンクや紫の色彩、氷の音、泡やクリームの質感は動画映えし、ユーザー発のカスタムレシピが次々と拡散されている。さらに、抹茶ドリンクが人気のBlank StreetやダーティーソーダのCool Sips、Dutch Bros、Swigなど新興チェーンも急成長しており、飲料業界全体が若年層の獲得競争に乗り出している。1990年代のフラペチーノに始まり、リフレッシャーの登場によって加速したこの潮流。現在では米国内スターバックスの販売飲料の約75%をコールドドリンクが占めるまでになった。一方で、頻繁な購入による家計負担や、リフレッシャーに含まれるカフェイン、過剰な糖分への懸念もある。かつての「たまり場」文化はデジタル時代のSNS文化と結びつき、飲み物は今や「味」以上に、美学や所属意識、アイデンティティを可視化するメディアへ変わりつつある。

7. 350年続く「自然酒」の蔵

350年の歴史を持つ寺田本家は、工業化が進む現代の酒造業界にあって、いまなお手仕事による「自然酒造り」を貫く稀有な蔵元だ。日本酒の消費量がピーク時の4分の1にまで落ち込み、過去50年で半数以上の酒蔵が姿を消すなか、多くの蔵が効率化と大量生産を進めていった。一方、24代目の寺田優・聡美夫妻は、1980年代に先代が始めた自然回帰の思想を受け継ぎ、機械や化学添加物、市販酵母を使わず、有機米や湧水、野生酵母、自家培養の麹による酒造りを続けている。仕込みの現場では、蔵人たちが「酛摺り唄(もとすりうた)」を歌いながら息を合わせて作業を進め、作り手の精神が酒に宿るという感覚がいまも息づく。こうした酒造りの思想は地域社会とも深く結びついており、有機農業や古代米復活への取り組み、「お蔵フェスタ」などを通じて、地域の季節感や人々のつながりを支えてきた。氏は、日本酒の衰退は単なる産業の縮小ではなく、農業や発酵文化、共同体そのものの喪失につながると語る。寺田本家は、過去を保存するためではなく、伝統を更新しながら未来の価値を生み出す場として、国内外から多様な人々を惹きつけ続けている。

8. 長寿時代のリカバリーテック

近年、ウェルネス市場では「ロンジェビティ(長寿)」志向の高まりを背景に、リカバリーテックが次世代のブランド競争の舞台となっている。ナイキやアディダスは、温熱機能や圧迫機能を備えたウェアやシューズ、神経科学を応用した感覚刺激型フットウェアを開発し、「回復」そのものを新たな競争領域として位置づけ始めた。かつてはプロアスリート向けだったこの分野も、現在では一般消費者市場へと急速に拡大。家庭用マッサージ機器や赤色LED療法、睡眠最適化デバイスなどを日常的に取り入れる人も増え、リカバリーは特別なケアではなく、日常習慣として定着。美容、睡眠、メンタルケア、アンチエイジングなど市場も広がっている。また、WhoopやOuraなどのウェアラブル端末の普及によって、人々は睡眠や疲労状態を「Recovery Score」として日常的に可視化するようになった。今後はAIと生体データの連携により、個々の身体状態に合わせて回復方法を最適化するサービスや技術の普及が進むとみられる。企業は単なる製品販売にとどまらず、データと身体反応を統合した「回復エコシステム」の構築へと向かい始めている。

9. 魂を失った「コーチェラ美学」

かつて音楽フェスの魅力は、泥だらけの会場や崩れたメイク、不便さや疲労感さえ含んだ「雑な格好よさ」にあった。特にイギリスのフェス文化では、実用性や生活感のある装いそのものがファッションとして成立していた。一方、アメリカ最大級のフェスであるコーチェラ・フェスティバルも、1999年の初開催時は砂漠の暑さに耐えるための実用的な服装が中心で、現在のような「映え」重視の空気はまだ薄かった。しかし2000年代半ば、パリス・ヒルトンらセレブの来場をきっかけに、ボヘミアンスタイルが「コーチェラファッション」として定着。さらにSNS時代に入ると、フェスファッションは自己表現よりも「コンテンツ」として機能し始め、インフルエンサーやブランドによる巨大なマーケティング空間へ変化していった。現在では、企業が巨額の予算を投じてインフルエンサーを招待し、会場は「インフルエンサー・オリンピック」とも揶揄されるほど商業化している。そこでは、かつてフェスにあった偶然性や泥臭さは失われ、スタイリストや撮影チームによる「管理された「自由」の演出」だけが再生産される。現代の「コーチェラ美学」は、1960〜70年代ヒッピー文化の思想そのものではなく、その「自由っぽい雰囲気」を商品化した2000年代のコーチェラファッションを、二次的に消費した「模倣の模倣」に過ぎない。反消費主義を掲げていたはずの文化が、いまやアルゴリズムと大量消費のために最適化されている──そこに、この現象の大きな皮肉がある。リアルな体験はアルゴリズム向けの記号へと変わり、フェス文化そのものも、オリジナルの熱量を失った退屈な「カバー曲」のようになってしまったのだ。

10. 「スイス製」はどこまでスイス製なのか

スイスのスポーツシューズメーカーOnは、スイス連邦知的財産庁(IPI)が示した新たな原産地表示ルールの象徴的存在となった。これまで、スイスのブランド保護制度「Swissness」は国内生産比率を厳格に求めてきたが、IPIは近年のグローバルなサプライチェーンの実態を踏まえ、より柔軟な解釈を提示した。この新基準の核心は、ブランドの原産地評価を「製造場所」から「価値創造の拠点」へと移した点にある。具体的には、製造そのものがアジアなど国外で行われていても、研究開発や設計といった中核的価値がスイスで生み出されていれば、スイス十字の使用が認められるようになった。Onは設計・開発をチューリッヒで行い、生産をアジアで担っているため、この方針変更によってその法的立場をより強固にした形だ。こうした柔軟化の背景には、経済的圧力にさらされる国内ブランドを支援し、スイスが培ってきた「技術」や「品質」といった無形資産を守る狙いがある。IPIは、現代の製品価値が複数国にまたがって形成される以上、単なる製造地だけでなく、デザインやエンジニアリングなど知的資産の所在も重視すべきだと考えている。一方で、消費者に「完全なスイス製」と誤認させないよう、「Swiss engineering」といった補足表現を併記し、全工程がスイス国内で行われたわけではないことを明示する必要もある。スイス製表示は、とりわけ高級時計業界で強いブランド価値を持ち、製品価格を大きく押し上げる力を持つ。今回の動きは、「どこで作ったか」だけでなく、「どこで意味や信頼を生み出しているのか」がブランドの正統性を左右する時代になりつつあることを示している。

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