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#073_Sheep 認知のモート
20年以上にわたり、テクノロジー産業の勝者を決めてきたのは、「ネットワーク効果」と「規模の経済」だった。ユーザーを集め、スケールする者がすべてを手にする──その方程式は揺るがない原理のように見えた。しかし今、その支配構造は静かに変質している。友人とのつながりを約束したはずのSNSは、いつしか誰が作ったかも分からないショート動画を無限に流す「Desocialized Media」へと姿を変えた。最適化されたのは関係性ではなく、滞在時間と広告効率だった。その延長線上で台頭しつつあるのが、「どれだけ多くの人を集めたか」ではなく「どれだけ一人を深く理解できるか」で価値が決まる、「認知効果(Cognitive Effects)」という新しいモート(掘)である。スケールから理解へ──この転換は、プロダクトの設計思想と、テクノロジーがもたらす体験そのものを静かに更新しつつある。
#072_Sheep KのないK-pop
Netflix史上最大のヒットとなった『KPop Demon Hunters』。その熱狂の裏で、本家、韓国のエンタメ業界はいま、かつてない「構造的ひずみ」に直面している。K-popの美学やフォーマットは国境を越え、世界中で共有される共通言語となり、もはや韓国抜きでも成立する──いわば「脱領土化」が進んだ。一方で、NewJeansをめぐる法的闘争が象徴する創造性と効率性の対立、HYBEが掲げる「Kを外す」戦略、国内市場の空洞化、そして音楽的停滞といった問題が噴き出している。パロディが成立するほど成熟したK-popはいま、産業としての論理とアイデンティティ、そして創造性のあいだで引き裂かれている。グローバル化の成功が自国性の解体へと向かうとき、K-popはどこへ向かうのか。
#071_Sheep ダンスはうまく踊れない
クラブに人は集まっているのに、誰も踊らない──そんな逆説的な光景が、いまや珍しくなくなった。スマホで撮られる不安は自由な身体表現を萎縮させ、フェス化したステージ構造は視線を前方へと固定する。さらに、VIP席を重視する経済モデルは、踊るためのフロアそのものを削っていく。こうした複数の変化が重なり、かつて「誰もが踊れた場所」だったクラブは、いつの間にか「踊りづらい空間」へと姿を変えた。一方で、スマホ禁止のイベントや教会の地下室、社交ホール、ブロックパーティー、移民コミュニティなどでは、いまもダンスは生きている。そこには上手い下手はなく、ただ音楽と身体が交わる、素朴で切実な熱がある。現代の「踊れない理由」と、それでもなお踊ろうとする人々の実践。その交差点に立ち現れる、新しいダンスカルチャーの風景を追う。
#069_Sheep 小さな書店の作り方
「一年も持たないでしょう」──昨年、英国の小さな村で書店を開こうとした女性は、弁護士からそう告げられた。Amazonの台頭以降、米国の独立系書店は衰退の一途をたどり、2009年には史上最低水準まで落ち込んでいる。ところがいま、その流れは静かに反転しつつある。米国では独立系書店が過去5年で約70%増加し、2025年だけでも422の新店が誕生した。なぜ「消えゆく産業」が復活しつつあるのか。その鍵は、価格や品揃えの競争を降り、「なぜ人がそこに留まるのか」を問い直した点にある。体験の設計、キュレーションの深化、コミュニティへの投資──小さな書店の戦略は、デジタル時代における「場所」の価値をあらためて浮かび上がらせている。
#068_Sheep すべてが「演技」に見える時代
マッチャラテを飲みながらフェミニズムの本を読む男性は「パフォーマティブ・メイル」、カフェで難解な小説を読む人は「パフォーマティブ・リーディング」──2025年、あらゆる行為が「本物」か「演技」かの検閲にさらされた。なぜ私たちは他人の不自然さに過敏になり、同時に自分も常に「見られている」と意識せずにはいられないのか。SNSとECが一体化した消費文化の均質化、啓蒙時代から続く「本物であれ」という西洋思想の強迫観念、そしてパノプティコン的な相互監視構造──フーコーやカント、現代の文化研究者たちの視点を交えながら、「想像上の観客」と戦い続ける私たちの姿を解き明かす。






