Baa,Baa,Baa. | Week of Mar 16, 2026

【Weekly Picks】ファッションにおける記号と現実

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。

The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。

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Weekly Headlines

  1. ファッションにおける記号と現実

  2. Gapが直面する構造的苦境

  3. アスレジャーとLululemonの行方

  4. 平凡な「WorkTok」動画がZ世代を魅了する理由

  5. 岐路を迎えつつあるマッチングアプリ

  6. Jack in the Boxが抹茶メニューを投入

  7. DVDが「新たなレコード盤」に

  8. 婚約指輪の市場を席巻する人工ダイヤモンド

1. ファッションにおける記号と現実

ファッションにおける政治性、すなわち社会的なメッセージや立場は、これまで主にデザインや広告といった象徴的な側面から語られてきた。しかしそこでは、「誰が服を作っているのか」という物質的な問いが見落とされがちである。女性の解放や権利を訴える衣服であっても、その多くは低賃金で働く世界の衣料労働者によって支えられている。この矛盾を体現するのがミウッチャ・プラダだ。彼女は若き日に共産主義に傾倒しながら、現在は巨大ファッション企業のオーナーとして莫大な富を築いた。プラダを象徴するナイロンバッグは、高級素材から軍用ナイロンへの転換によって生まれ、ラグジュアリーの大衆化と工業化を加速させた。一方でブランドは、労働環境や透明性に課題を抱える外部委託の生産構造に大きく依存している。ミウッチャとそのパートナーであるパトリツィオ・ベルテッリは、デザインを通じて労働や現実の困難さを表象しながらも、その前提となる生産構造を変える立場にはない。こうした構図は、マーク・ザッカーバーグのショー来場に違和感が集まった一件とも重なる。ファッションとテックは異なる領域に見えて、いずれも同じ資本の論理の上に成り立っているのである。

2. Gapが直面する構造的苦境

1993年、Gapは「Who Wore Khakis」と題した常識破りのキャンペーンを展開した。使われたのは、マイルス・デイヴィスやジェームズ・ディーン、モハメド・アリら、20世紀を象徴する人物の白黒アーカイブ写真。誰もがカーキを履いていたが、そのどれもがGap製ではなく、本人たちが広告のために撮影したわけでもない。マイルスに至っては掲載時すでに他界しており、同意すら存在しなかった。Gapはただ写真にロゴを添え、「Miles Davis wore khakis.」という最小限のコピーだけを置いた。この挑発的な手法は、ブランドの圧倒的な自信を体現するものだった。こうした表現力と存在感を背景に、1999年には売上高116億ドル、純利益11億ドルを記録する。しかしその後、常態化した値引きとアウトレット展開が「安くなるまで待つ」という消費行動を定着させ、ブランド価値と利益率を毀損。現在は売上こそ150億ドルに達するものの、利益率は約10%から5.6%へと低下し、実質規模も縮小している。さらに、Sheinのような低価格勢とラグジュアリーの間で中間市場自体が縮小し、Gapは構造的な苦境に直面している。

3. アスレジャーとLululemonの行方

2010年代に100ドルのブラック・レギンスをステータスシンボルへと押し上げ、「アスレジャー」という新たなカテゴリーを築いたLululemonが、いま大きな岐路に立たされている。2024年以降、北米市場を中心に成長は鈍化し、売上も伸び悩むようになった。背景にあるのは、市場の飽和と消費者嗜好の細分化である。Alo Yoga(West Village Girlsとそのフォロワー)、Adanola(Aloに飽きたSsense系の買い物客)、Gymshark(クレアチンを摂取するリフター)、Vuori(マリン郡でのネットワーキング層)、Set Active(Parke好きの20代)、Sporty & Rich(ジムでもCartierの時計を外さない女性)、Form(レイヤードのブラトップを好むスカルプト系クラス中毒者)、H-O-R-S-E(ポリエステルを手放したい元Outdoor Voices信者)、Literary Sport(The Rowのファン)、Tracksmith(ヴィンテージRalph Laurenを愛する本格ランナー)、Left on Friday(キャロリン・ベセット=ケネディ的美意識を信奉するミニマル志向の母親層)など、ブランドは用途や美意識ごとに分化し、従来の中核的ポジションが揺らいでいる。さらに消費者の関心は機能性から、スタイルや個性、さらには素材の安全性へと広がり、均一的なレギンス文化への倦怠も見え始めた。こうした状況の中で、Lululemonはデザイン刷新とアスレティック回帰を進めるが、顧客層の広さゆえにブランドの軸はなお定まりきらない。創業者チップ・ウィルソンによる批判やCEO辞任といった混乱も重なり、再建は容易ではない。新たにクリエイティブを率いるジョナサン・チャンは「マインドフルなアスリート」を掲げ再定義を試みるが、アスレジャーが成熟したいま、その再起の成否が問われている。

4. 平凡な「WorkTok」動画がZ世代を魅了する理由

TikTokやInstagramで、会社員が日常の業務風景を記録する「WorkTok」動画が急増している。#corporatelifeのハッシュタグだけでも200万件超の投稿があり、特にZ世代の支持を集める。通勤やデスクワーク、会議といった平凡な一日を映すシンプルな内容ながら、実際の職業像を知る手がかりとなり、ロールモデル不足を補う役割も担う。ロンドンのコンサルタントやIT・法律業界で働くクリエイターたちは、「自らが携わる仕事の存在」を可視化することに意義を見出し、中には数十万人規模のフォロワーを持つ者もいる。投稿はまた、単調な仕事を「ロマン化(romanticise)」し、日々のモチベーションを高めると同時に、副収入の手段にもなり得る。企業側にとっても、従業員による発信はブランドの透明性を高め、採用にも寄与する有効な手段となるが、その一方で、機密情報の漏洩やセキュリティリスクも無視できず、不適切な投稿が解雇につながる事例も出ており、法的・コンプライアンス上の課題が浮上している。こうした現象の背景には、華やかなインフルエンサー文化への疲れと、不透明な雇用環境への不安がある。WorkTokは単なる流行にとどまらず、「働くこと」のリアリティと安心感を共有する装置として機能している。批判的な声もあるが、多くの若者にとって、このありふれた日常こそが最も共感可能な物語となっている。

5. 岐路を迎えつつあるマッチングアプリ

マッチングアプリ業界は近年、明確な低迷局面に入っている。Tinderの有料会員数は2025年第3四半期に前年比7%減少し、Bumbleも昨夏、全従業員の30%を削減するなど、「アプリ疲れ」が広がっている。そうした中でも、タグ機能によって条件を細分化する新興アプリ「Duet」のような参入は続くが、理想の相手を数値化・言語化しようとする発想そのものが、恋愛の魅力を削いでいるとも言える。スワイプ中心の操作や過度に作り込まれたプロフィール、さらにはゴースティングといった構造は、人間関係を匿名的で表層的なものへと変質させやすい。加えて、成長と収益を優先する設計は、偶然性や相互理解に支えられる恋愛の本質と緊張関係にある。筆者自身、Bumbleでの交際を通じて学びを得た一方、別のアプリでは差別的な発言を受ける経験もしたという。現在のパートナーとは、パーティーでの偶然の出会いから関係が始まった。アプリに代わる手段としてリアルな出会いを単純に理想化することはできないが、そこには予測不能ゆえの豊かさがある。恋愛は最適化できるものではないという事実が、あらためて浮かび上がっている。

6. Jack in the Boxが抹茶メニューを投入

米国の大手ファストフードチェーン「Jack in the Box」が、メニューに抹茶を導入し、SNSを中心に大きな話題を呼んでいる。抹茶自体はこれまでスターバックスやダンキンなどのコーヒーチェーンでは定番だったが、ハンバーガーやタコスを主力とする主要ファストフードチェーンでの展開は異例だ。マクドナルドやバーガーキング、ウェンディーズといった競合が未導入であることを踏まえると、その新規性は際立っている。この取り組みは創業75周年記念の新メニューの一環だが、単なる期間限定商品としてではなく、「抹茶プラットフォーム」として打ち出している点も特徴的。現在提供されているのは、甘いクリームとバニラを合わせた「抹茶アイスラテ」と、バニラアイスにオレオを混ぜ込んだ「オレオ抹茶シェイク」の2種類。特にシェイクは、抹茶特有のほろ苦さと甘みのバランスが評価されており、レビューでも「ファストフードとは思えないほど風味がしっかりしている」と好意的に受け止められている。こうした動きの背景には、ファストフードにウェルネスやトレンド性を取り込む意図があると考えられる。とりわけSNS世代への訴求を強く意識した設計であり、実際にSNS上では「エピック(最高)」「革命的」といった熱量の高い反応が相次いでいる。従来のファストフードの枠組みを更新する試みとして、その動向に注目が集まっている。

7. DVDが「新たなレコード盤」に

Z世代を中心に、DVDやBlu-rayといった物理メディアへの回帰が静かな広がりを見せている。動画配信の普及で市場は長らく縮小してきたが、2023〜2024年に20%以上落ち込んだ売上は、2025年には9%減まで鈍化した。背景にあるのは、複数の定額制サービスに囲い込まれる「サブスクリプション疲れ」だ。料金を払い続けても観たい作品が見つからない、作品が分散している、あるいは突然配信が終了する──そうした不自由さが、「手元に残る所有」への欲求を呼び起こす。実際、レンタル店や書店では若年層の来店や会員登録が増加し、4K UHDによる高品質な視聴体験や特典付き作品への関心も高まりつつある。さらに、店舗で作品を探し、他者と共有する体験そのものも支持の対象だ。専門家は、この動きを無限の選択肢への疲労とプラットフォーム支配への反発の表れとみる。かつてのレコード復興と同様、フィジカルメディアは懐古にとどまらず、デジタル過多の時代において文化との距離を取り戻す手段として再評価が進んでいる。

8. 婚約指輪の市場を席巻する人工ダイヤモンド

米国の婚約指輪市場では、人工ダイヤモンド(lab-grown diamond)の選択が急増し、主流となりつつある。ウェディング情報サイト「The Knot」の調査によれば、2025年には61%が人工ダイヤを選択し、2020年比で239%増と大きく伸長した。背景には、コストを抑えたいという経済的合理性に加え、素材のあり方を重視する価値観の変化がある。実際、ラボグロウンであること自体を重視する層も4割にのぼる。こうした変化は購買行動にも表れている。婚約指輪の平均購入額は4,600ドルと前年から下落する一方、平均カラット数は1.7から1.9へと拡大した。天然よりも安価に大粒の石を選べることが、「より大きく、より合理的に」という選択を後押ししている。デザイン面ではソリティアが最多で、石の形状はラウンドとオーバルが拮抗。約9割がカスタマイズを行い、形状やスタイルを重視する傾向も強い。購入は依然として店舗中心で、実物確認を重視する姿勢は維持されている。婚約指輪はもはや単なる象徴ではなく、コスト、価値観、デザインを総合的に最適化する消費へと移行しつつある。

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