Baa,Baa,Baa. | Week of Oct 20, 2025

【Weekly Picks】「チート」のすすめ

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。

The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。

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Weekly Headlines

  1. 「チート」のすすめ

  2. キム・カーダシアンはスポーツウェア市場を制することができるのか

  3. Lululemonが見失ったもの、取り戻すべきもの

  4. Adidasが文化の盗用でメキシコから避難されている

  5. 古い技術に夢中になる若者たち

  6. ウェルネスこそが新しいナイトライフだ

1. 「チート」のすすめ

記事の著者、Chris Rovzarは40代に入り、健康維持に苦労する中で最新のEMS(筋電気刺激)スーツ「Katalyst」に出会う。水に濡らしたボディースーツを着用し、刺激を受けながらわずか20分のトレーニングを行うと、短期間で筋力や姿勢が改善し、10ポンドの減量と筋肉量を増やすことにも成功したという。彼が求めていたのは「ちょっとしたチート(lil cheat)」――時間や努力を少し省く「小さな近道」だった。近年、極端にストイックな健康法がロンジェビティやウェルネスの文脈で注目されているが、それらは多くの人にとって非現実的だ。結局、最も大切なのは、適切な食事、運動、休息、メンタルヘルス、人間関係といった基本の積み重ねである。「ちょっとしたチート」は、完璧を約束するものではなく、気分を高め、健康的な習慣を続けるためのきっかけやブースト、モチベーションとして機能する。ホワイトニングをすればフロスをする気になり、レチノールを使えば日焼け止めを塗るようになる――そんな連鎖を生む存在だ。多くの「チート」はプラセボかもしれない。しかし、それが健康的な行動を促し、生活を少しでも前向きに変えるなら十分に意味がある。情報過多のウェルネス時代にこそ、自分に合った「ちょっとしたズル」を見つけることが、健康との付き合いを楽しくし、継続可能にしてくれるのだ。

2. キム・カーダシアンはスポーツウェア市場を制することができるのか

ム・カーダシアンがSkimsとNikeの提携によって始動させた「NikeSkims」は、単なるアクティブウェアの新ブランドではない。これは、Nikeがデジタル時代に「次なるジョーダン・モーメント」を生み出そうとする試みでもある。Skims共同創業者のイェンス・グレデは「30〜40年前、10代の15%がアスリートを夢見たが、いまや20%がクリエイターを志望している」と語る。カーダシアンは、まさにこの「クリエイター世代のマイケル・ジョーダン」として位置づけられているのだ。Nikeが創業以来掲げてきた「身体があれば誰もがアスリート」という理念は、これまで競技や勝利を中心に語られてきた。しかしNikeSkimsは、それを「自己表現としての身体」へと拡張する。ボディ・ポジティブや肌の色の多様性を肯定するSkimsとの提携は、ステレオタイプなヒロイズムを超え、より多様でリアルな女性像を提示している。このパートナーシップは、Nikeにとって停滞する成長を打破するだけでなく、ブランドが再び文化の中心に立つための賭けでもある。「キム・カーダシアンはスポーツウェア市場を制することができるのか?」──その問いは同時に、Nike自身が「アスリートとは誰か」をもう一度定義し直せるかどうかの問いでもある。

3. Lululemonが見失ったもの、取り戻すべきもの

10年前に取締役を退いたLululemonの創業者チップ・ウィルソンが、The Wall Street Journal に全面広告を出し、――“Gap-ivization”(Gap化)というやや微妙な言葉を使って――現経営陣を痛烈に批判した。彼は、短期的な利益追求や創造性の欠如を非難し、ブランドが原点である「文化を刺激する女性」というミューズを見失ったと訴える。実際、同社の売上成長は鈍化し、過去1年で株価は半減しており、その指摘の一部には確かに的を射た面もある。ただし、Lululemonの苦境は単なる経営判断の誤りにとどまらない。ウィルソンは自身の不在を問題視するが、彼の退任後に売上は16億ドルから100億ドルへ拡大しており、問題の本質はむしろ市場構造の変化にある。かつて同社が切り拓いたアスレジャー市場は、AloやVuoriといった新興ブランドの台頭により、レッドオーシャンへと変貌した。ヨガ人口の伸びも2015年以降は頭打ちとなり、市場全体が成熟期を迎えている。ウィルソンが描いた理想の女性像はいまも象徴的ではあるが、もはや時代の中心ではない。ブランドは多様化するライフスタイル――登山家やランナー、都市を歩くハイカーやウェルネス志向のミニマリストなど――にどう共鳴するかが問われている。Nikeが初期の顧客層を超えて多様な価値観に応えたように、Lululemonも新たなミューズを見出し、創造性を軸に文化を再構築する時期に来ている。

4. Adidasが文化の盗用でメキシコから避難されている

Adidasが「文化の盗用(Cultural Appropriation)」で避難されている。問題となったのは、メキシコ系米国人デザイナーのウィリー・チャバリアがAdidasのために制作した「オアハカ・スリッポン」というサンダルで、細い革紐を編み込んだスタイルがメキシコ南部オアハカ州の伝統的な履物「ワラチェス(huaraches)」と類似している——ちなみにNikeのハラチ(Huarache)シリーズも同じスペルだ。オアハカ州当局はAdidasに対し商品の撤回と公式謝罪を要求、同州知事は「創造的インスピレーションは文化の無断使用を正当化しない。文化は売るものではなく、尊重すべきものだ」と批判した。Adidasは声明で、メキシコ先住民の文化を深く尊重していると述べ、当局と協議の場を設け「損害の修復方法を話し合いたい」と表明。大統領クラウディア・シェインバウムも、補償交渉が進行中であることを認め、伝統工芸の無断利用を防ぐ法改正を進めていると明かした。ただ、文化への尊重や保護は不可欠だが、文化とは本来、混ざり合い、流れ、更新されていくもの。過度な保護がクリエイターの萎縮を招き、かえって文化の交流や発展、イノベーションを阻害する可能性もある(むしろこのシューズをきっかけにメキシコ文化のことを知り、メキシコ文化に触れる人が増えたかもしれない)。尊重と自由の間に線を引くことは簡単ではないのだ。

5. 古い技術に夢中になる若者たち

Z世代の間であえてCDやデジカメ、ガラケーといった「古いテクノロジー」を使う動きが広がっている、という話はあちこちに溢れている。スマホやSNSに支配される日常から距離を置き、生活のリズムや感覚を自分の手に取り戻そうとする試みだ。この記事で印象に残ったのは彼らの心情を象徴する「Z世代は、何も所有していないことにうんざりしている」という言葉だ。クラウドやサブスクサービスの普及により、音楽も写真も自分のものではなく「借りもの」になった。SNSでは他者の目を意識した「見せる自分」ばかりが先行する。便利さの裏で、自分の文化的アイデンティティが企業のプラットフォームに支配されている——そんな感覚が漂っている。だからこそ、手に取れるCDが新鮮に映るのだ。そこにあるのは、単なるノスタルジアではない。「自分で選び、持ち、感じる」という主権の回復であり、「自分でコントロールできる世界」を取り戻す行為なのである(ちなみに「コントロール感」についてはこの文章も読んでほしい)。アルゴリズムではなく自分の感性で音楽を選ぶこと。SNSに左右されずに時間を過ごすこと。それは、デジタル時代における自己統制と、リアルな経験への渇望の表れなのだ。

6. ウェルネスこそが新しいナイトライフだ

ホスピタリティ業界では、飲酒文化からウェルネス重視への大きな文化的変化が起きている。Gallupの調査によると、飲酒するアメリカ人の割合は1939年以降最低の54%となった。この変化に対応し、様々な施設が新しいウェルネス・サービスを展開している。ロンドンの伝説的なナイトクラブ「Tramp」は16,000平方フィートのウェルネスクラブ「Tramp Health」を開設し、メキシコのリビエラ・マヤにあるRosewood Mayakobaではムーンライト・ヨガやノンアルコールバーでのフルムーンパーティなどの夜間プログラムを提供。また、パーティー・アイランドとして知られるイビサ島でも「Soho Farmhouse Ibiza」がヘルス・リトリートを開始した。ウェルネスツーリズム市場は8,300億ドル規模に成長し、ヨガや点滴療法など、健康志向の体験に投資する人が増加。夜の贅沢は、もはやラウンジのボトルではなく、月光の下で深呼吸する時間なのかもしれない。ウェルネスがナイトライフに侵食し、クラブカルチャーが日中へと姿を変える。その双方向の動きは、ソバーキュリアスや健康志向を軸にした若い世代のライフスタイル変革の象徴といえる。

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