Baa,Baa,Baa. | Jun 24, 2026

【Today’s Pick】ファレルとLouis Vuittonの現在地

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。

The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。

🐏 Baa,Baa,Baa. | Jun 24, 2026

 Today’s Headlines

  1. ファレルとLouis Vuittonの現在地

  2. ノスタルジアの賞味期限

  3. リミナリズムはいかにして現代を象徴する美学となったか

  4. グローバル化が進む中で「ローカル文化」が復権している

  5. Erewhonが売るステータス

  6. 「最適化」から距離を置く人たち

  7. 派手なネイルアートから素の美しさへ

  8. ハリウッドの若手スターが声で演じる音声ポルノ

1. ファレルとLouis Vuittonの現在地

ファレル・ウィリアムスは、Louis Vuittonのメンズ部門アーティスティック・ディレクターを務める一方、シャンパン、ホテル、飲食、スキンケア、不動産、投資など多岐にわたる事業を同時に展開している。Moët & Chandonとの限定ボトル企画やサントロペでのレストラン運営、スキンケアブランド「Humanrace」、EC企業「Quince」やハンドロール・チェーン「Nami Nori」への出資など活動領域が広がるなか、その司令塔となる独自の持株会社の整備も進めており、著名なメディアタレントマネージャーであるペニー・ソウや「GQ」元編集長のウィル・ウェルチを要職に迎え、組織としての体制を固めつつある。ファレルが持つダイナミズムとポップカルチャーへの影響力を評価したLouis Vuittonが起用してから3年。同ブランドでの役割は今や、彼の広大な活動のひとつに過ぎない。ブランドにおける評価も一様ではなく、就任当初に発表したバッグは高く評価された一方、その後のコレクションはファッション業界内で大きな話題を呼ぶには至っておらず、本人チームもLVMH側もコレクションの訴求力不足という課題を認識している。問われているのは、Louis Vuittonが期待するアクセサリーにおいてヴァージル・アブロー時代のような熱狂を再現できるかどうかだ。現時点でファレルがブランドを去る兆候はなく、CEO交代という過渡期を迎えているLouis Vuitton側にとっても次のクリエイターを見つけることは容易ではない。「Louis Vuittonにとって彼がどれほど必要か」という問いが業界内でくすぶり続けるなか、独自のプラットフォームを確立するファレルと世界最大のラグジュアリーブランドが、いかに互いの価値を最大化していくかが今後の焦点となる。

2. ノスタルジアの賞味期限

2026年のファッション・エンタメ業界において、ノスタルジアが支配的なトレンドとなっている──今年最初に注目を集めたのは、「2016年への哀愁」だった。経済・地政学的な不安が続く中、人びとは「安全で幸福だった」と感じられる過去に安らぎを求め、ブランドもまた、創造性の停滞やAIによる均質化、顧客獲得競争の激化を背景に、成功体験のある過去の資産を活用する傾向を強めている。ノスタルジアは単なる流行ではなく、コンテンツが急速に消費・廃棄されるデジタル時代において文化的記憶を保持し、人々とブランドを結びつける重要な装置となっているが、過度な依存は新たなIPの創出や革新を阻害し、創造性を損なう危険性も孕む。他方、ノスタルジアの感情的機能そのものも変容しつつある。TikTokやAIが生み出す大量コンテンツへの疲弊感を背景に、人々の求めるものは「過去への逃避」から「レガシーや本物らしさの証明」へとシフトしており、歴史の重みや人間的な努力の痕跡に価値を見出す傾向が強まっているのだ。重要なのは、ノスタルジアと革新が必ずしも矛盾しないという点である。AdidasやXfinityの広告事例が示すように、最新技術を活用しながらユーモアと自己参照的なトーンで過去を再解釈することで、懐かしさは新鮮な表現として息を吹き返す。ブランドに求められるのは過去の単純な復刻ではなく、自らの価値観を現代の文脈で読み直すことだ。真正性・自己表現・日常への統合といった現代消費者の価値観に応えることで文化的持続性を獲得したCoachはその好例といえる。AIとともに育つアルファ世代がノスタルジアに同じ共感を覚えるとは限らないいま、市場は過度な懐古趣味から脱却し、自ら文化を生み出す「テイストメイキング」の時代へと向かうことを求められている。独自の視点を持ち、消費者に新たな価値を提示できるブランドだけが、次世代の支持を勝ち取れるだろう。

3. リミナリズムはいかにして現代を象徴する美学となったか

「リミナリズム(Liminalism)」とは、廃墟のショッピングモールや無人のホテルの廊下など、見慣れた日常空間でありながら人の気配が消えた「リミナル・スペース(liminal space)」を被写体にしたインターネット発のアート運動である。その作品は見る者に、ノスタルジーと不気味さ、親しみと異様さが奇妙に同居した孤独感と喪失感をもたらす。現代的な起源は2019年、匿名掲示板4chanに投稿された創作ホラーショートストーリー「The Backrooms」──今年、A24により映画化された──に求められる。黄ばんだ壁と蛍光灯が広がる無限の非空間を描いたこの作品は大きな反響を呼び、さらにコロナ禍の都市封鎖によって人の消えた街並みが現実となったことで、リミナリズムはより切実な共感を獲得した。FacebookやRedditを中心に大規模なコミュニティを形成するこの運動は、AIによる生成画像を明示的に禁じ、あくまで実世界で「発見された写真」にこだわる。ギャラリーや美術館を介さない、草の根から生まれた民主的なアート運動である点も見逃せない。美術史的にはシュルレアリスムのデ・キリコやマグリット、あるいはエドワード・ホッパーが描いた孤独で空虚な風景との連続性が指摘されるが、本質的には現代固有の現象だ。場所の均質化、デジタル孤立、後期資本主義の閉塞感といった現代社会の病理を視覚的に体現し、「内側しかなく、しかしその内側は空っぽ」とでもいうべき感覚──すなわち現代人の孤独と空虚──を最も直截に表現したアートとして位置づけられている。

4. グローバル化が進む中で「ローカル文化」が復権している

デジタル技術やストリーミングプラットフォームの普及は、世界中の人々が同じ音楽・映像・ゲームを楽しむ「モノカルチャー」化をもたらすと考えられてきた。しかし実際には逆の現象が起きている。デンマークでは音楽チャートの大半をデンマーク語楽曲が占めるようになり、スウェーデン、ノルウェー、ブラジル、タイ、ナイジェリアなど世界各地で国内アーティストの存在感が増している。背景には、配信技術によってニッチな市場でも収益化が可能になったこと、ライブ収益や熱心なファンコミュニティの重要性が高まったこと、そしてアルゴリズムがラジオやテレビ以上に個人の嗜好へと人々を深く誘導するようになったことがある。映像分野も同様で、Netflixなどの配信サービスは普遍的な作品よりも地域に根ざした物語のほうが成功しやすいと判断、各国向けローカル作品への投資を拡大してきた。グローバルプラットフォームにおける北米コンテンツの割合は2019年の70%から2025年には36%まで低下し、日本・韓国・スペインなどでは国内作品の視聴比率が顕著に上昇している。SNS上の動画視聴も同様で、ある調査では世界104カ国のYouTubeトレンド動画のうち4分の3が1カ国でしかバズらなかったことが示されており、コンテンツ消費のローカル化はプラットフォームをまたいで一貫した傾向といえる。ゲーム市場でも、スマートフォンの普及を背景に地域の嗜好に合わせた作品が台頭しており、シンガポール発の「Free Fire」は端末性能・決済環境・祝祭文化を各地域向けに最適化することで世界的な支持を得た。中国企業もシェアを拡大しているが、その勝因は中国文化の輸出ではなく現地文化への徹底した適応にある。グローバルな配信基盤はかつてなく広くコンテンツを流通させながら、皮肉にも世界の視聴者が独自の地域的嗜好を主張することを可能にしたのだ。米国の文化的覇権が揺らぐ中、エンタメ産業は「世界に届くにはまず徹底的にローカルであれ」という共通認識を導き出している。

5. Erewhonが売るステータス

1ヶ月で5,000ドル以上使うと、専任コンシェルジュが買い物に付き添ってくれる──ラグジュアリー食料品チェーン「Erewhon」が新たなVIP会員制度を導入した。年間5,000ドル以上の利用者向け「Premier」と、15,000ドル以上が対象の最上位「Reserve」の2つのカテゴリがあり、後者はレジやスムージーの優先サービス、毎日の無料コーヒー&ペストリーに加え、専任コンシェルジュによる買い物サポートなどが受けられる。実際に1ヶ月体験した著者によれば、コンシェルジュサービスはまだ黎明期にあり、店舗によっては著者が「初の利用者」となるほど認知度は低く、内容も執事的な特別待遇というより、商品レコメンドや行列スキップといった「買い物の摩擦を減らす」ものに留まっていた。それでも、体験を通じて、特典の金銭的価値よりも「上位の存在になった」というステータス感こそが真の魅力だという事実が見えてきたと言う。食料品の購入をライフスタイルへと昇華させ、贅沢の天井を際限なく引き上げ続けるErewhonの戦略は鮮やかだ。年間2万5,000ドル以上の利用者に付与されるとも囁かれる非公式の 「Black Card」会員の存在は、その象徴にほかならない。

6. 「最適化」から距離を置く人たち

健康管理アプリやウェアラブル端末の普及により、睡眠スコアや歩数、運動量、食事内容などを細かく記録して自分を磨き続ける「最適化文化(Optimization Culture)」が広がっている。しかしその行き過ぎに疑問を抱き、あえて数値管理から距離を置く人も増えつつある。コンテンツクリエイターのクリシュナスワミは、睡眠スコアを維持するために友人との外出を断るほど数値へ執着するようになり、「最適化のための最適化」に陥っていると気づいて記録をやめた。教育専門家のフラートンは複数のデバイスを同時装着し、瞑想すら記録していたが、「データを集めるだけで何も活用できていない」と悟り使用を中止。栄養コンサルタントのホーストマンも、病気をきっかけに始めた歩数管理がエスカレートし、「自分の体の声より先に歩数計を確認していた」と振り返る。専門家によれば、習慣トラッキングには目標達成を助ける効果がある一方、連続記録の達成感が習慣化の動機となるゲーミフィケーション的な仕組みは、特に不安障害や強迫性障害を持つ人において、執着や強迫行為の引き金になり得る。また、そうした障害がない人においても、健康のための「手段」がいつしか「目的」へと変質しやすいという。デバイスの利用をやめた人々の多くは、運動・睡眠・食事の習慣を維持しながらも、数値ではなく自分の体調や気分を判断の軸に据えるようになったと口をそろえる。健康指標を否定するのでなく、データに支配されない生き方──楽しみや人間関係、心の余裕とのバランス──を取り戻そうとする動きとして、注目を集めている。

7. 派手なネイルアートから素の美しさへ

長年、クロムネイルや3Dデコレーションといった豪華なネイルアートがステータスや自己表現の象徴とされ、美しさを求める一部の女性にとって、数週間ごとに何時間もサロンに通うことは当たり前だった。しかし近年、ファッション界やSNSでは短く整えられた爪や透明感のある仕上げ、あるいは何も塗らない「ネイキッドネイル(naked nails)」や「ノーニキュア(nonicure)」と呼ばれる素爪(bare nails)トレンドが急速に広まっている。背景には、物価高によるサロン通いの負担増に加え、ジェルネイルの繰り返しによる爪へのダメージやUV照射への健康上の懸念があり、目立つ自己演出よりも控えめで自然な美しさを評価する価値観の変化もこの流れを後押しする。ロゴを誇示しないQuiet Luxuryや、素肌感を重視するスキンケア中心の美容トレンドとも共鳴するこの動きは、サロンにおける「ジャパニーズマニキュア」の台頭にも表れている。ポリッシュやジェルを使わず、ミネラル成分で爪本来の状態を整えるこの施術は、爪の「変身」より「修復」を求める需要の高まりを映すものだ。さらに注目すべきは、素爪が単なる「何もしない」選択ではなく、新たなステータスシンボルになりつつある点である。あるトレンドが大衆化すると上位層はあえてそれを手放す「カウンターシグナリング」として捉えられており、かつて派手なネイルが富や洗練の証だったように、今は「何もしていない健康的な爪」こそが手間暇をかけた自己管理の証明となりつつある──いわば新たなステータスシンボルだ。ネイルの変化は、派手な自己演出から洗練された自然体へと向かう、より大きな文化的価値観の転換を映し出している。

8. ハリウッドの若手スターが声で演じる音声ポルノ

女性向け音声ポルノアプリ「Quinn」が、人気TVドラマの俳優を起用する戦略で注目を集めている。2019年にキャロライン・シュピーゲルが創設したQuinnは、音声による官能コンテンツを提供するサービスで、近年はジェシー・ウィリアムズやアンドリュー・スコットといった著名俳優との提携を進めてきた。2026年にはHBO Maxの大ヒットドラマ『Heated Rivalry(ヒーテッド・ライバルリー)』や、Amazonの人気作『Off Campus(オフキャンパス)』の出演俳優を相次いで起用し、ドラマのファンベースをそのままプラットフォームへ取り込む狙いだ。この戦略が機能する背景には、いくつかの要因が重なっている。まず、性的描写を含むドラマと官能音声コンテンツの間にはテーマ的な親和性があり、起用された俳優の熱狂的なファンコミュニティを自然な形で呼び込みやすい。加えて、ハリウッドでは制作案件そのものが減少し、俳優たちは収入源の多様化を迫られている。オスカー受賞経験のあるA級俳優までがクレジットカードや旅行サイトのCMに出演するようになった現在、新人俳優が低予算コンテンツに参入することも珍しくなくなった。Quinnはこうした業界の構造変化の波に乗る形で存在感を増している。性的話題に奥手というイメージを持たれがちなZ世代だが、実際には性的描写を含むドラマに熱狂的なファンダムを形成してきた経緯がある。Quinnはこの一見矛盾した実態を巧みに捉え、オーディオエロティカをニッチな存在からメインストリームへと押し上げようとしている。

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