Baa,Baa,Baa. | Week of Mar 23, 2026

【Weekly Picks】パリのレストランシーンを支配するLVMH

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネス、そしてデザインやライフスタイル、ファッションやメディア──日々、私たちの周りでは何が起きていて、それは一体どんな意味を持つのでしょうか。

The Rest Is Sheepの2人が刺激を受けたストーリーを、私たちならではの視点を交えてお届けします。

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Weekly Headlines

  1. パリのレストランシーンを支配するLVMH

  2. オープンキッチンが変えるレストランの景色

  3. 米国のコーヒー価格が記録的なペースで上昇している

  4. Patagoniaが大人気のサバ缶を別商品に切り替えた理由

  5. アーバンファーミングは地球にとって悪影響なのか

  6. 恋愛のサブスク化

  7. 「Smut Renaissance」の時代

  8. 美容整形の「Undo」ブーム

  9. アルゴリズムに抗う音楽発見

1. パリのレストランシーンを支配するLVMH

ここ数年、LVMHがパリのレストランシーンにおける存在感を急速に高めている。その転機となったのは、2021年に開業した高級ホテル「Cheval Blanc Paris」で、ホテル空間のラグジュアリーさ以上に、そこで提供される「食」──とりわけ三つ星レストラン「Plénitude」の成功──が批評家や顧客を強く惹きつけたことが戦略転換のきっかけとなった。以降、LVMHはミシュラン星付きシェフを起用した日本料理店「Hakuba」の開業や、100年の歴史を持つ老舗ビストロ「Chez L’Ami Louis」の買収などを通じ、わずか5年余りでパリ屈指のレストランオペレーターへと台頭した。特徴的なのは、才能あるシェフに創造の自由を委ねつつ、歴史的名店を継承し、ブランドと結びついた飲食体験を展開する戦略だ。その背景には、ファッション部門の成長鈍化と、グループ全体における、体験価値を核とするホスピタリティ事業の重要性の増加があり、LVMHは今や、食を通じて「驚きと感動に満ちた非日常」を提供する存在へと変貌しつつある。シャンゼリゼ通りのLouis Vuitton新店舗が完成すればさらなる話題のレストランが誕生すると期待されており、LVMHのパリ美食界における影響力は今後も拡大しそうだ。

2. オープンキッチンが変えるレストランの景色

近年、アメリカのレストラン業界ではオープンキッチンが急速に広がっている。ニューヨーク・タイムズの「2025年ベストレストラン」に選ばれた4店舗がすべてこの形式を採用していることからも、この潮流は一過性のものではない。起点の一つとされるのが、2004年にデイヴィッド・チャンが手がけたMomofukuだ。日本の割烹や懐石に見られる対面型カウンターを現代的に再解釈した点が、その特徴として挙げられる。さらにSNSによるシェフのアイドル化や、ドラマ『The Bear』のヒットによって、料理人の仕事そのものが鑑賞の対象となった。いまや客は料理を味わうだけでなく、その過程や所作を「覗き見る」ことに価値を見出している。こうした欲望に応えるように、オープンキッチンでは客と料理人の距離が極端に近づいた。客は調理のライブ感を楽しみ、料理人はその反応を即座に受け取る。だがその一体感は、料理人に常に見られる緊張感と、接客や清掃といった役割の拡張も同時に要求する。また、フロントとバックの境界は曖昧になりつつあるなかで、賃金構造は旧来のままだ。チップ文化のもとで接客スタッフに偏る報酬体系は維持され、料理人が接客を担っても収入に反映されないケースが多い。可視化された労働と評価の乖離──オープンキッチンは、食の体験を更新すると同時に、飲食業界に内在する構造的な不均衡を浮かび上がらせている。

3. 米国のコーヒー価格が記録的なペースで上昇している

米国のコーヒー消費者価格は2026年2月、1ポンドあたり9.459ドルと過去最高を記録し、前年比31%増という大幅な上昇となった。一方で、コモディティ市場では先物価格が今年に入り約17%下落している。ただし、その恩恵が消費者に届くまでには時間を要する。背景にあるのは、過去の供給ショックと政策要因だ。2024年のブラジルやベトナムでの不作に加え、関税措置がコストを押し上げ、高値で仕入れた在庫がいまだ流通に残っている。コーヒーは契約から店頭に並ぶまで半年以上を要するため、価格下落が反映されるのは2027年初頭以降と見られる。消費者は自宅での節約志向を強めつつも、カフェでのラテなどは「ご褒美」として維持しており、需要自体は底堅い。さらに生産者側も価格下落を見越して出荷を抑制しているため値下げ余地は限定的だ。コーヒーは牛肉と並び、インフレの影響が根強く残る品目となっている。

4. Patagoniaが大人気のサバ缶を別商品に切り替えた理由

Patagoniaの食品部門「Patagonia Provisions」は、看板商品であるサバ缶の原材料を切り替えた。背景には、気候変動による海洋環境の変化と、同社の厳格な持続可能性基準がある。かつてフランスやスペイン沖で獲れるタイセイヨウサバは持続可能な資源の象徴だったが、海水温上昇に伴う生息域の北上により各国の漁獲競争が激化し、いわゆる「サバ戦争」が発生。結果として乱獲が進み、科学的指針を大きく上回る漁獲が続いたことで、環境に優しい方法で取った魚介類であることを示すMSC認証も停止された。そこで同社が代替として選んだのが、南太平洋・チリ沖で漁獲されるチリマアジ(Jack Mackerel)である。同魚種は1990年代に資源が枯渇したものの、その後の厳格な管理により回復し、2019年にMSC認証を取得した。Patagoniaは約6か月間の販売機会損失という負担を受け入れつつ新製品を開発し、従来に近い風味と食感を実現したスモーク缶として世に送り出した。気候変動が魚の分布と資源管理を揺るがす中、この判断は持続可能性が固定的なものではないこと、そして企業に調達の柔軟性が求められている現実を示している。

5. アーバンファーミングは地球にとって悪影響なのか

2024年3月、ミシガン大学の研究チームが学術誌『Nature Cities』に発表した論文が注目を集めた。フランスやドイツ、英国など5か国・73の都市農業サイトを分析した結果、ローテク型のアーバンファーミングは、従来農業に比べて最大で6倍程度の温室効果ガスを排出する可能性が示された。主な要因はインフラにある。都市農園は短期間で転用されることが多く、建設や撤去に伴う設備コストが収穫量に対して割高になるうえ、小規模ゆえに資源効率も劣りやすい。ただし、この研究は都市農業を否定するものではない。農園の長期運用や堆肥の活用、廃材の再利用によって排出量は大きく削減可能であり、空輸に依存する作物では従来農業との差が縮まる場合もある。さらに都市農業は、食料供給のレジリエンス向上に加え、生物多様性の保全や教育、コミュニティ形成といった多面的な価値を持つ。排出量という課題を踏まえつつ、循環型の仕組みを取り入れることで、その可能性は持続可能な都市づくりへと接続されていく。

6. 恋愛のサブスク化

かつてTinderやBumbleといったマッチングアプリは、誰もが無料、あるいは低コストで無限に出会える仕組みで「黄金時代」を謳歌した。しかし、パンデミックを境に状況は一変し、理想の相手に出会うには対価を支払うことが前提となりつつある。背景にあるのは、IT企業の成長を支えてきた低金利環境の終焉だ。資金調達が難しくなった運営会社は、サブスクリプション価格の値上げや機能の細分化、有料フィルターの導入などを通じて収益化を加速させ、主要アプリの料金はこの数年で大きく上昇した。2023年には、課金ユーザーの平均支出は月18〜19ドルに達した。一方で、対面の出会いの機会が減少した現代において、アプリはもはや独身者にとって不可欠なインフラとなった。ユーザーはアルゴリズムを攻略しようと試行錯誤を重ねるが、より良いマッチングを求めて課金に踏み切るケースも少なくない。結果として、体験の質の低下と収益策の強化が相互に進む「負のループ(doom loop)」が生まれている。こうした状況は、恋愛さえもサブスクリプション化される時代の到来を示している。専門家は、アルゴリズムや価格設計の透明化、意図的なマッチング制限の規制の必要性を指摘する。出会いという根源的な欲求が企業の収益構造によって左右される現実が、いま静かに広がっている。

7. 「Smut Renaissance」の時代

現代のエンターテインメント界では、テレビや映画、小説、さらにはAIやSNSを通じて、かつてないほどパーソナライズされたエロティック・コンテンツが溢れる「Smut Renaissance」が起きている。ゲイであることを隠して活躍するプロホッケー選手の葛藤とロマンスを描く『Heated Rivalry』のヒットや、音声ポルノ、ロマンタジー小説の隆盛の背景には、現実世界における性交渉や親密な関係の減少がある。人々は孤独のなかで、単なる刺激ではなく「渇望(longing)」の感情を強く求めるようになった。とりわけ異性愛女性のあいだでは、現実の男性では満たされない欲望が、クィア化された男性像や架空の存在へと投影される傾向が見られる。また、AIやOnlyFansによって欲望は個別最適化され、その充足はリアルな関係から切り離されつつある。加えて、かつては私的だったこうした消費も、いまやSNS上で共有され、共感や連帯を生んでいる。結果として、性は「経験するもの」から「消費し語るもの」へと変質しつつあり、私たちは画面上の情熱を追いかけながら、現実の関係から距離を取るという逆説の中に生きているのだ。

8. 美容整形の「Undo」ブーム

美容整形の「取り消し(アンドゥ/Undo)」トレンドが広がっている。過去10年に主流だったフィラーや豊胸などの「ボリューム重視」の美意識が後退し、唇や頬への注入、豊胸インプラントといった「盛り」系施術を元に戻す動きが勢いを増している。ヴィクトリア・ベッカムの豊胸インプラント除去や、カイリー・ジェンナー、コートニー・コックスによるフィラー溶解の公表も、その流れを後押しした。しかし、こうした「取り消し」は容易ではない。フィラーを溶かせば皮膚はたるんで「しぼんだ風船」のような状態になり、引き締めの追加施術が必要になる場合も多い。加えて、除去後に老化が顕在化し、結局フェイスリフト手術を受けるといった例も少なくない。豊胸施術の再小型化や除去も進むが、減量薬の普及による急激な体重減少と相まって、不自然な体型を招くリスクも指摘される。中でもBBL(ブラジリアンバットリフト)は修正が難しく、神経損傷などの深刻なリスクを伴う。美容医療は決して可逆的ではない──その前提が、いま改めて突きつけられている。

9. アルゴリズムに抗う音楽発見

ストリーミングの普及によって、音楽は「いつでも・どこでも・無限に」アクセスできる存在になった。しかしその一方で、新しい音楽との出会いは、かえって難しくなっている。かつてはラジオやレコード店、MTVなどが「ゲートキーパー」として機能していた。そこでの出会いは、偶然か、あるいは誰かの審美眼によるものだった。制約はあったが、その分だけ「驚き」や「未知に触れる体験」があった。こうした役割は、いまやアルゴリズムへと引き継がれている。ユーザーの好みを学習し、似た楽曲を次々と提示するその仕組みは、一見すると合理的で便利だ。だが同時に、同じジャンルやムードに収束していくフィードバックループを生み出しやすい。その結果、音楽体験は未知へと開かれた「窓」ではなく、自分の好みをなぞる「鏡」に近づいていく。そこで提案されるのが、あえてアルゴリズムに抗い、「摩擦」や「偶然性」を取り戻すという態度だ。いくつかの具体的な手段も紹介されている。「The Lot Radio」はニューヨーク発のインディペンデントラジオで、DJが自由に選曲するライブ配信が特徴だ。ジャンルを横断する予測不能な流れは、ふとパーティに迷い込んだような感覚をもたらす。「Radio Garden」は地球儀を回しながら世界中のラジオ局にアクセスできるサービスで、場所ごとの文化や音楽にランダムに触れられる。「Radiooooo」は国と年代を掛け合わせて音楽を探すことができ、「weird」といったフィルターによって予測外の出会いを促す。「NTS Radio」はアーティストやDJによる番組を通じて、人間の視点に基づくキュレーションを提供し、ジャンルを越えた音楽体験を可能にする。そしてBrian Enoによるアプリ「Bloom」は、音を生成しながら空間として音楽を味わう、新しい関わり方を提示する。これらに共通するのは、完璧に最適化された推薦ではなく、不完全で予測不能な体験に価値を見出す点だ。ストリーミングの利便性そのものが否定されているわけではない。しかしそれに依存しすぎると、体験は次第に均質化していく。本来、発見とは予測できないものに出会うことだ。そこには、すぐには理解できないものや、好みではないものに触れる「余白」が必要になる。音楽は、自分を確認するための「鏡」ではなく、未知の世界へとつながる「窓」であるべきだ。その窓を再び開くためには、アルゴリズムの外へ踏み出し、偶然を受け入れる姿勢が求められている。

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