#092_Sheep スーパーファン・エコノミー

テイラー・スウィフトのライブを追いかけて世界を飛び回る人々。推しのために何十枚ものアルバムを買い込むK-POPファン。そして、その熱量に乗ろうとするファッションブランドたち。いま「スーパーファン・エコノミー」が、一つの巨大な経済圏を形成しつつある。いつの時代にも存在した熱狂的なファンと、現代のスーパーファン現象は何が違うのか。テクノロジーが「場」を広げ、同時に孤独と断片化を加速させた逆説の中で、ファンダムはなぜ「意味のある共同体」として機能し始めたのか。スーパーファンを取り込もうとするブランドが直面する「ファンダム・リテラシー」の壁、熱狂が毒に変わるメカニズム、そしてAI時代に人間の熱量が希少になる逆説まで、スーパーファン・エコノミーの深層を読み解く。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。

役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。

そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。

🔍 Sheepcore

カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。

スーパーファン・エコノミー

©︎The Rest Is Sheep

はい、それでは本日も始めていきましょう。

さて、ワールドカップが盛り上がっているこの頃ですが、皆さん、「推し」ってありますか?アーティストでも、アイドルでも、スポーツチームでも、選手でも構いません。

「推し」という言葉は、いまやすっかり日常語になりました。もともとはアイドルファンのあいだで使われることが多かった言葉ですが、今ではスポーツ、アニメ、ゲームはもちろん、動物園の動物にまで「推し」がいる時代です(笑)。

考えてみると、私たちは何かを「好き」と言うだけでは物足りなくなっています。「応援したい」「誰かに勧めたい」「その世界の一員でありたい」──そんな感情まで含めて、「推し」という言葉が使われるようになった。

もちろん、何かに熱狂すること自体は今に始まった話ではありません。

昔もアーティストのファンといえば、自室の壁にポスターを貼って、ライナーノーツを読みながら何度もCDを聴いて、週末にはライブ会場へ足を運ぶ。今から見ると、どこか牧歌的な楽しみ方ですよね(笑)。基本の構図は「スターが作品を届け、ファンがそれを受け取る」。かなり一方向の関係でした。

でも今、その関係性は根本から変わっています。

今日の講義のポイントの一つを先に言ってしまうと、推し活が、個人の趣味を超えて、産業やブランド戦略を動かす経済現象になっている、ということです。

わかりやすい例を挙げましょう。テイラー・スウィフトの「Eras Tour」です。開催地ではホテルや航空券の価格が高騰し、各国の政治家が自国での公演開催を呼びかけるほどの経済効果を生み出しました。しかも、このツアーのおもしろさは経済効果だけではありません。ファンたちは会場の内外やSNS上で、フレンドシップ・ブレスレットを交換し、衣装を工夫し、セットリストを予想し合い、ツアーそのものの文化を自分たちで育てていった。つまり彼女たちは、ただの「観客」ではなかったわけです。ツアーという現象の一部を、一緒につくっていたんですね。

パリやミラノのファッションウィークでも、よく似たことが起きています。いまショー会場の外では、PradaやDior、Louis Vuittonなどのブランドアンバサダーを務めるK-POPアイドルをひと目見ようと、世界中から集まったファンが何重もの人垣をつくる。多くの人が見ているのは、ランウェイそのものではなく、そこに現れる「推し」です(笑)。

Vogue Business

ブランドはアイドルを招き、アイドルはファンを呼び、ファンが集まることでブランドの存在感が増幅する。服を見せる場だったファッションショーが、巨大なファンダムの交差点にもなっているわけです。

こうした現象を捉える言葉として、英語圏では近年「Superfan(スーパーファン)」という概念が急速に広まっています。ただ、誤解してほしくないのは、これは昔から存在した熱烈なファンをカッコよく言い換えただけの話ではない、ということです。

※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕

スーパーファンとは何か

では、スーパーファンとは具体的に何を指すのでしょうか。

音楽の文脈でざっくり言えば、「よく聴いて、よく使う人たち」なんですが、それだけだと雑すぎますよね(笑)。音楽データ・分析プラットフォームLuminateによる定義を紹介しておきましょう。

Luminateは、アーティストやそのコンテンツに対して複数の仕方で積極的に関わる人をスーパーファンと捉えています。具体的には、以下の13の関わり方のうち5つ以上に該当する人を「スーパーファン」と定義しています。

  1. リアルなライブやコンサートに参加する

  2. そのアーティストについて家族や友人と話す

  3. オンライン配信のライブイベントに参加する

  4. レコードやCDなどのフィジカル音源を購入する

  5. Tシャツなどのグッズ(物販)を購入する

  6. 楽曲やアルバムなどのデジタル音源を購入する

  7. SNSでアーティストについて投稿する

  8. DiscordやRedditなどのコミュニティやフォーラムでアーティストと交流する、または関連する会話に参加する

  9. アーティストのメールマガジンやニュースレターに登録する

  10. ファンクラブやファンコミュニティに加入する

  11. 投げ銭などの形でアーティストを直接支援する(対面・オンラインを問わない)

  12. バーチャルグッズを購入する

  13. Venmo、Cash App、Patreonなどを通じてアーティストへ直接資金提供を行う

ここで注目したいのは、この定義が「どれだけ聴いたか」だけではなく、どれだけ多様な形で関わったかを見ていることです。つまり、軸にあるのは単なる再生回数ではなく、参加の深さと広がりなんですね。

かつてのファンが主に「受け手」だったとすれば、スーパーファンはもっと能動的です。広める、支える、語る、集まる、買う、参加する。そうやって、アーティストを取り巻く物語やコミュニティそのものを動かしていく。言い換えれば、スーパーファンは消費者であると同時に、媒介者でもあり、増幅装置でもあるわけです。

Luminateによれば、米国の音楽リスナーのうち約20%がこのスーパーファンに該当します。

Luminate

割合としては少数派に見えるかもしれませんが、業界への影響はかなり大きい。Goldman Sachsは、スーパーファン向けの施策を適切に設計できれば、音楽市場の収益が2026年ベースで年間43億ドル押し上がる可能性があると試算。Bernsteinのアナリスト、イアン・ムーアも、スーパーファンは価格上昇や景気後退の影響を受けにくく、「推し」のためなら支出を惜しまないため、今後の音楽ビジネスの競争力を左右すると指摘しています。

つまり、「薄く」てもより多くの人に届くことではなく、少数でも「深く」関わる人たちをどう育てるかが、音楽ビジネスにおいてより重要になってきてるわけです。

そして、このスーパーファン現象を語るときに避けて通れないのが、やはりK-POPですよね。BTS、BLACKPINK、Stray Kids、ENHYPEN……。彼らのファンは、ただ楽曲を聴くだけではありません。チャートを押し上げるために組織的に動き、SNSでは多言語で情報を翻訳・拡散し、ファンアカウントを運営し、コミュニティそのものを支えています。

そしてさらに言えば、K-POPが世界に輸出したのは音楽だけではなく、「ファンダムの作り方」そのものでした。

Vogue Business

かつて韓国のアイドル文化に特有のものとして見られていた応援の作法やコミュニティ運営の手法は、今では欧米のアーティストにも、さらにはスポーツにも広がっています。近年ではF1までもが「K-popification(K-pop化)」によってその熱狂を高めていると議論されています。

現代のスーパーファンとは「たくさん消費する人」ではなく、コンテンツを中心に人をつなぎ、物語を育て、コミュニティを動かす人たちなんです。

ブランドとスーパーファン、そして「ファンダム・リテラシー」

そして、これほど巨大な熱源が存在するとなれば、音楽やエンタメ業界以外の企業も黙ってはいません。ファッションや消費財のブランドも、スーパーファンのエネルギーを自社のビジネスにどう取り込むかを本気で考え始めています。

まずGAPの事例を見てみましょう。GAPはデニムコレクション「Better in Denim」のプロモーションで、ガールズグループKatseyeを起用しました。

Instagram Post

ポイントは、単に「広告キャンペーンに人気グループを使った」という話ではないことです。音楽とダンスを軸にKatseyeのファンであれば見たくなる、真似したくなる、広めたくなる体験を設計し、撮影の舞台裏コンテンツや限定企画によってコミュニティとの関係を丁寧に育てた。結果として動画の総再生数は全プラットフォームで5億回を超え、デニムカテゴリーの売上は二桁成長、既存店売上は前年比7%増という具体的な成果につながりました。

@gap

A masterclass — in surprise.   @KATSEYE joins our high-energy room of dancers and EYEKONS at @Broadway Dance Center NYC.   #BetterinDenim

ラグジュアリー領域でも、同じような動きがあります。Acne Studiosは、スウェーデンのアーティスト、Robynと長期的なパートナーシップを結んでいます。2025年にはSpotifyと協力してロサンゼルスで復帰コンサートを開催。最新アルバム『Sexistential』の展開では新曲を2026年春夏コレクションのランウェイで先行披露し、キャンペーンビジュアルにも起用、アルバム発売後の限定ライブも企画しました。ブランドは、ファンにとって意味のある場をつくろうとしてるんですね。

Instagram Post

これらの事例で問われているのは、「ファンダム・リテラシー(Fandom literacy)」です。

スーパーファンのコミュニティには、外部の人間にはすぐに理解できない独自の言葉遣い(Lexicon)や、アーティストの歴史に根ざした内輪の文脈(Lore)が積み重なっています。ブランドが成功するためには、こうした文脈を理解したうえで、ファンの「場」を奪うのではなく、その体験を豊かにする「ファシリテーター」として振る舞うことが求められます。

マクドナルドがアニメファンに向けて展開した「WcDonald’s」は、その好例です。単なるパッケージの模倣ではなく、スタジオぴえろと組んで、正式なアニメ短編まで制作した。要するに、「アニメっぽく見せた」のではなく、アニメファンが大事にしている文法に、ちゃんと敬意を払ったわけです。

Instagram Reel

逆に、表面的な便乗や安易な熱量の搾取は、すぐに見抜かれます。現代のスーパーファンは極めてリテラシーが高く、ブランドが本当にその文化を理解しているのか、それとも熱量だけを借りに来たのかを、かなり鋭く見ています。だから、雑な入り方をすると、一気に反発を招く。

BTSを輩出した韓国のエンターテイメント企業HYBEの幹部が「私たちは一発コラボを避ける傾向にある。アーティストとファンダムに向き合うには膨大な思慮と計画が必要で、長期的な関係を築くことが大切なんです」と話していましたが、まさにその通りです。スーパーファン・エコノミーへの参入は、短距離走ではありません。時間をかけて信用を積み上げる、かなり地道な営みなんです。

なぜ私たちは「スーパーファン」になるのか

ここで少し立ち止まって、もう少し根本的な問いを立ててみましょう。

「推しに時間とお金を捧げる」という行動自体は、今に始まった話ではありません。ビートルズの来日公演に熱狂した人々も、宝塚の公演を何十回と観に通った人々も、阪神タイガースのために泣いた人々も、みんな「スーパーファン」だったわけです。では、現代のスーパーファン現象は何が違うのでしょうか。

一つは、スケールと可視性です。かつてのファンの熱量は、基本的にその人の生活圏の中で完結していました。ライブの感動は友人に話すか、せいぜいファン雑誌への投稿で終わりだった。でも今は、Xで感想を書けば世界中の同志に届き、TikTokでダンスを踊れば数百万人の目に触れる。そしてもう一つが、コミュニティの密度です。かつては同じ趣味に同じような熱量で向き合う人たちと出会うこと自体が難しかったけれど、今はDiscordを開けば深夜でも世界中のファンとリアルタイムで語り合え、Weverseではアーティスト本人からメッセージが届くこともある。距離という制約が消えたことで、ファンコミュニティは以前とは比較にならない密度と速度で動いています。

ただ、「だからスーパーファンが増えた」とまとめるのは少し乱暴です。テクノロジーはあくまで「増幅器」であって、根っこにある欲求──何かを愛したい、誰かとつながりたい、自分が何者であるかを表現したい──は、ずっと昔から変わっていません。

Ian Brown(Financial Times)

では、現代という文脈は、何を付け加えたのでしょうか。

いま、SNSを開けば、PR投稿と広告と、生成AIが量産した無個性なコンテンツ、いわゆる「AI Slop」がフィードを埋め尽くしています。便利ではあるけれど、どこか均質で、どこか薄っぺらい。つながっているはずなのに本物のつながりは感じられない。

イノベーションリサーチファーム Stylusのアニー・コーサーはこう言っています。「AIが大量生産したコンテンツがあふれる時代において、オンライン空間で最も人間らしく生き生きとした場所は、往々にしてスーパーファンたちの活動によって支えられている」と。大量の自動生成コンテンツが溢れるからこそ、人間が人間に向ける純粋な熱量は「本物らしさ」を増す。推しのライブで隣の知らない人と肩を組んで歌詞を叫ぶ瞬間の高揚感は、アルゴリズムには生成できません。

Kearney Consumer Instituteの調査では、何らかのファンダムに所属している人の80%が「ファンダムは喜びと興奮をもたらしてくれる」と答え、52%が「他者と共有できるもの」、42%が「帰属意識を与えてくれる」と回答しています。テイラー・スウィフトの「Eras Tour」に16回参加し、チケットやグッズに100万円以上を費やしたあるスウィフティーはこう語っています。「ファンダムは、私が私らしくいられる場所。世界のネガティブなことに気を取られなくなるから、悩みが吹き飛ぶんです」と。

Billie Eilish concert(Vogue Business)

帰属、意味、安心できる居場所──以前、ニューヨークの若者たちが教会に戻り始めているという現象についてお話しました。ランニングクラブサウナブッククラブデジタルデトックス……人びとは、いろいろな場所で「意味のある共同体」を探しています。スーパーファンダムも、その文脈に置いてみると、非常によく似た輪郭をしていますよね。共通の言語を持ち、繰り返される儀式があり、仲間と共に何か大きなものを信じる。行為は全然違うけれど、満たそうとしている欲求は近い。

ただ、スーパーファンダムには現代ならではの特徴があります。「参加のハードル」と「貢献の可視性」が劇的に変わったことです。かつての地域コミュニティや教会は、物理的な場所と時間を共有することで成立していました。でも現代のファンダムは、深夜に一人でスマホを触りながらでも参加できる。自分の投稿が数千のリアクションを得れば、貢献がリアルタイムで「見える」。この即時性と可視性が、参加体験をより強く、より中毒的にしています。

「なぜスーパーファンになるのか」への答えを一言でまとめるなら──人間はずっとそうだったから、です。ただ今は、その欲求が向かう「場」が、テクノロジーによって劇的に変わったのです。

熱狂の副作用

ここまで、スーパーファン現象の盛り上がりを見てきました。でも、光があれば影もある。強烈な帰属意識は、時に「Toxic Fandom(トキシック・ファンダム)」という深刻な副作用を引き起こします。

SNSのアルゴリズムは、速さと過激さに報酬を与えます。「いいね」やコメント、リポストが可視化され、推しを守る行動がゲームのように最適化されていく。その結果、ファンは「応援する人」から「推しを守るポリス」へと変わり、わずかな批判も許さず、異論を唱える人を集団で攻撃することさえある。ドキシング(個人情報の暴露・拡散)やヘキシング(相手に「呪い」をかけるように集団で悪意を浴びせるネット上の嫌がらせ)、誹謗中傷が「愛ゆえの正義」として正当化され、「ここまでやってこそ本物のファンだ」という同調圧力まで生まれてくる。

重要なのは、ファンが急に邪悪になったという話ではない、ということです。怒りや純粋さの表明ほど拡散されやすい環境では、過剰な防衛が構造的に強化される。熱狂そのものより、熱狂が走るプラットフォームの設計が、暴走を後押ししているわけです。

当然、この暴走はアーティスト自身をも疲弊させます。Chappell Roanはプライベートに踏み込んでくる過激なファンの行動を公然と叱責し、改善されなければ音楽活動を辞めると言わざるを得なくなりました。Charli XCXのライブでは一部のファンが「Taylor Swift is dead」と連呼し、Charliの成功をスウィフトとの対立構図で称えようとした。これに対してCharli XCX本人が「私はこうした行為を容認しない」とSNSで明確に表明しています。愛されているはずの人が、ファンによって安心して生きられなくなる。スーパーファン現象が抱える、かなり深い矛盾です。

@charli_xcx (Marie Claire)

そしてもう一つ、ブランドが直面する問題があります。ボットです。

一部のファンダムはアーティストのエンゲージメントを操作するために大量のボットを動員します。2025年に科学誌『Nature』に掲載された論文では、世界的なイベントに関するオンラインの会話の最大20%がボットによって生成されていることが明らかになりました。数字の上では「爆発的な盛り上がり」でも、その相当部分が本物の人間の熱量ではない可能性がある。

だからこそ、SNSのエンゲージメントが爆発しても実売にはほとんどつながらない、ということが起こります。ロンドンのファッションブランドPeachy Denの創業者が率直に語っているのですが、あるアーティストとのコラボではSNSの反応が凄まじかったものの、売上は、小規模ながらもブランドを長年愛用しているインフルエンサーとのコラボのほうがはるかに高かったと。数字と財布の動きは、必ずしも一致しない。

The Future LaboratoryのアナリストRoz Coffeyはこう言っています。「ブランドはメディアインパクトを、長期的な親和性と混同してはいけない。スーパーファンダムは強力な加速装置にはなれる。でもその可視性を、プロダクトの関連性、ナラティブの一貫性、コミュニティとの接点、感情的な意味へと変換できなければ、効果は表面的なままで終わる」と。

熱量の大きさとリスクの大きさは、いつもセットなんですね。

スーパーファン・エコノミーの向こう側

最後に、少し引いて見てみましょう。

Deloitteが2025年末から2026年初頭にかけて実施した「Digital Media Trends」調査では、音楽、スポーツ、映画・テレビ、ゲームなど、少なくとも一つのカテゴリーで「自分はファンだ」と自認する人は全体の約80%にのぼります。ファンはそうでない人に比べてサブスクリプションへの支出が27%多く、エンターテインメントに費やす時間も1日あたり51分長い。

そして特に興味深かったのは、ファンの約半数が「学生、就職、結婚、子育てとライフステージが変わっても、ファンとして費やす時間やお金は大きく変わらない」と答えていたことです。つまりファンダムは、若い時代の一時的な熱狂ではなく、その人の人生の一部として根を張る存在になっているわけです。

そして、この傾向は、生成AI時代に入ってむしろ強まる可能性があります。コンテンツが大量に、安く、いくらでもつくられる世界では、人間が人間に向ける熱量そのものが希少になる。誰が作っても似たようなものが増えるほど、「この人だから追いかけたい」「この場だから参加したい」という感覚が、ますます価値を持つようになるわけです。

もちろん、今日見てきたように、熱量は簡単に排他性へと転じます。数字の大きさは本物の支持を保証しない。だからこそ、ブランドにも、プラットフォームにも、そして私たち自身にも、「熱狂」とどう向き合うかというリテラシーが問われます。

Lady Gaga(Financial Times)

スーパーファン・エコノミーという言葉はいかにもビジネス書的な響きがあります。でも、その中心にあるのは、経済ではありません。好きなものを好きでいたい。誰かと同じものを愛し、その喜びを分かち合いたい。そして、その熱量を通じて「自分はここにいていい」と感じたい。とても原始的で、とても人間らしい欲求です。

テクノロジーが変えたのは、その欲求そのものではありません。その欲求が向かう「場」を、かつてないほど広く、深く、速くしたことです。もちろん皮肉なことに、そのテクノロジーには、地理や時間の制約を取り払い、人々を既存の共同体から切り離すことで、「どこにでもつながれるのに、どこにも属せない」という現代特有の感覚を生み出してきた側面もあるわけです。

共通の言語を持ち、儀式を共有し、何か大きなものを一緒に信じる──テクノロジーが奪ったものを、テクノロジーが生んだ新しい形の共同体が補っている。現代のスーパーファン・エコノミーという巨大な経済圏は、その逆説的な構造の上に成り立っています。

スーパーファン・エコノミーとは、「熱狂がお金を生む経済」のことではなく、人間が「意味のある何か」を求め続けているという、変わらない事実のことです。AIによってコンテンツがあふれる時代だからこそ、人間同士が本気で熱狂し、誰かと何かを共有できる場所の価値は、これからも上がり続けるでしょう。

今日はここまで。ありがとうございました!

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. エンターテインメント産業の命運を握るスーパーファン

バーンスタインのアナリスト、イアン・ムーア氏は、エンタメ産業の次の成長フェーズでは「スーパーファン」の獲得・収益化が鍵を握ると指摘する。スーパーファンとは高所得で価格上昇に鈍感、景気後退期でも支出が安定した熱狂的なファン層を指す。Live NationはTicketmasterの販売拡大や規制リスクの軽微さを理由にトップ推奨銘柄とされ、Spotifyはスーパーファン向け上位サブスクの導入が粗利率40%超への道筋を開く成長触媒として高く評価されている。スーパーファン主導の成長は今後3〜5年にわたり持続すると見込まれる。

2. ファッションショー会場外の熱狂

近年、ファッションウィークではK-POPスターなどを目当てに会場に集まる大勢のファンが混乱を招く一方で、ブランドにとっては大きな宣伝効果を生み出している。こうしたスターはメディア露出やSNSで高い影響力(MIV)を発揮し、アジア市場だけでなく世界中のファンをブランドへ引き寄せる存在となっている。現地スターをアンバサダーに起用することは、親近感やナショナルプライドを喚起し、新興の富裕層や若年層との接点づくりにもつながるため、長期的な顧客獲得戦略として有効とされる。一方で、ファン熱狂がブランドの世界観を損なったり、起用方法が画一化したりするリスクもあり、ブランド価値を守るには、多様なアンバサダーの活用や文化的背景を踏まえた本物志向のパートナーシップが重要だ。

3. ファンの力がポップカルチャーを変えつつある

ソーシャルメディアの普及により、ファンとアーティストの距離はかつてなく縮まり、巨大な「ファンダム」が世論や市場を左右する力を持つようになった。その反面、熱狂が過激化し、批判的な意見への個人攻撃や、アーティストの私生活への過剰な干渉を行う「トキシック(有害な)・ファンダム」が深刻な問題となっている。SNSのアルゴリズムや承認欲求が極端な行動を加速させており、アーティスト自身がファンの暴走を直接戒める事態に発展することも。一方で、音楽業界はこうした熱心な層を「スーパーファン」と位置づけ、巨大な収益源として期待を寄せる。現代版ファンクラブとも言える専用のエンゲージメント・プラットフォームも登場し、ファンとの直接的な交流を通じて詳細なデータ収集と収益化を図る動きが活発化している。今後のファンダムは、単なる熱狂的なコミュニティの枠を超え、より効率的に管理された経済システムへと組み込まれていくだろう。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

今週もお休みです 🐏

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