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#056_Sheep 走るランウェイ
世界的なランニングブームの裏側で、何が起きているのか。ニューヨークではレース枠が「貴重な資源」と呼ばれるほど希少化し、申し込みはチケット争奪戦さながらの様相を呈している。一方で、デジタル疲れした世代はランクラブに集い、記録よりも「つながり」を求めている。そして都市のランナーたちは、SatisfyやBanditといった新興ブランドのウェアを纏い、走ることを通じて自己表現する。競技からライフスタイルへ、機能の民主化からスタイルの多様化へ——走ることの意味が、いま再定義されようとしている。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
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カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
走るランウェイ

©️The Rest Is Sheep
🐏「お疲れさまですー」
🐕「お疲れさまですー。なんか日焼けしました?」
🐏「あ、やっぱり焼けてます?週末スパルタンレース走ってきたからですかね」
🐕「ああ、参加するって言ってましたね。どちらでしたっけ?」
🐏「新潟です(笑)」
🐕「あら地元開催(笑)」
🐏「まあ、だから出たってわけじゃないんですけど(笑)」
🐕「いやーでも偉いですね。あんな過酷そうなやつに」
🐏「あれはあれで結構楽しいんですよ」
🐕「へえーそうなんですね(笑)」
🐏「全然興味ないじゃないですか(笑)」
🐕「はは、すみません(笑)」
🐏「思ったよりエンタメですよ。仲間とワイワイして、終わったらがんがんビール飲んで」
🐕「ああ、ウェルネス・アナーキスト的な(笑)」
🐏「そんなかっこいいものでもないんですけどね(笑)」
「貴重な資源」となったマラソン
🐕「でも、スパルタンに限らず、いま世界的にランニングブームですよね」
🐏「ニューヨークとかもすごいって聞きますもんね」
🐕「そうなんです。ニューヨークシティマラソン含めて年間数十のレースを主催してるNew York Road Runners(NYRR)っていう団体があるんですけど、2019年には彼らが主催するレースが売り切れるまで平均121日かかってたのが、2025年には平均4日でソールドアウトするようになったと」
🐏「みんなそんなに走りたいもんなんですね(笑)」
🐕「はい。しかもブルックリン・ハーフマラソンとかニューヨークシティ・ハーフマラソンみたいな人気レースではアクセス集中でサイトが落ちるそうです」
🐏「アーティストのコンサートチケット争奪戦みたい(笑)」
🐕「まさにそんな感じです。先行登録枠もあるんですけど、年120ドルの「メンバーシッププラス」に加入しなきゃいけないっていう(笑)」
🐏「お金でファストパスを買う世界観がマラソンの世界にも(笑)」

New York City Marathon (NYRR)
🐕「NYRRのCEO曰く「レースビブはニューヨーク市の非常に貴重な資源になった」と」
🐏「レースビブが貴重な資源?」
🐕「はい。ニューヨークみたいな都市でレースを開催するには道路封鎖や警備の許可が必要で、開催できる数に限界がある。需要は右肩上がりなのに、供給は増やせない。結果、レース枠が希少化してるわけです」
 🐏「しかも有料の課金会員が優先される。公平なスポーツなのに、アクセスに格差が生まれてる」
🐕「そう。いまや「走る前の段階」で競争が始まってるんです(笑)」
🐏「クリックが速い者が勝つ(笑)」
🐕「そう。だからCEOの「資源」発言って都市の公共インフラをめぐる新しい競争の現実を映してるとも言えるんですよね」
パンデミックが生んだランニング革命
🐕「2021年春のNielsen Sportsのレポートによると、月1回以上走るランナーのうち13%がコロナ禍で新たに始めた人たち。しかも既存ランナーの22%は走る頻度が増えたそうです」
🐏「コロナ禍で他にできることが限られてましたもんね」
🐕「そうなんです。ジムが閉鎖されて外出制限がある中で、ランニングは数少ない許された運動の一つだった。でも興味深いのは、パンデミックが終わってもブームが続いてること」
🐏「一過性じゃなかった」
🐕「むしろ加速してるんですよね。2025年のニューヨークシティマラソンは応募20万人超で2019年比71%増。ロンドンマラソンも2026年は110万人が抽選に応募、当選率わずか2%未満」
🐏「東京マラソンも全然当たらないって言いますもんね」
🐕「ですよね。ちなみにNYRRは地元の参加希望者のために「9+1 Membership Program」っていうおもしろい制度を用意していて、1年間にNYRRの対象レースを9回完走して、NYRR主催レースで1回ボランティアをすれば、翌年のニューヨークシティマラソンへの出場権が保証されるんです」
🐏「なるほど。でもそのためには対象レースを9回完走しないといけない」
🐕「そう。ただ、その9レースへの参加枠を確保すること自体が激戦になってるわけです」
🐏「完走するより申し込みするほうが難しい(笑)」
ランクラブという新しいコミュニティ
🐏「ランクラブの人気もすごいって聞きますよね」
🐕「レースの「希少化」もあって、自分たちで走る場を作る動きが活発化してるのと、デジタルに疲れたZ世代とミレニアル世代が、パンデミックをきっかけにリアルな体験を求めるようになった。IRLのコミュニティへの流れが背景ですね」
🐏「「In Real Life」への回帰。ブッククラブとかと同じで、「同じ空気を共有する」こと自体に価値を見出してる」

Bandit
🐕「その中で、かつて「速く走りたい人たちの集まり」だったランクラブが、今は「一緒に体験したい人たちの集まり」に変わってきた。ペースや記録より、「走ったあとに何を感じたか」「どんな景色を見たか」のほうが重要になってる」
🐏「走ることが目的じゃなくて、コミュニケーションのための媒介になってる感じですね」
🐕「はい、ここ数年、ランニングに限らず社会がスポーツを捉える方法が変化して、スポーツの「競争的な側面」よりも「コミュニティやウェルネス、楽しさを共有する手段といった側面」が重視されるようになってますよね。デジタル漬けの社会、あるいは様々な理由により分断された社会の中で、スポーツは「人とつながるための重要な回路」になってる」
🐏「なるほど。スポーツが「交流のプラットフォーム」になってるわけですね」
🐕「そうそう。だから最近は、音楽とかコーヒー、アートとのコラボランも増えてて、「走って終わり」じゃなくて「走って語る」「走ってつながる」イベントが主流になってるし、ビール好き、トレイルランナー、ロッククライマー、リハビリ中の人々、レズビアン、トランスジェンダー、ノンバイナリー、ゆっくりしか走れない人などなど、ありとあらゆる人向けのランクラブが生まれてます」
🐏「まさに「フィジカルなマイクロコミュニティ」ですよね。趣味や興味関心をフックにした、小さくて濃いリアルなつながり」
🐕「単なる趣味の集まりを超えて、ちょっとした「帰属感」を感じさせてくれるのがおもしろいですよね。会社とか学校みたいな大きな組織じゃなくても、自分の居場所を感じられる小さなコミュニティ」
🐏「物理的な場所じゃないサードプレイスとも言えますね」
🐕「週に一度、同じメンバーと走るだけで「ここに自分の居場所がある」って感じられる。それって現代では結構貴重なことなのかもしれないですね」
ランクラブが「ランウェイ」になった日
🐏「ランクラブも含めて、いまのランニングの雰囲気って少し前からちょっと変わってきた気がしますよね。格好も昔はもっと地味でしたし。スニーカーと時間があれば十分の、一番安く手っ取り早く始められる運動、みたいな」
🐕「いまは違いますよね。都市部のランクラブに行くと、NikeやAdidasみたいな定番だけじゃなくて振興ブランドのウェアも目立つようになりました」
🐏「OnとかHokaくらいまではついていってたつもりなんですが(笑)、どんどん新しいブランド出てきますね」

Satisfy
🐕「SatisfyのChief Brand Officer、Daniel Grohは、「ランニングは極めて個人的な営み。だからこそ、そこに「自分らしさ」を表現したいという欲求が高まっている」と」
🐏「「走るためのウェア」じゃなくて、「走る自分を見せるウェア」ですね」
🐕「はい。実際、彼らはスケーターやデニム文化の文脈から生まれたブランドで、ランニングウェアの「既存の美学」への反発から出発したんです」
🐏「既存の美学って?」
🐕「簡単に言うと、プロのランナーのスタイルの模倣、ですよね。タイトフィット、テクニカル素材、ビビッドな蛍光色」
🐏「あー、確かにランニングウェアってそういう感じのイメージありました」
🐕「だから、彼らはただの機能的なウェアじゃなくて「アティテュード」としてのランを提案してるんです」
🐏「ランニングを、単なる競技ではなく、洗練されたライフスタイルとカルチャーの一部として位置づけ直そうとしてるってことですね」
🐕「ニューヨーク発のブランド、Banditも面白くて、ランナーを「目的志向を持った市民アスリート」って定義してて」
🐏「目的志向?」
🐕「はい、創業者のNick WestとArdith Singhが言うには、「ランニングは人々の生活の一部であり、彼らのライフスタイルや価値観の延長にあるんだ」と。なので、顧客であるエンジニアやコンサルタント、クリエイターたちそれぞれを、仕事も趣味も自分らしく取り組む、そんな新しい都市型ランナー像として捉えてるわけです」
🐏「プロのアスリートみたいに走る必要なんてないですもんね」

Bandit
スタイルと機能のあいだで
🐏「でも、これって結局は見た目重視で高いお金使わせてるって感じじゃないですか?」
🐕「見た目は重要ですよね(笑)。でも、実はこれらのブランド、実用性もかなり本気で追求してるんです」
🐏「おお、そうなんですね」
🐕「Banditは女性ランナーの声を反映したポケット設計や素材改良を繰り返してます。防水加工を施したり、コンプレッション生地にマット仕上げを加えたり。単なるファッションじゃなく、機能性も高めてる」
🐏「ちゃんとランナーのペインに向き合ってるんですね」
🐕「Satisfyの場合は「モジュラー・デザイン」っていう考え方がおもしろくて。トレンドや文化の変化には素早く対応しつつ、新商品が出たときに過去の商品が陳腐化しないようなデザインを志向してるんです」
🐏「どういうことですか?」
🐕「新作と10年前のアイテムを組み合わせても違和感がないように作ってる。単発の消費じゃなくて、長期的なスタイル構築を目指してるわけです」
🐏「結果的にサステナブルでもありますね」
🐕「ただ、素材に関してはおもしろい話があって」
🐏「というと?」
🐕「バックカントリースキー用ギアも手がけるRaideの創業者Kyle Siegelは、自社のアイコニックプロダクトである149ドルのランニングベルト(LF 2L)が素材に関しては完全にユニークじゃないって率直に認めてるんです」
🐏「正直ですね(笑)」
🐕「彼はかつてThe North Faceで製品開発してたので、大手ブランドがどう素材を調達してるか知ってる。「僕らは他のブランドと似たような素材と工場を使ってる。多くのブランドが、他のブランドも使ってるこれらの素材を取って、何か名前をつけてTMマークをつけようとするんだ」って(笑)」
🐏「素材のブランディングって、結構マーケティングドリブンなんですね」
🐕「でもSiegelがこだわるのは「ランニングギアは機能しなきゃいけない」ってこと」
🐏「派手なマーケティングやデザインも大事だけど、ストリートウェアと違って、実際に汗をかけないなら意味がないってことですね」
🐕「はい。同じ素材を使っていても、最終的にはパフォーマンスを最大化するデザインで差別化してる。Raideのランニングベルトは、バックパックに使われるリップストップ生地を使って、跳ねないように伸縮ストラップで設計されてるんです」
🐏「実用性にとことんこだわる」
🐕「まさに。「アスリートとしての自分の問題を解決する、最も差別化された製品だと思うものを作ってる」と。実際、LF 2Lは決して安くはない価格にもかかわらず頻繁に売り切れてるみたいです。他のランナーの問題も解決してるってことですよね」

Raide
🐏「素材へのアクセスって、実はそんなに難しくないんですか?」
🐕「Currentlyの創業者Nash Howeは、音楽プロデューサーから商業写真家を経てアパレルデザイナーになった変わり種なんですけど、幅広い高機能素材へのアクセスがあったからこそ彼の転身は可能になった」
🐏「ユニークなキャリアですね」
🐕「Currentlyは元々雑誌として始まって、今でも写真やストーリーテリングを大事にしてる」
🐏「商品見ると、ミニマルなデザインが多いですね」
🐕「はい、Howeは「基本的にニュートラルなものを作るのは、あなた自身がもう少し大胆に自分を表現できるようにするため」って言ってて。ウェアが主張しすぎないことで、着る人が主張できる」
🐕「今のところCurrentlyの最大市場はカリフォルニアですけど、アジアやオーストラリアにも少しずつ広がっていってるみたいです」

Currently
走ることの「再定義」
🐏「こうして見ると、ランニングってずいぶん多面的になってますね」
🐕「つまり、いまのランカルチャーって、単なるブームの再燃じゃなくて、走ることそのものの意味がアップデートされてるんですよね」
🐏「アップデート?」
🐕「はい。以前のランニングは、「個人の挑戦」や「成果の可視化」が中心だった。でも今は、「つながること」「自分を表現すること」「都市の中で息をすること」といった、もっと社会的で感覚的な行為になってる」
🐏「走ることが、自己改善から自己表現に、さらに共体験のプラットフォームへと広がってる」
🐕「なので、いまのランナーにとって、街そのものが「ランウェイ」なんですよね。ペースを合わせて走ることは、他者とのリズムを共有することであり、ウェアを選ぶことは、自分という物語をどう見せるかの選択でもある」
🐏「たしかに。走ることが、単なる運動じゃなく、関係性やスタイルを編み直す手段になってる」
🐕「そうなんです。だから、レースに出ることも、ランクラブで語り合うことも、SNSで共有することも、ぜんぶ「走る」という行為の延長線上にある。もはや「距離や記録」じゃなくて、「共鳴や文脈」が評価軸になってる」
🐏「かつて「速さ」だった価値基準が、「共感」や「演出」に変わった、と」
🐕「はい。だからこそ、ランニングはいま、都市生活のリズムを取り戻すための文化的営みとして再定義されつつあるってことですね。スポーツでもファッションでもなく、ライフスタイルの一部としてのランニング」
🐏「ぼくにとってのスパルタンレースもそうなのかもしれませんね。次回一緒にどうですか(笑)?」
🐕「あー考えておきます(笑)」
🐏「全然興味ないじゃないですか(笑)」
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※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. レースビブはニューヨーク市の非常に貴重な資源になった
パンデミック以降、ニューヨークではランニング人気が再燃し、レース参加枠(ビブ)が「入手困難な資源」となっている。New York Road Runners(NYRR)の大会は、2019年には完売まで平均121日かかったが、2025年にはわずか4日で満席に。人気のハーフマラソンでは申込殺到でサイトが落ちるほどだ。背景には、健康志向の高まりとランニングクラブの活況がある。特にNYRRの「9+1」制度(9レース完走+ボランティア1回で翌年のニューヨークシティマラソンへの出場権を得る)も競争を加速させた。都市の道路使用や許可に制限があるため、開催数を増やすのは難しく、NYRRは抽選制導入など公平化を模索している。
2. マイクロコミュニティが動かすカルチャー
パンデミック後、Z世代やミレニアル世代の間で、オンラインよりもリアルな繋がりを求める動きが広がっている。ランクラブや読書会、サウナ会などの小規模なマイクロコミュニティが拡大し、SNS上のインフルエンサーに代わり、イベント主催者(= ホスト)が新たな影響力を持つ存在となった。ブランドもこの潮流に注目し、NikeやOnなどは草の根コミュニティと連携して信頼関係を築いている。デジタル疲れや孤独感が高まる中、人々は「共有された時間」や「実体験」を重視し始めており、マーケティングの価値基準もフォロワー数から「関係の深さ」へと移行している。
3. ランクラブの美学を解読する
近年のランクラブは、単なるランニング集団ではなく、ファッションやカルチャーを媒介にした新しいライフスタイル表現の場となっている。蛍光色のウインドブレーカーは姿を消し、ARC’TERYXやHOKA、Oakleysをまとい、走る前にコールドブリューを手にする——その装い自体が文化的コードだ。TikTokには、走る姿よりも「ポストラン」の映像が溢れ、記録よりも美学が重視される。こうした動きは、ストリートウェアやスケートカルチャーのように、所属意識や審美眼を示す「文化的通貨」となりつつある。一方で、高価格帯ブランドや閉じたコミュニティ構造ゆえの排他性も内包する。ブランドに求められるのは、単なる機能訴求ではなく、共感と帰属を生む「場」のデザインだ。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
※ 今週もお休みです🐏
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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