#023_Sheep Quinceと「Dupeカルチャー」の台頭(後編)

高級ブランドそっくりなアイテムを低価格で届けるQuinceは、競合ブランドの商品データを分析し「売れる」と確信したものだけを生産。さらに、工場への後払いやデ・ミニミス免税を活用することで、低価格を実現している。Quinceの驚異的な成長を支えるビジネスモデル、そして巧みな価格戦略を紐解く。

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🔍 Sheepcore

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Quinceと「Dupeカルチャー」の台頭(後編)

©️The Rest Is Sheep

(前編から続く)前編はこちら🔍

Quinceの価格戦略

実際にQuinceの商品ページ見てみましょう。Quinceのユニークな特徴といえば、なんといっても商品ページに「他ブランドとの価格比較を堂々と明示」してるってとこです(笑)。

下の方にありますね、比較表。「Tory Burchだと448ドルだけど、うちだと149ドル、67%節約できますよ」って思いっきり比較してある(笑)。パクリ元、いや、インスピレーション元(笑)を公表するって、潔いというか厚かましいというか(笑)。けっこう攻めてます。もう一つ見てみましょうか。

まあでも、これかなり効いてると思います。Totemeのスカーフジャケット1,130ドル、日本円で15万円くらいするんですけど、Quinceだと200ドル、しかも、素材はウール100%でそれなりに高級感も感じられる。この値段の差を目の当たりにしたときに「わざわざTotemeで買わなくてもいっかな」って立ち止まる人はそれなりにいそうです(笑)。

ちなみにこれがSheinになると更に安くて50ドル以下とかになるんだけど、素材はポリエステル100%。ここがポイントで、「安すぎない価格設定」もQuinceの大事な戦略の一つです。Sheinみたいに価格が異常に安いと、その雑然としたウェブサイトも含めて安っぽいイメージ、「どうせちゃっちいんでしょ」って思われちゃうけど、200ドルくらいすると「品質も期待できるかも」って印象を与えることができる。

つまり、品質と価格のバランスがとれたDupe品、っていうのがQuinceの強みになってます。「安すぎる」と品質への不安が生まれるし、実際にクオリティ低いことも多い。一方で「高すぎる」とコスパが悪い。Quinceはその中間をうまく突いてて、消費者からすると「高級ブランドほど高くないけど、ファストファッションほど安っぽくない」という絶妙なポジションですよね。

いまやQuinceはミレニアル世代、Z世代向けの「ワンストップDupeショップ」って感じになってきてます。

Quinceのビジネスモデル

最後に、Quinceがどうやってこの安さと品質を実現してるか、そのビジネスモデルの特徴的なところを4点、見ていきましょう。

 データスクレイピングで「売れる商品」を探して作る

Quinceの商品開発は、一般的なファッションブランドみたいに「デザイナーのアイデア」に頼らない。彼らは、ブランドのウェブサイトをスクレイピングして「どの商品がどれくらい売れているのか?」を徹底的に分析します。スクレイピングって、ネットのデータを自動で集める技術ね。

例えば、Anthropologieの夏用ドレスが年間100万ドル売れてる、っていうデータを見つけたら、その商品をいくつか取り寄せる。その中の1つを手元に残して、残りを海外の製造業者に送ってそっくりに複製してもらう。経営陣が「これで売れる」って納得すれば、新商品としてサイトで発売される、という流れです。

 在庫を持たずに工場から消費者に直接配送

おもしろいのが製造・物流面でのアプローチ。普通のブランドって、工場で大量に作って在庫として倉庫にストックして、そこからお店やオンラインの購入者に配送しますよね。

たとえば、あなたがオンラインでGapのドレスを注文するとします。この場合はアメリカじゃなくて日本になるわけだけど、その商品はかなりの確率ですでに日本国内の倉庫にあって、出荷を待ってるわけです。おそらくGapは数ヶ月前には東南アジアにあるブランドの工場にその商品を大量に発注してて、そのドレスは海上コンテナで日本に送られてきたはずです。もちろんGapは税関で必要な料金と税金を支払う。

でもQuinceは違う。注文が入ってから工場に「これ作って」って指示して、工場から直接お客さんに送っちゃう。倉庫とか中間業者とか一切なし。在庫リスクゼロで、効率的ですよね。

 工場への支払いは「後払い」

支払いルールも独特。通常、ブランドは工場にまとめて発注して、製品が出来上がった段階でお金を支払います。でも、Quinceは多くの工場と「売れた分しか支払わない」という条件で取引してるみたいです。つまり、消費者が購入してから初めてその分の支払いが工場へ行く仕組み

これ、なかなか殿様商売ですよね(笑)。工場側からするとあまり旨味のない取引に見えるけど、Quinceの急成長に魅力を感じる工場も多くて、「とにかく取引しておけば儲かる」と思って受け入れてるところが多いみたいです。なので、このモデルは、Quinceの成長スピードが鈍化したり、消費者の需要が減ったりすると、一気に崩れる可能性あります。

 「デ・ミニミス免税」を利用し関税を回避

最後に、アメリカの「デ・ミニミス免税(de minimis tax exemption)」ルール。これは、800ドル以下の個人輸入品には関税がかからないってルールで、Quinceは中国とかインドの工場から購入者に直接配送するから、殆どの商品は関税ゼロで済むんです。

さっきのGapの例みたいに、企業が海外工場に大量発注して輸入するってやり方だと関税がかかっちゃうので、かなり価格競争力に影響しますし、よく知られているようにSheinとかTemuもこのルールの恩恵を受けてます。ただ、Trumpは関税徴収の仕組みさえ整えばこの免税制度を撤廃したいって言ってるので、そうなった場合にはQuinceの低価格戦略も大きく影響を受けることになります。

いま見てきたようなビジネスモデル上の特徴は、米国のリテールブランドの通常のやり方とはまったく違っていて、これまで彼らが取り入れてこなかったSheinやTemuのプレイブックを踏襲しています。

これを、さっき見たような絶妙な価格戦略や洗練された雰囲気と組み合わせることで、Quinceは高級感のあるD2Cスタートアップであるかのように巧みに装っています。ただ、ビジネスの実態としては、厳選されたホワイトレーベル商品を扱うマーケットプレイスって感じの存在ですよね。

まとめ:Quinceと「Dupeカルチャー」

はい、時間ですね。さて、今日の講義では「Dupeカルチャー」の台頭と、そのなかで存在感を高めてるサービス「Quince」について見てきました。「Quinceちょっと興味出てきたかも」って人もいるんじゃないでしょうか?

Dupeを買うことは、もはや騙すこととも騙されることとも違います。以前の世代とって、コピー商品を買うのは後ろめたいことだったかもしれないけど、Z世代はコピー商品やジェネリック商品を買うことを常態化させただけでなく、ソーシャルメディア上でも #dupe がバズワードになるほど定着させました。

でも、よく考えたらDupeって高級ブランドがないと成り立たないですよね。Totemeの1,130ドルがなきゃ、Quinceの200ドルも輝かないっていう(笑)。もし高級ブランドが完全になくなったら、そもそもDupeっていう概念すら消えてしまうかもしれません(笑)。つまり、「高級ブランドなんていらない!」っていう消費は、高級ブランドの存在に依存している。この自己矛盾こそが、現代の消費文化のリアルな姿なのかもしれません。

そんなところで今日の講義はこちらで終わりたいと思います。吹きすさぶ花粉のなか、長時間お疲れさまでした!飲み会楽しんで(笑)。

🐏 Behind the Flock

“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。

1. Lululemonが “LULULEMON DUPE” を商標登録出願

Lululemonは、自社製品の模倣品(Dupe)が市場に溢れる状況を受け、新たな戦略を模索している可能性がある。昨年末、同社は「LULULEMON DUPE」の商標を出願し、小売や広告サービスに使用する意図を示した。Dupeは特許や商標を侵害しないため、法的措置が難しく、Lululemonは独自の対策を講じてきた。2023年には、LululemonはDupe品のAlignパンツを本物と交換できる “dupe swap” イベントを開催し、約1,000人が参加。このイベントは、同社の製品の優位性を伝えるユニークなアプローチとして注目された。今回の “LULULEMON DUPE” 商標が今後どのような展開につながるのか、注目される。

2. Cosmopolitanの編集者が選ぶ、お金を払う価値のあるQuinceの商品

「昨年、結婚式の招待状が続いた際に、定番で高品質、しかも手頃な価格のドレスを見つけるのに苦労した私は、完璧な結婚式のゲストドレスを求めてGoogleをくまなく探した。そしてついに、Quinceのバイラル・ヒット商品である80ドルの100%シルクで洗濯可能なスリップドレスを注文することを決めた。その後のことは歴史が物語っている。それ以来、私は夢中になり、友人や家族、Cosmoの同僚たちにQuinceを試すよう強く勧めてきた。そして、試した人たちは(ママ、おばあちゃん、編集者仲間たち)みんな夢中になった」

3. Quinceが1億2000万ドルを調達

米国のM2C(Manufacturer-to-Consumer)ブランドQuinceは1月28日、シリーズCで1億2,000万ドルの資金調達をおこなったと発表。本ラウンドはNotable CapitalとWellington Managementがリードし、DST Globalなどが参加。QuinceはM2Cモデルを採用し、工場から直接消費者に商品を届けることで、従来の流通経路の中間コストを排除し、高品質な製品を手頃な価格で提供している。

🫶 A Lamb Supreme

The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。

ドイツの名門クラブ『Robert Johnson』25周年ツアー開催🎧
渋谷 MIDNIGHT EAST(Spotify O-EAST 3F & AZUMAYA) 今夜!!

3月28日(金)、渋谷のSpotify O-EASTと東間屋にて、ドイツの名門クラブ「Robert Johnson」の25周年記念ツアー東京公演が開催されます。

1999年にフランクフルト近郊(私はずっとベルリンにあると勘違いしていた)にオープンしたこの250人収容のクラブは、卓越したサウンドシステムと先進的な音楽センスで、ヨーロッパのエレクトロニックミュージックシーンの最重要拠点となり、その存在感は健在だそう。

マスターマインドのATA(Athanassios Macias)は、名門レーベル「Playhouse」創設者としても知られるハウス界の重要人物。今回は彼を中心に、ドイツでも活躍する日本人DJ・MOODMANや、MINODAら豪華国内アーティストも集結。

O-EASTでは3名のDJが、東間屋ではokadada、Akie、Manahaらが出演。東京公演後は3/29名古屋、4/4京都へと巡るこのツアーは、ヨーロッパハウスミュージックの真髄を体験できる貴重な機会です。本物のアンダーグラウンドカルチャーを求める音楽ファン必見!本日3/28、エントランスは22:00から!お近くで飲み会がある方は帰り際に是非覗いてみては!?

すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑

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