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#020_Sheep ブーム・ブームの美学(前編)
企業のDEI(多様性・公平性・包括性)ポリシーの見直しは、一見すると政権交代による影響のように見えるが、その裏には、より大きな社会・文化的な変化があった。Sean Monahanが提唱した「Boom Boom aesthetic(ブーム・ブームの美学)」は、抑圧された生活からの解放と快楽主義への回帰を象徴する。BALENCIAGAの札束モチーフ、Kim Kardashianのパワールック、『Playboy』の復刊など、80年代的な派手さとエネルギーを取り戻そうとする動きは、社会に何をもたらすのか――。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
🔍 Sheepcore
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
ブーム・ブームの美学(前編)

©️The Rest Is Sheep
🐕「どもども、ご無沙汰です」
🐏「いや、先週ゲイバーで一緒に飲んだばっかじゃないですか(笑)」
🐕「あ、たしかに、完全に忘れてました(笑)。みんな酔っ払ってて、ちゃんと話せなかった気がします。最近なんか気になってることあります?」
🐏「そうですねー。最近気になってること...あ、あるかも。真面目な話していいですか(笑)?」
🐕「え、突然そんなこと言われるとドキドキするんですけど(笑)」
🐏「いや、最近いろんな企業が「DEIポリシー見直します」って言い始めてるじゃないですか」
🐕「おー、ゲイバーからのDEI(笑)」
🐏「そういうわけでもないんですけど(笑)、ついこの前まで「LGBTQがー」「多様性がー」って声高に謳ってた企業が突然手のひら返し始めましたよね。ウォルト・ディズニーが管理職の報酬を決める基準からDEIに関する指標を外したり」
🐕「そうそう、ゴールドマン・サックスも「取締役会がすべて白人男性で構成されてる企業のIPO業務は引き受けないんで」っていう方針を撤回したりしてて、これが理由で仕事断られてた企業からしてみたら「おいお前ら!」って感じ(笑)」
🐏「なのでまあ、気になってるっていうか、企業の方針とかって政権が変わるとこんな簡単にひっくり返せちゃうんだっていう(笑)」
🐕「確かにTrumpが大統領になった途端に一気にひっくり返りましたよね。でも、そういう意味ではSean Monahan、ええと、Normcore(ノームコア)っていう言葉を生み出した人ですけど、最近また彼がちょっとおもしろいこと言ってて」
🐏「お、Normcoreきましたね。我々のこの “Sheepcore” っていうタイトルもNormcoreにインスパイアされてます(笑)」
🐕「はい、NormcoreはNormcoreだけにとどまらず、以降あらゆる言葉が “core” って接尾辞とともにファッションやスタイルのムーブメントを表す言葉になりまして〜、って話は置いといて(笑)。Monahanいわく、こうした変化は突然起きたように見えるけど、でも実は社会、文化のもっと広範な変化を象徴してるんだ、と」
「ブーム・ブームの美学」
🐏「急に起こった話じゃなくて、それまでにも変化の兆しはあった、ってことですか?」
🐕「彼が象徴的なきっかけとして挙げているのはコロナ禍で、当時の若者たちは突如として、思ったことを言えない、本当にやりたいこともできない、自分の人生なのに自分でコントロールできないっていう状況に放り込まれちゃった」
🐏「学校の授業をZoomで受けたり、パーティーに行ってお酒飲むのも制限されましたし、旅行や買物、友人と直接会うことすらままならない時期もありましたよね」
🐕「ですよね。こうしたコロナ禍の体験が「昔はもっと自由で快楽主義的な時代だったはずだ」「昔は良かったよなあ」っていう、より一般的な感覚と結びついたわけです」
🐏「確かに、あの当時ってなんか息苦しかったですよね。コロナ前はなあ〜、とかよく話してました」
🐕「そうそう。で、こないだの12月にMonahanが “Boom Boom aesthetic”(ブーム・ブームの美学)っていう新しい美意識の到来を宣言したんです。コロナ禍、あるいはその前の時期から含めて抑圧されてたライフスタイルから開放された、より自由で、より享楽主義的な古き良き80年代への回帰、みたいなムードって感じですかね。派手な消費とか、オープンに自分を誇示するスタイルのことを指してます」
🐏「ギラついてエネルギッシュな感じですかね、80年代的って。知らんけど(笑)」
🐕「ブーム・ブームっていう名前はRoman and Williamsが設計したNew York、Meatpacking Districtのナイトスポット「Boom Boom Room」からきていて、豪華で力強くて、堂々としていて貪欲なバイブスがこめられてます」

Boom Boom Room / The Standard Hotels(NY)
🐏「たしかに最近、高級スーツ、毛皮のコート、派手な色使い、でっかい腕時計、ブランドロゴが目立つド派手なアイテムとか、しばらく封印されていた「見せびらかす」感じがファッションにも戻ってきてる感じがしますね」
🐕「ブーム・ブームは、お金を使ったっていうアピールのためにお金を使うみたいな美学、とも言われてます(笑)」
🐏「しばらく続いていたクワイエット・ラグジュアリーのトレンドとは完全に真逆(笑)」
🐕「いま考えてみれば、BALENCIAGAの2023年春夏コレクションのインビテーションのデザインがオリジナルの100ドル札だったり、Kim KardashianがGQの「タイクーン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれて特大のスーツとネクタイで表紙飾ったりしたのも何かの予兆だったのかもしれないですね」

Kim Kardashianが表紙を飾るGQ(THE 2023 MEN OF THE YEAR ISSUE)
🐏「BALENCIAGAは札束でギラついてる感じだし、Kim KardashianはSad Beigeとは明らかに方向性の違うルックでしたね」
🐕「まさに。で、このタイミングで、当時の空気感を象徴する雑誌『Playboy』の復刊とか、『アメリカン・サイコ』の新バージョン制作開始とか、80年代バイブスが本格的に戻ってきた感じです」
(後編に続く)
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. ゴールドマン・サックス、多様性求める規則を廃止
ゴールドマン・サックスは、取締役会の多様性が欠ける企業のIPO業務引き受けを拒否するという従来の方針を撤回した。これは2020年に導入された方針で、米国や欧州でのIPO支援は、女性を含む2名の多様な取締役を擁する企業に限定するというものだった。しかし、近年の法的圧力や保守派による反発などを背景に方針撤回に至った。ゴールドマンは引き続き企業に多様な人材登用を促す意向だが、自社内の女性リーダーの少なさも指摘されている。
2. あなたはどのくらいブーム・ブーム?
「Boom Boom」とは、トレンド分析家のSean Monahanが提唱した新たな美学で、「過剰さの純粋な表現」や「1980年代のアーカイブ風の贅沢なスタイル」とされる。Miu MiuやArmaniに見られるパワードレッシングの豪華さや、文化面においても『アメリカン・サイコ』のリメイクや『Industry』の続編などに表れている。このスタイルは、経済的に不安定なZ世代が「大人らしさ」を模索する中で生まれた。さらに彼らの「お金への執着」もBoom Boomの流行に関係している。過剰で滑稽なこのトレンドは、権力や欲望を象徴する挑発的なスタイルとして注目されている。
3. ファッションはwokeであることを諦めたが、それでいいのだ
近年のファッション業界は、社会的・環境的な意識を前面に出してきたが、近年その流れが変化し、再び華やかさや贅沢さを重視する傾向が強まっている。ファッションと政治の結びつきは元々不安定なものであり、例えば2016年の大統領選でVogueがヒラリー・クリントンを支持したものの、その効果は限定的だった。ファーストレディの衣装もデザイナーの政治姿勢によって選ばれる傾向があったが、近年は「権力者を装うのが仕事」という実利的な姿勢が戻りつつある。これはファッションが持つ「政治的立場よりも美を追求する」という本質に立ち返る動きとも言える。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
「THE BEST OF THE CITY UNDER ONE ROOF」
アジア初上陸の『タイムアウトマーケット大阪』、今週末の3/21(金)に開業!🍽️
「タイムアウトマーケット」は、「THE BEST OF THE CITY UNDER ONE ROOF」というコンセプトのもと、タイムアウト編集者によってキュレーションされた、その街の最高の食と文化を一堂に集結させたフードカルチャーマーケット。2014年リスボン発祥以来、ニューヨーク、シカゴ、ドバイなど世界の美食都市で人気を博している。
アジア初となる『タイムアウトマーケット大阪』の舞台となるのは、話題沸騰中の「グラングリーン大阪」。ミシュラン星付き店を含む関西最高峰の美食が一堂に会し、総勢17のレストランと2つバーが先陣を切る。
来る大阪万博に先立ち、関西を彩る新たな美食のランドマークになれるのかーー。
2025年3月21日(金)いよいよオープン!🍽️
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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