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#055_Sheep ニューヨーク・グルメグローサー・ウォーズ
2020年に破綻したDean & Delucaが残した空白を埋めるべく、ニューヨークでは新世代のグルメグローサーたちが覇権を争っている。まだ開店していないのにTikTokで13万人のフォロワーを集めるMeadow Lane、ミシュラン星付きレストランが運営するRigor Hill Market、「文化的サロン」を標榜し20ドルのバターを売るHappier Grocery、Z世代の支持を集めて新たなフェーズを迎えた創業100年の老舗Butterfield Market。そして、この戦いに参入するErewhonは、43,000ドルの会員制クラブ内への出店という究極の排他性を打ち出す。グルメグローサーはもはや単なる日常の買い物場所ではなく、「SNSで表現するライフスタイル」や「ウェルネスという名のステータス」を購入するメディアへと変貌している。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
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カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
ニューヨーク・グルメグローサー・ウォーズ

©️The Rest Is Sheep
🐕「お疲れさまです—」
🐏「お疲れさまです。明日の打ち合わせってどこでやります?」
🐕「どうしましょうか?SequenceのVALLEY PARK STANDにします?」
🐏「そうしますか。あ、そういえばあそこって運営してるのウェルカムさんじゃないですか。ふと思ったんですけど、Dean & Delucaって結局アメリカ国内は閉じちゃったままなんでしたっけ?」
🐕「ですね。本国のDean & Delucaは2020年3月にチャプター11では申請して、アメリカの店舗は閉鎖。日本の営業権はウェルカムが完全に確保してたから、影響なく継続できてるってことですよね」
🐏「なるほど。Dean & Delucaって、ただの食料品店じゃなくて「食のセレクトショップ」みたいな存在として登場しましたよね。背伸びして高級なオリーブオイルとかチーズとか買って、ちょっとリッチな気分になれるあの感じ」
🐕「まさに。グルメグローサーとかラグジュアリーグローサリーって呼ばれる業態ですね。食材を売るだけじゃなくて、「食を通じて文化を体験させる」ような場所」
🐏「しかも、レストランほど気取らなくていいし、カフェより特別感がある。あの「中間の心地よさ」が新しかった」
🐕「そうそう。イートインスペースもあって、気軽に質の高い食事ができる。New York Magazineが「店舗以上、レストラン未満(more than stores but not quite restaurants)」って表現してましたけど、まさにそれ」
🐏「いい表現ですね」
🐕「で、そのDean & Delucaの空白を埋めようと、いまニューヨークに新しいグルメグローサーたちが次々と登場してるんです」
🐏「おお、群雄割拠なんですね」

The New York Times
22歳の起業家と「Meadow Lane」の野望
🐕「その代表格というか、最近一番話題になってるのがSammy Nussdorfっていう28歳の若者。Dean & DelucaのSoHo店が閉店した2019年10月当時、彼はまだ22歳のNYU卒業したての若者で、投資会社で働いてたんですけど」
🐏「投資会社…グローサリーとは全然関係ないんですね(笑)」
🐕「そうなんです(笑)。で、Dean & Delucaの閉店のニュースがショックで、「あの店で惣菜を買ってコーヒーを飲む時間が大好きだった」と。それで「いつか自分がグローサリーストアを開こう」って決意したらしいです」
🐏「なんてお店なんですか?」
🐕「トライベッカのMeadow Laneっていうお店なんですが、いままだオープン準備中で(笑)」
🐏「あ、まだオープンしてないんですね(笑)」
🐕「開店準備のドタバタ、遅延や検査の苦労なんかを約13万人のフォロワーがいるTikTokのアカウント(@brokebackcontessa)で実況中継してて(笑)」
🐏「開店までのプロセスもコンテンツ化。いかにも今っぽい(笑)」
🐕「双子のPheloung姉妹からDairy BoyのPaige Lorenzeまで、ありとあらゆるニューヨークのインフルエンサーともコラボしてフォロワーの期待値を煽ってる(笑)」
🐏「開店前からプロモーション完璧ですね(笑)」
🐕「で、極めつけがSocialistaっていうナイトクラブのドアマネージャーをしてた「すげえシックな女性」を雇って、開店後の長蛇の列を管理させようとしてるらしいです(笑)」
🐏「グローサリーストアにドアマネージャー?(笑)」
🐕「「食材を買う」ことが、もはや「入場制限つきのカルチャーイベント」になってますよね」
ニューヨーク・グルメグローサー戦争
🐏「でもMeadow Laneだけじゃないってことですよね?」
🐕「そうなんです。たとえばMeadow Laneから3ブロック先にあるRigor Hill Marketっていうライバルがすでにあって」
🐏「どんな感じの店なんですか?」
🐕「隣接するミシュラン星付きレストランのOne White Streetが運営するグルメグローサー。レストランと一体運営で、シェフが作る惣菜や焼き菓子、ハドソンバレーの農産物を扱ってます」
🐏「生鮮まで扱うんですね」
🐕「はい。毎週火曜日には自社農園のハーブやレタス、スプラウトなどを並べるファーマーズマーケットになるんです」
🐏「へえ、本気のFarm to Table」
🐕「Meadow LaneのSammyは何度もRigor Hill Marketに通って食事してるらしくて(笑)」
🐏「完全に偵察ですね(笑)」
🐕「Rigor Hillのマネージャーやバリスタは全員彼のことを知ってるそうです(笑)。Rigor Hillのマネージング・パートナーのRyan Sohn曰く「Sammyが来ると、みんなその話題で盛り上がるんだ」って(笑)」
🐏「バレてる(笑)」
🐕「はい、店側は「真似されるのは最大の賛辞って言うからね」って言ってて、大人の対応してます(笑)」
🐏「余裕がありますね(笑)」
🐕「Rigor Hillは自社農園も持ってて、鶏肉や卵、野菜を自前で供給できる強みがあるんです。すでにアッパーイーストサイドかウエスト・ヴィレッジ、ブルックリンあたりで2号店を検討してるし、西海岸のサンタバーバラへの進出も視野に入れてるとか」
🐏「勢いありますね」
🐕「そうなんです。で、そのRigor Hill Market からさらに3ブロック北にいったところで独自のテリトリーを築いているのがHappier Grocery——ここは「ニューヨークのErewhon」って言われてるお店ですね」
🐏「おお、Erewhon。ロサンゼルスの」
🐕「はい、Happier Groceryは2023年にMarc Jacobsの元デザイナー、Wells Stellbergerが立ち上げたんですけど」
🐏「デザイナーが!さっきのSammyも元投資会社ですし、みんな異業種からの参入ですね」
🐕「そうなんです。で、Stellbergerはこの店を単なるグローサリーじゃなくて、「グローサリーでもあり、文化的サロンでもある」場所として構想してて」
🐏「文化的サロン…?」
🐕「本やアパレルを販売したり、プライベートダイニングスペースを設けたり。扱う商品もオーガニック野菜とかサプリはもちろん、生乳とか、あとなんと20ドルもするバターとか、とにかくこだわりの品揃えで」
🐏「普通のグローサリーとは明らかに違いますね」
🐕「で、一番話題になってるのが、元Juilliardのバレリーナから転身したインフルエンサー、Hannah Neelemanが経営するバレリーナ・ファームのプロテインパウダーを使ったフローズンヨーグルト。1カップ20ドル近くするけどTikTokでバズってて人気爆発」
🐏「Erewhonのセレブスムージーみたい(笑)」
🐕「まさに。で、おもしろいのが実はSammyもMeadow LaneのスムージーにこのBallerina Farmのプロテインパウダーを使いたくて、直接交渉したらしいんですよ」
🐏「Sammyあちこちに出てきますね(笑)」
🐕「そしたらHappier Grocery のStellbergerが「彼女とはうちが独占契約してる」って釘を刺したらしい(笑)」
🐏「グルメグローサー界のインフルエンサー・プロテインパウダー争奪戦(笑)」
🐕「Sammyはつい先日もTikTokでRigor Hill Marketの料理をレビューしながら「みんなは「気まずいんじゃないの?」って思ってるみたいだけど、全然そんなことないよ。Meadow LaneやHappier Grocery、Rigor Hillみたいな店があと30軒あっても、共存できると思うんだ」って言ってました(笑)」
🐏「共存できるって言いながら、しっかりレビューして牽制してる(笑)」
@brokebackcontessa Delicious lunch from Rigor Hill don’t hate me ily
🐕「最後にもう一つ。アッパーイーストの老舗Butterfield Market。来年で創業100年になるお店ですね」
🐏「100年!歴史ありますね」
🐕「かつては近所の裕福なマダムたちが通う、いわゆるご近所の高級スーパーだったんですけど、最近ちょっと違ったかたちで復活しつつあるみたいで」
🐏「違ったかたち?」
🐕「今はアクティブウェアを着たZ世代が通路を埋め尽くしてるんです」
🐏「Z世代が老舗に殺到してる?」
🐕「はい。で、Butterfieldもこの1年でロサンゼルスのErewhonが開拓したインフルエンサー・スムージー・コラボレーションのモデルを導入してるんです」
🐏「老舗も新しいトレンドに適応してるんですね」
@abbybaffoe THE SELECTIONS?! 🤌🏼 wowowowwww stunning I cant wait to go back lol. Also in the cutest area with everyone eating outside!! 🥹 #newyorkcity ... See more
🐕「そうなんです。ただ、3代目共同オーナーのJoelle Obsatzは、新興のプレイヤーたちのことをちょっと距離をおいて見てるみたいです。「もっとマーケットの調査をすべきなんでしょうけど、私たちはこの場所で自分たちの文化を作ることに集中してる」って言ってて」
🐏「競合を意識しすぎない戦略?」
🐕「はい、「流行には流されない」と。でも、同時に、ダウンタウンへの出店も計画してるみたいで、守りだけじゃなくて、攻めの姿勢も持ってるんですよね」
Erewhonのニューヨーク進出
🐏「……で、ここまでくると、次はやっぱりあそこですよね」
🐕「そう、Erewhonがついにニューヨークに来るんですよね」
🐏「ロサンゼルスの「ウェルネスカルチャーの聖地」ですね。ただ、ニューヨークの店舗は会員制クラブの中だとか」
🐕「はい、Kithの創業者、Ronnie Fiegがグリニッジ・ヴィレッジにオープンするKith Ivyっていう会員制クラブの中に入るみたいですね。会員じゃないとたどり着けない(笑)」
🐏「Kith Ivyの会員になるのに入会金36,000ドルと年会費7,000ドル、合計43,000ドル必要だって記事で見ました(笑)」
🐕「しかもErewhonっていってもフルスペックのグローサリーじゃなくて、スムージーとかのドリンクをメインで提供する「Erewhon Tonic Bar」が入るんですよね。食品売場はなし」

The Hollywood Reporter
🐏「43,000ドル払って飲むスムージー(笑)」
🐕「周辺のエリアへはUber Eatsとかでデリバリー注文可能みたいですけどね」
🐏「いずれにしても、セレブとコラボしたスムージー1杯20ドルとかですもんね(笑)。かなり高級です」
🐕「ちなみにSammyはこのクラブの入会のインビテーションもらったらしいけど断ったみたいです(笑)」
🐏「ほんとどこにでも登場しますね(笑)」
グローサリーが「体験の場」になる時代
🐏「グルメグローサリーが盛り上がってるっていうのは、単に「ちょっとリッチな食材を食べたい」っていう話にとどまらないですよね」
🐕「はい。「食べる」っていう行為の意味が、SNSやウェルネスカルチャーの中で完全に書き換えられましたよね。Dean & Delucaが提供してた「背伸びのリッチ感」っていう体験に、今のプレイヤーは「承認欲求」や「ステータス」を加えた」
🐏「Erewhonで豪快に購入した商品を披露する「#Erewhonhaul」動画、Joe & the Juiceの「Tunacado」サンドイッチ投稿。今や高級バッグの「開封動画」のノリで、フローズンヨーグルトやスムージーを買うこと自体が「ライフスタイル的コンテンツ」になってるってことですよね」
@dzaslavsky Tunacado strikes again #tunasandwich #joeandthejuice @JOE & THE JUICE #capers
🐕「パンデミック以降、「ちょっとした日常の喜び」の価値が上がって、食が新しいラグジュアリー体験になった。高級食品は少し背伸びをすれば「手の届く贅沢」なんです」
🐏「そして、食品が「自己表現」や「所属意識」のメディアになってる」
🐕「そう。Happier Groceryのカルチャーサロン的空間、Rigor Hillのレストラン品質、Meadow Laneの「並ぶ価値がある店」っていう演出——全部、「こんなライフスタイルを生きる私」を売ってる」
🐏「つまり、グルメグローサリーが「ライフスタイルの舞台」になったっていうことですね」
🐕「そう。ニューヨークErewhonの43,000ドルは、その最も極端で洗練された到達点、ってことですよね」
🐏「現代のグルメグローサー戦争とは、「誰が最もZ世代の理想のライフスタイルを体現するか」の競争ってことか…」
🐕「はい。Dean & Delucaの閉店は、よりライフスタイルに近い「憧れ」を売る新しいグローサリーの時代を呼び込んだ。ニューヨークの高級グローサー戦争は、今後も目が離せないですね」

ARTnews
🐏「で、結局SammyのMeadow Laneっていつオープンするんですか?」
🐕「それが、また延期になったらしいです(笑)」
🐏「あら(笑)」
🐕「でもSammyのTikTokのフォロワー数も伸びてるみたいですし、開店前から勝ってますね」
🐏「もはや開店しない方が儲かるんじゃないかって勢いですね(笑)」
🐕「本当に。グローサリー戦争の真の勝者は、フードに対する若い世代の欲望を背景に、実店舗を開く前にインフルエンサーになった22歳の元金融マンかもしれませんね(笑)」
🎙️ポッドキャストはコチラ!
※ 生成AIが客観的な視点でレビューしています🐏🐕
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. 彼はトライベッカにグルメグローサーを開こうとしている
ニューヨーク、トライベッカに新たな高級グローサリー、Meadow Laneが開業目前だ。28歳の店主、Sammy Nussdorfは建築許可やガス開通の遅延に悩まされながらも700本近いSNS動画で開店までの記録を投稿。贅沢な内装や「ホルモンフリーのキャビア」「柚子風味のケールチップ」などを用意するが、度重なる開店延期により「本当に実在するのか?」と疑う声も出ている。Nussdorfは「ニューヨークの人々のための店」と強調し、手頃な価格の商品も用意。開店は目前だ。
2. グローサリーストアで食事をしよう
ニューヨークでは「食べる場所」としてのグロサリーストアが人気を集めている。レストランより手軽で自由度が高く、スーパーやベーカリー、精肉店、デリなどが次々と「食のデスティネーション」に変貌。店内で焼いた肉を食べられる精肉店や、グアテマラ料理を出すデリ、スムージーバー併設の高級マーケットなど、個性豊かな店が街中に登場している。形式ばらない外食にぴったりな、日常と非日常のあいだを楽しむ新しい食文化が広がっている。
3.ついにErewhonがニューヨークに進出
ロサンゼルス発のラグジュアリーグローサー、Erewhonがついにニューヨークに進出する。ウエストヴィレッジの会員制クラブ「Kith Ivy」の中への出店のため、入店するためにはクラブへの入会(初期費用3万6000ドルと年会費7000ドル、合計4万3000ドル)が必要。また、この店舗はグローサリーストアではなく「トニックバー」となり、スムージーなどのドリンクの提供がメインとなる。非会員は一定地域内ならUber Eatsなどによるデリバリー注文が可能。Erewhonは1本14ドルの水や23ドルの「セレブスムージー」などで知られ、ウェルネスカルチャーの象徴とされる。ニューヨーク進出は、独自の「ステータス消費カルチャー」を東海岸にも広げる試みといえる。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
※ 今週もお休みです🐏
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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