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#018_Sheep モルトからシャンパーニュへ(前編)
Kendrick Lamarがスーパーボウルのハーフタイム・ショーで歴史を塗り替え、ヒップホップは完全にメインストリームに躍り出た。しかし、90年代のヒップホップと企業の関係は、今とはまるで違うものだった。モルト・リカーのCMに起用されたラッパーたち、ブランドがヒップホップを避けていた時代、そしてラッパー自身がリカービジネスを牛耳るようになった現代——ヒップホップとアルコール業界の関係をたどりながら、その変遷を掘り下げる。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
🔍 Sheepcore
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
モルトからシャンパーニュへ(前編)

©️The Rest Is Sheep
はいどうもー、こんばんは!日曜22時、東京のどこかからお送りしております「The Rest Is Sheep」の時間がやってまいりました。あなたの週末があと少しで終わろうとしているこの憂鬱な時間帯(笑)、いかがお過ごしでしょうか。
なんかみんなKendrick Lamarの話してますよね。あ、全然してませんか(笑)?史上初めて、ソロのラッパーとしてハーフタイム・ショーのヘッドライナーをつとめたKendrick。Michael Jacksonの記録を超える1億3,350万人、史上最も視聴されたハーフタイム・ショーのパフォーマンス。っていま手元にあるBillboard JAPANの記事を読んだんですが(笑)、かつては「不良の音楽」と言われて敬遠されていたヒップホップは、今やスーパーボウルのメインステージに立ち、歴史を塗り替える存在になりました。Kendrickは直前のグラミーでも5冠を達成し、いまやヒップホップが音楽業界の中心にいるんだってことを改めて証明した形です。
ヒップホップの文化的・社会的影響力ここに極まれり、って感じですよね。今や企業も「ヒップホップと組むこと」を当たり前に考えるようになったけど、前はそうじゃなかった。むしろヒップホップは「売れるけど手を出しにくい」ものだった。で、その企業とヒップホップの関係が、ある時期から変わっていきます。特に分かりやすいのがアルコール業界。今日は、ラッパーたちとリカービジネスの関係をたどりながら、その変化を見ていきたいと思います。クリスタルとかアルマンドとか、そのへんの話も出てきますよん(笑)。
♪ 番組ジングル
モルト・リカーと90年代ラッパーたち
さて、いまからだいたい30年ほど前の1996年、ラッパーのE-40、本名はEarl Stevensというんですが、彼はとある1日仕事で6万ドルという、それまでに受け取ったことのないような多額の報酬を手にします。何をやったかっていうと、サンフランシスコのMcKenzie River Corporationって会社に行って、その会社が製造してるモルト・リカー「St. Ides」のジングル録音とコマーシャル撮影をした。
お酒の会社がアーティストに商品の宣伝とかプロモーションとかを依頼するのはごく普通のことで、特に取り上げるほどの話ではないように思うでしょ?でも実は、このディールには当時のラッパーたちが置かれていた文化的、社会的状況が凝縮されてるんです。
そもそもモルト・リカーっていうのはアルコール度数が6〜9%くらいあるビールのことで、米国の通常のビールは平均4~5%なので、まあ、ビールとしては強め。通常のビールは12oz(355ml)で売られてるんだけど、モルト・リカーは大体40oz(1,183ml)の大瓶に入っていて、なので、スラングで '40 (forty)' って呼ばれたりもするんですけど、まあ簡単にいえば度数が高くて安い、手っ取り早く酔っ払うための酒なわけです(笑)。
ちなみに、E-40という名前は、彼が若い頃にこの '40 (forty)' をがっばがっば飲んでたことに由来します(笑)。'E' はもちろん彼のファーストネームですね。
で、この低予算で効率的に酔っ払いを生産するシステム(笑)を売り込む先は、必然的に経済的に豊かではない層、はい、皆さんご想像の通り、ブラックコミュニティですよね。McKenzie River Corporationとしては、当時まだ「社会の端くれものの音楽」とみなされていたヒップホップが持つ「ストリートのリアル」を利用して、安酒を黒人層に売りつける、っていう作戦だったわけです。
というわけで、St. IdesのキャンペーンはE-40以外にもNotorious B.I.G.、Wu-Tang Clan、Ice Cube、Rakim、2Pacなど、全米中のラッパーたちを次から次へと起用してラジオやテレビで流す短い曲とビデオを作らせて黒人層にアピールしていくわけですが、まあ、白人所有の企業が黒人文化を利用して黒人コミュニティにあんまり質の良くない酒を売って金を巻き上げて、ついでに酔っ払いを量産するって聞くと、決して人聞きの良い話ではないですよね(笑)。一つ聴いてみましょうか。St. Ides の30秒CM、これはBiggieのバージョンです。
そんな背景もあって、当時このキャンペーンは批判も受けたりもしたみたいです。ただね、この白人企業の行為に対して搾取的だっていうレッテルを貼るのは簡単なんだけど、実際には当時のラッパーたちとSt. Idesはある意味で共生関係にあった、っていうほうが正しい捉え方なのかもしれないんですよね。ラッパーたちはそれまで見たこともないような大金――日給6万ドルですよ――と、露出の機会を得ることができたし、St. Idesはラップのカウンターカルチャー的なクールさと、ヒップホップのファン層を獲得することができた。
E-40は最近のTASTEとのインタビューで「90年代は、俺たちにはほとんど選択肢なんてなかったんだよ。誰も俺たちに手を差し伸べてくれなかった。わかるだろ? 何もないところから道を作らなきゃいけなかったんだ。俺が今ここにいるのは、まるで高速道路で回転するホイールキャップみたいに必死でしがみついてきたからさ……何もないところから、全部自分たちで築き上げるしかなかったんだよ」と振り返ってます。当時はそれが彼らにとっての「這い上がる手段」だったんですよね。
ヒップホップ不遇の時代
当時のヒップホップは、まだまだ「不良の音楽」ってイメージから抜け出せてなかった。2025年のグラミーとかスーパーボウルとか、まったく想像もできないわけです(笑)。
ちなみに、当時のヒップホップコミュニティやブラックコミュニティでめちゃくちゃ流行ってたTimberland。もともとは森林労働者向けのワークブーツだったこのブランドは、ラッパーたちがこぞって履いたことでアメリカの都市部に広まってったんたけど、1993年に創業者の孫で当時の副社長、Jeffrey SwartzがThe New York Timesのインタビューにこう答えてます。「Timberlandは都市部の若者(特にブラックコミュニティ)を主要なターゲットにはしていない。我々のブーツは建設作業員やアウトドア好きのために作ってる」って(笑)。つまり、「うちはヒップホップとは関係ないよ」って距離を取ろうとしてた(笑)。この時期、ある種のブランドにとってヒップホップと近いってことは、マイナスだったわけです。
当時はラッパーたちがミュージックビデオでブランドを露出するのも難しかった。MTVとかのメディアは「無料広告になるからダメ」ってことで、たとえばアーティストが着てる服に映るロゴとかをぼかす方針を取ってたんだけど、これ、ヒップホップに対しては特に厳しかったって言われてます。ロックやポップスのアーティストならブランドとの結びつきが自然に受け入れられるのに、ラッパーがブランド名を出すと「商業主義すぎる」って批判が上がる、そんな時代だったんです。
(後編に続く)
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. 史上もっとも視聴されたハーフタイムショー
Kendrick Lamarの2025年スーパーボウル・ハーフタイムショーは、1億3,350万人の視聴者を記録し、スーパーボウル本体の1億2,600万人を上回り、史上最も視聴されたハーフタイムショーとなった。Lamarはソロラッパーとして初めてヘッドライナーを務め、2024年のアルバムGNXからのヒット曲を披露し、Samuel L. Jackson、SZA、Serena Williamsなどのスターが登場した。
2. ヒップホップとアルコール
1990年代初頭、Wu-Tang Clanが出演したSt. Idesの広告は、ヒップホップとアルコール業界の結びつきの始まりを象徴するものだった。このキャンペーンは、ヒップホップの商業的成長を示す一方で、貧困層出身のアーティストたちにとっては単なる「売り込み」ではなく、文化の正当性を確立する手段でもあった。St. Idesはヒップホップと本格的に結びついた初のブランドで、DJ Poohが制作を手がけ、アーティストたちは創造的自由を持ってストリート文化を反映させた広告を生み出した。しかし、その一方で未成年層への影響やアルコール広告の社会的問題も指摘され、議論を呼ぶことになる。
3. ブラックコミュニティと距離を置こうとするブランド
1993年、Timberland副社長(当時)のJeffrey Swartzが受けた「ターゲット顧客」に関する悪名高いNew York Timesインタビュー。「都市部の市場シェア」について尋ねられた際、彼は「ブラック(黒人)層の消費者はTimberlandの売上成長のわずか5%を占めるにすぎない」と主張した。しかし、この発言に対し、The Sourceのようなファッション誌の編集者たちは異議を唱えた。「彼ら(Timberland)は、黒人の都市コミュニティで自社の服が人気になると、ブランドがそのコミュニティが抱える問題と結びつけられ、ブランドの価値が下がると考えているのではないでしょうか」
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
今後の都市開発の必須要件となるのかーー。みなとみらいで「グリーン・マルチモビリティハブステーション」 実証実験開催中🌱🛴〜3/23まで
横浜市みなとみらい地区で昨年12月から実施されている「グリーン・マルチモビリティハブステーション」の社会実証実験は、EVカーシェアやシェアサイクルなどの多様な交通手段と、Wi-Fiや給電ポートを備えた滞留施設「POD」を組み合わせた取り組み。
この実証実験は、脱炭素と人に優しいまちづくりを融合させる新しい都市デザインの可能性を示唆するものですが、こうしたモビリティとくつろぎ空間の一体化は、環境に配慮しながら街の回遊性と滞在価値を高める方法として、これからの都市部の開発の必須要件になるとか、ならないとか。私たちの生活スタイルと共に考えていくべき興味深い試みだとは思います。
会期は3月23日(日)迄。私もまだ行けていないので駆け込むつもりです🐏
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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