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#002_Sheep 君はMalörtを知っているか?
シカゴ発、伝説の激マズ酒Malörtの全米展開。禁酒法時代を生き抜いた苦いリキュールは、ローカルカルチャーとメインストリーム化の狭間で揺れている。

“The Rest Is Sheep”は、デジタル時代ならではの新しい顧客接点、未来の消費体験、さらには未来の消費者が大切にする価値観を探求するプロジェクトです。
役に立つ話よりもおもしろい話を。旬なニュースよりも、自分たちが考えを深めたいテーマを――。
そんな思いで交わされた「楽屋トーク」を、ニュースレターという形で発信していきます。
🔍 Sheepcore
カルチャー、アート、テクノロジー、ビジネスなど、消費者を取り巻く多様なテーマをThe Rest Is Sheepのフィルターを通して紹介します。結論を出すことよりも、考察のプロセスを大切に。
君はMalörtを知っているか?
はいどうもー、こんばんは!日曜22:00を少し過ぎましたが、皆さまこの憂鬱な時間帯いかがお過ごしでしょうか?
私、先日とあるバーでMalörtというお酒を飲んできたんですけど、皆さんこのお酒ご存知ですか?飲むのが好きなリスナーの方ならご存知かも知れませんが、今週のThe Rest is Sheepは、ちょっと、いや、かなりクセのあるお酒、Malörtをテーマにお送りしていきたいと思います。
♪ 番組ジングル
えー、Malört、正式名称Jeppson's Malörtは、米国イリノイ州はシカゴからやってきた、というかまだ日本にはほとんどやってきてないんですが(笑)、クセ強なリキュールで、これ、一口飲んだら忘れられない味だと言われてるんですよ。実際どんな味かっていうことで、ググってみました。
「車のタイヤでできたストローでタンポポの蜜を吸ってる感じ」
「耳あかでできた森で起きた森林火災」
「ガスが充満して燃えたコンドームを丸呑み」
「グレープフルーツを一口かじった後にガソリンを一杯飲んだみたいな味」
とまあ、ほとんど大喜利状態で(笑)。これ、ニューヨーク・タイムズとか結構ちゃんとしたメディアですよ(笑)?「いやいや、ガソリンなんて飲んだこと無いじゃん!」みたいなツッコミは無粋、そんなもの一蹴してしまう強烈さこそがMalörtのMalörtたる所以なんですが、実は地元シカゴではかなり昔から愛されてきたお酒なんです。
シカゴに移住したスウェーデン人の移民、Carl Jeppsonさんという人が1930年代に祖国の伝統的なスタイルに思いを馳せつつニガヨモギを使って作った飲み物で、禁酒法時代を生き延びた唯一のお酒、なんてことも言われたりもしてるんですが、なんのことはない、誰もこれを酒だと思ってなくて、単に消化を助ける苦くて不味い薬だと思ってたっていう(笑)。それがいつの間にかシカゴっ子たちのソウル・リカーになってしまった。
で、このMalörtはつい最近までシカゴでしか飲めなかったんですが、この強烈な苦味が逆にクセになるって人も多くて、気づいたら「世界一まずい飲み物」っていう触れ込みとともにアメリカ中に広がってっちゃってね。
SNS見るとMalörtのショットを飲んだ直後の表情をポストする人がいたり(#malortface)、あとはまあこのメーカー自体のマーケティングも上手で、「世界一まずい飲み物」っていうのを逆手に取って、苦虫噛み潰したような顔ドアップの広告で、コピーは "Do Not Enjoy. Responsibly." っていう広告作ったりして、日本語で言うと「飲んじゃだめ。飲むなら自己責任で」って感じでしょうか、しかもこの広告の写真、何パターンかあるんですがすべて自社の従業員だという(笑)。いまは全米33州って言ってたかな?とにかく「世界一まずい飲み物」として話題になってるんですよね。

ざっくりとした歴史はこんな感じです。ではここで一曲はさみましょうか。大音量でこの曲聞きながらMalört飲みたいっすねー、シカゴと言えば、カニエ・ウエスト!ではなく(笑)、アース・ウィンド・アンド・ファイアーで『セプテンバー』
♪ "September" Earth, Wind & Fire
さてさて、そんな感じでここ最近Malörtが話題になってるわけですが、どうやら「嬉しいけど、ちょっと複雑」っていう気持ちになっているシカゴアンたちも多いみたいですね。まあ、シカゴの人たちにとってMalörtは自分たちだけの特別な飲み物だったから、それが全国の人たちに知られるようになったのは嬉しいけど、「シカゴの魂」は薄まっちゃって、自分たちのものじゃなくなっちゃうんじゃないかと。
いやあ、そうですよねー、ついこないだまで地元の路上で「ここがおれたちのホームだぜぇ!」って、いま、居場所と書いてホームって読んだんですが(笑)、そんなノリでストリートライブやってたような連中がいつの間にかメジャーデビューしてミュージックステーション出て「全国の皆さーん、こんばんは~」みたいな(笑)。「おまえら魂売りやがったな」と(笑)。Malörtが全国で売られるようになれば、いろんな人がその良さ、というか不味さ(笑)を体験できるようになるけど、「Malörtはシカゴのものだ」っていう特別感は薄まってしまうかもしれない。スシしかりキモノしかり分野問わずローカル・マイクロ・カルチャーあるあるなわけだけど、ローカル性と深く結びついたカルチャーがメインストリームに車線変更したときにその「本物らしさ」を維持するのはなかなか難しい。
ただ、Malörtの場合はCarl Jeppson Companyっていう特定の企業が製造してる商品なので、彼らがブランドのダイリューションを回避すべくコントロールすることはできると思うんですよね。全国で売れ始めたからって安易に工場拡張して大量生産、大量流通に走ったりしないとか、自分たちが大事にしてきた価値観や商品の原点を忘れずに、「おれたちはシカゴで生まれたヤバいリキュールなんだ」っていうストーリーテリングを発信し続けるとか、州外のバーともそういった視点で連携していくとか、そういったことが大事になるんでしょうね。ローカル文化がもともと生まれ、根付いていた場所を超えて広がっていく際のcultural appropriation、文化の盗用問題とかについてもいつかまたこの番組で取り上げたいと思います。
さてそろそろお別れの時間が近づいてまいりました。小難しい話はさておき、Malörtは確かにクセが強い酒だけど、その裏には独特の生い立ちとシカゴの人々の熱い思いが詰まっていて、今日話したような背景を知ったうえで飲むと一段とその不味さもひとしおなので(笑)もし興味持った人がいたらぜひ一度試してみてください。 で、実際飲んでみてオマエはどんな味だと思ったかって?ええと、私は「鉛筆の削りかすと失恋の味」に一票です(笑)。それではまた来週。
♪ "Hard to say I'm sorry" Chicago

©️The Rest Is Sheep
🐏 Behind the Flock
“Sheepcore”で取り上げたテーマをさらに深掘りしたり、補完する視点を紹介します。群れの中に隠された本質を探るようなアプローチを志向しています。
1. 「世界一まずい飲み物」をどうやって売るか。
もしあなたがChicagoに行ったことがあるなら、既にMalörtの犠牲者になっているかもしれない。どうして、ゴムが燃えたような味の飲み物を好んで飲む人がいるんだろう?しかし、私たちが抱える最大の疑問は「世界一まずい飲み物」を一体どうやって売るのか?ということだ。かつて『エスキモーに氷を売る』という書籍があったが、Malörtの場合は『世界一まずい飲み物を売る』だ。
2. Malörtの「グロさ」は薄まってしまったのか?
製造がフロリダからシカゴに移り、商品流通がシカゴから全米へ広がるとともにMalörtの牙は抜かれ、その「醜悪さ」は薄まってしまったのか。真偽、あるいは良し悪しはさておきこうしたカルトなプロダクトほど「本物であること」を巡る議論はヒートアップする。
3. シカゴの定番ダイブ・バー・ガイド。
「幽霊屋敷とバーが合体したような場所」(L&L Tavern)
「この店は中も外も高圧洗浄した方が良いな。まあ、また来るわ」(Sovereign Liquors)
「おばあちゃんの家の地下室にいるような気分になるが、バーもあった」(Rose’s Lounge)
各店のMalörtの有無がわかるChicago Dive Barガイド(→ 大体ある)。ついでに、過去に強盗に襲われたかどうか、殺人が起きたかどうかもわかって便利。
🫶 A Lamb Supreme
The Rest Is Sheepsが日常で出会った至高(笑)の体験をあなたにも。
今年シカゴで開催された民主党全国大会のプロモーションの一環として、J.B. プリツカー イリノイ州知事がMalörtを大会の「非公式なショット」として推奨。シカゴの文化的アイコンとしてユーモアを上手く表現していると話題になったようです!笑
すべての誤字脱字は、あなたがこのニュースレターを注意深く読んでいるかを確認するための意図的なものです🐑
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